満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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石口由香里 編

隣に立つ営業マンが婚約者と重なる

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最後の抵抗とはなにか。

彼はきっと今の飲み会が終わったら、伊勢原から電車で帰るはず。

だから駅で待つ。

そして、想いを伝えるんだ。

これがラストチャンス。

ちゃんと私から謝ろう。

今まで自分から謝ったことなんてほとんど無かったけど、今回ばかりは誠心誠意謝ろう。

それでダメだったら仕方ない。

それでも諦めきれないかもしれないけど、やれることは最後までやるんだ。

昔から諦めは悪い女なんだ。


そんな私を乗せて満員電車はゆっくりと動き出した。

相変わらず義明への想いが溢れて止まらず、吊り革に捕まりながらポロポロと涙を流す。

そんな女を気遣ってか、目の前に座るサラリーマン風の男性はこちらをチラッ、チラッと見て、席を譲るべきか迷っている。

(同情するなら席くれよ……。ストレスで倒れそう……)

逆に満員電車だから背中側の人に寄りかかれるが、そうでなければこの揺れに耐えられそうになかった。

そんな状態でいた頃、私の左前に座っていた20代半ばくらいの営業職っぽいスーツのサラリーマンが、老婆に席を譲った。

男性は立ち上がると私の横の吊り革に捕まって老婆と話し始めた。

「ありがとうございます……。お仕事でお疲れでしょうに……すみませんねぇ」

「いえいえ」

「すぐ降りるんだったら遠慮するんですけれど、なにぶん私の家が伊勢原なものですから。すみませんねぇ……」

(このおばあちゃんも伊勢原に行くのね。彼、どこまで行くか知らないけれど、ちょっと可哀想)

でも、譲ってあげる彼は優しいなと思った。

まるで義明みたい。

(うっ……うっ……)

また想いが溢れ出した。
ズズズっ。


発車から10分くらい経った頃、左側から急に圧力を感じた。

さっきの営業サラリーマンが私を右側に押してきている。

(揺れが強いから、入り口付近の人に押されてるのね)

右側を見ると、女子高生が立っている。

私は彼の圧力に合わせて、学生さんを少しずつ押していった。

すると、営業くんは先程まで私が立っていた吊り革に無事スライドできた。

私は学生の子が立っていた吊り革にスライドした。

(満員電車で同じ位置に無理に留まると大きな揺れで座っている人に倒れ込んだりしちゃうから、空間に合わせて少しずつ足場を移動しないと危ないのよね)

さっき営業くんがやってたみたいに、足先で靴と靴の間のわずかな空間を見つけながら慎重に移動する。

(そういえば義明も物事を決める時はいつも慎重だったな……。この営業くん、ほんとに義明みたい……)

「ぐすっ……」

(うっ……うっ……)

また涙が溢れ出す。








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