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石口由香里 編
電車内で号泣する女
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仕事を休んでまで孝之に天誅を下した私だったが、心が晴れることは無かった。
むしろ奥さんの気持ちを考えるとひどいことをして苦しめてしまった気にすらなっていた。
(ごめんね……ごめんねぇ……)
心の中で奥さんに謝りながら合掌した。
何気なくスマホでFacebookを見ると、義明の友人の投稿が表示される。
アップされたのは今から21分前。
今日はどうやら親戚の伊勢原の家を借りて飲み会をしているらしい。
『傷心の男を癒すべく、みんな休み取って三中メンバー集合!多少の未練はあるようだけど、意外と落ち込んでなくて安心した✨そういう経験も経て男になっていくのさ😆皆さん、やっぱこいつ良い奴です!誰かデート誘ってあげて😂』
この傷心の男というのは、恐らく義明のことだろう。
私は、私に見られる可能性を考慮しないこの友人にイラッとしつつも、『多少の未練はあるようだけど』という一文を見て、最後の悪あがきを思いついた。
(向かおう……!伊勢原へ……!)
私は軽く身だしなみを整えると、自宅を後にした。
清澄白河の自宅から、伊勢原までの最速のルートを検索してみる。
すると、一度大江戸線で新宿西口に出て、そこから新宿まで歩き、小田急線に乗るのが一番早いルートだった。
急いで乗り継ぎ、今は新宿の小田急線へ向かっていた。
時刻は18時15分。
ここ数日、ストレスからか、自分が自分でないようなふわふわした感覚を覚える。
(なんかホント、現実と思えない……)
このままだと仕事に支障が出るのはもちろん、体も心も壊してしまいそうだった。
そんなことを考えながら小田急線に到着すると、お祭りかと思うほどの人混み。
これが帰宅ラッシュの小田急線か、と初めて知った。
(体に力が入らない……)
ホームに並びながら、倒れてしまいそうな感覚に陥る。
そこへ伊勢原へ最速で行ける小田原行きが到着した。
(さすがに座れないわよね……)
中に入ると、案の定座れなかった。
仕方なく入り口すぐの7人掛けの席の吊り革に捕まった。
(なんで私はふらふらになってこんな帰宅ラッシュの電車に乗ってるんだろう……)
本当であれば、今頃は義明と結婚式場を選んだり、ハネムーンはどこに行こうか相談したり、毎日楽しく過ごしていたはずだ。
彼も背伸びしてアイデアを出すけれど、私はそれを一蹴して「やっぱりハワイ!」と決めるんだ。
「最初から決めてたんだったら言ってよ……」とはにかんで笑う義明の笑顔が想像できる。
(うっ……ヤバい……涙が……!)
自分でもおかしい奴だと思うくらい、大粒の涙がボロボロと溢れてくる。
「……っ。ひくっ……。ズズズっ」
堪えきれない涙と一緒に鼻水まで出てくる。
急いで出てきてしまったため、私としたことがハンカチも忘れてきてしまった。
自分の涙で一瞬冷静になりかけたが、こんな時、義明だったら「どうしたの?」と肩を抱いてくれたはず。
そう思うとまた涙が溢れてくる。
(義明……!義明……!私、やっぱり諦めたくない!大好きなんだから……!)
そうだ。
私は最後の抵抗をするために伊勢原に向かっている。
むしろ奥さんの気持ちを考えるとひどいことをして苦しめてしまった気にすらなっていた。
(ごめんね……ごめんねぇ……)
心の中で奥さんに謝りながら合掌した。
何気なくスマホでFacebookを見ると、義明の友人の投稿が表示される。
アップされたのは今から21分前。
今日はどうやら親戚の伊勢原の家を借りて飲み会をしているらしい。
『傷心の男を癒すべく、みんな休み取って三中メンバー集合!多少の未練はあるようだけど、意外と落ち込んでなくて安心した✨そういう経験も経て男になっていくのさ😆皆さん、やっぱこいつ良い奴です!誰かデート誘ってあげて😂』
この傷心の男というのは、恐らく義明のことだろう。
私は、私に見られる可能性を考慮しないこの友人にイラッとしつつも、『多少の未練はあるようだけど』という一文を見て、最後の悪あがきを思いついた。
(向かおう……!伊勢原へ……!)
私は軽く身だしなみを整えると、自宅を後にした。
清澄白河の自宅から、伊勢原までの最速のルートを検索してみる。
すると、一度大江戸線で新宿西口に出て、そこから新宿まで歩き、小田急線に乗るのが一番早いルートだった。
急いで乗り継ぎ、今は新宿の小田急線へ向かっていた。
時刻は18時15分。
ここ数日、ストレスからか、自分が自分でないようなふわふわした感覚を覚える。
(なんかホント、現実と思えない……)
このままだと仕事に支障が出るのはもちろん、体も心も壊してしまいそうだった。
そんなことを考えながら小田急線に到着すると、お祭りかと思うほどの人混み。
これが帰宅ラッシュの小田急線か、と初めて知った。
(体に力が入らない……)
ホームに並びながら、倒れてしまいそうな感覚に陥る。
そこへ伊勢原へ最速で行ける小田原行きが到着した。
(さすがに座れないわよね……)
中に入ると、案の定座れなかった。
仕方なく入り口すぐの7人掛けの席の吊り革に捕まった。
(なんで私はふらふらになってこんな帰宅ラッシュの電車に乗ってるんだろう……)
本当であれば、今頃は義明と結婚式場を選んだり、ハネムーンはどこに行こうか相談したり、毎日楽しく過ごしていたはずだ。
彼も背伸びしてアイデアを出すけれど、私はそれを一蹴して「やっぱりハワイ!」と決めるんだ。
「最初から決めてたんだったら言ってよ……」とはにかんで笑う義明の笑顔が想像できる。
(うっ……ヤバい……涙が……!)
自分でもおかしい奴だと思うくらい、大粒の涙がボロボロと溢れてくる。
「……っ。ひくっ……。ズズズっ」
堪えきれない涙と一緒に鼻水まで出てくる。
急いで出てきてしまったため、私としたことがハンカチも忘れてきてしまった。
自分の涙で一瞬冷静になりかけたが、こんな時、義明だったら「どうしたの?」と肩を抱いてくれたはず。
そう思うとまた涙が溢れてくる。
(義明……!義明……!私、やっぱり諦めたくない!大好きなんだから……!)
そうだ。
私は最後の抵抗をするために伊勢原に向かっている。
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