満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

文字の大きさ
上 下
9 / 53
井口泰平 編

絶対に座るための神作戦

しおりを挟む
老婆に席を譲ってからおよそ10分後。

この位置にいる限り座れないことが確定してしまった俺。

無情にも代々木上原、下北沢、登戸と時間だけが経過していく。

(くっ……!足が痛いっ……!)

とりあえず右を向くと、涙目でグズグズと鼻を啜る女が立っている。

(なんだこいつ……。なんで車内で泣いてんの……)

なんか知らんが、とにかくこいつをもっと右にズラすしかない……と決意を固める。

そう、俺は転んでもタダでは起きないタイプ。

瞬時に作戦を練り直していた。

電車の衝撃や押されたフリをしながら隣の女が今いる場所を奪う。

伊勢原居住の老婆の席の目の前という救いの無い"デススポット"を一刻も早く抜け出し、少しでも可能性のある隣の席の前の吊り革にスライドするのだ。

女はズラされるが、老婆側に倒れるわけではないから許してくれるだろう、と考えた。

(行くしかねぇ!)

グイッグイッと徐々にズラしていく。

少し強引だが、揺れに乗じて、押す。

押す。押す。押す。

いつもなら不快な強い揺れも、今はありがたい。

ぐいっぐいっぐいっ。

そしてついに老婆の目の前の吊り革から脱出し、隣の席の前の吊り革への移動に成功した。

(っっっしゃ!!!さよなら、おばあちゃん!!!)

「次は新百合ヶ丘、新百合ヶ丘です」

車内アナウンスが響く。

すると、なんと押してズレた女の前の席に座っているイヤホンを付けた若い男が、後ろを振り返って窓の外の景色を見る。

そして、見ていたスマホを胸ポケットにしまって前を向いた。

(これは……降りる!!)

その瞬間、泰平は隣の女をさらに右へズラそうと強引に押していく。

新百合まであと2分。

(その間にもう一つズラせれば、俺の勝ちだ。悪いな、女。貴様に座る権利は無い。立ってグズグズ泣いていろ)

ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ。

しかしなんと、ここにきて女が意外な脚力を見せ、抵抗してきた。

(くっ……!なんだこいつは!?)

くるっ。

女は涙で濡れた目で俺を見つめると、明らかな敵意のこもった視線を向けてきた。

(こっ、こいつ……!どかない気か!!)

俺と女の一騎打ちが始まった。




井口泰平編
coming soon……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...