7 / 53
井口泰平 編
電車を一本遅らせてでも確実に座る男
しおりを挟む
(なんで連日、本厚木なんかに……!)
戸崎に一報入れて新宿の小田急線に向かいながら俺は強い不満を感じていた。
すでに営業活動と連日の深夜までの疲労で足は限界。
そしてこれから銀だこ&ハイボール酒場での立ち飲み。
いくらなんでもひどすぎないか。
酒好きの戸崎との飲み会なのだから、当然のことながら23時~0時くらいまでは覚悟しなければならない。
(ヤバい、足が壊死してしまう……)
本当に内出血とかしてるんじゃないかと思えるくらい、足の痛みは尋常じゃなかった。
(なんとか座らなければ……)
時刻は18時15分。
ちょうど帰宅ラッシュの時間帯。
車内乗車率は体感で150%を超えるほどギュウギュウになることで有名な小田急線。
ただ、今日は幸い始発駅の新宿なので、一本見送ってでも一番前に並べば確実に座ることができる。
そう考えた俺はわざわざ一本見送って、ホームの一番前に陣取っていた。
(少しでも疲労を抜いておかなければ……)
本厚木までの1時間弱だけでも座ったり仮眠を取れればなんとか今日を耐えられる。
そんなことを考えていると、本厚木まで一番早く行く小田原行きが到着した。
扉が開いた瞬間、泰平は体を車内に滑り込ませ、一区画4人までの特権である端の席に腰掛けた。
(ふぃ~~。ひとまず落ち着けた……)
後には雪崩のように人が入ってきて、すぐにギュウギュウ詰めになった。
昨日も思ったが、この状態は町田辺りまで続く。
下北、登戸、新百合ヶ丘など人が降りる駅はあるものの、同じくらい乗ってくるため、結果、落ち着くのは町田より先。
そこまで立っていなければならないのは地獄の苦痛だった。
(一本遅らせる判断は正解だ。後は眠りにつけば……)
泰平がそうして目を閉じようとした瞬間、音がした。
ズズズッ。
(…?)
気づくと、20代後半くらいの女性が泰平の席の斜め前に立っていた。
どうやら鼻をすすっているのか、先ほどからウェッティーな音が聞こえている。
「…ハッ…ズズズ…」
(…泣いている?)
体調が優れないのかと少し気にはなったが、彼女が立つのはあくまでも俺の"斜め前"。
つまり俺の隣に座るサラリーマン風の男が"譲らなければならない業"を背負った者である。
(つまり俺に、関係なし!!)
女の涙の理由には大して気に留めなかった。
が、次の瞬間、目の前にさらに恐ろしいものを発見してしまう。
それは、帰宅ラッシュに紛れる、老婆の姿だった。
(ぎっ……!)
戸崎に一報入れて新宿の小田急線に向かいながら俺は強い不満を感じていた。
すでに営業活動と連日の深夜までの疲労で足は限界。
そしてこれから銀だこ&ハイボール酒場での立ち飲み。
いくらなんでもひどすぎないか。
酒好きの戸崎との飲み会なのだから、当然のことながら23時~0時くらいまでは覚悟しなければならない。
(ヤバい、足が壊死してしまう……)
本当に内出血とかしてるんじゃないかと思えるくらい、足の痛みは尋常じゃなかった。
(なんとか座らなければ……)
時刻は18時15分。
ちょうど帰宅ラッシュの時間帯。
車内乗車率は体感で150%を超えるほどギュウギュウになることで有名な小田急線。
ただ、今日は幸い始発駅の新宿なので、一本見送ってでも一番前に並べば確実に座ることができる。
そう考えた俺はわざわざ一本見送って、ホームの一番前に陣取っていた。
(少しでも疲労を抜いておかなければ……)
本厚木までの1時間弱だけでも座ったり仮眠を取れればなんとか今日を耐えられる。
そんなことを考えていると、本厚木まで一番早く行く小田原行きが到着した。
扉が開いた瞬間、泰平は体を車内に滑り込ませ、一区画4人までの特権である端の席に腰掛けた。
(ふぃ~~。ひとまず落ち着けた……)
後には雪崩のように人が入ってきて、すぐにギュウギュウ詰めになった。
昨日も思ったが、この状態は町田辺りまで続く。
下北、登戸、新百合ヶ丘など人が降りる駅はあるものの、同じくらい乗ってくるため、結果、落ち着くのは町田より先。
そこまで立っていなければならないのは地獄の苦痛だった。
(一本遅らせる判断は正解だ。後は眠りにつけば……)
泰平がそうして目を閉じようとした瞬間、音がした。
ズズズッ。
(…?)
気づくと、20代後半くらいの女性が泰平の席の斜め前に立っていた。
どうやら鼻をすすっているのか、先ほどからウェッティーな音が聞こえている。
「…ハッ…ズズズ…」
(…泣いている?)
体調が優れないのかと少し気にはなったが、彼女が立つのはあくまでも俺の"斜め前"。
つまり俺の隣に座るサラリーマン風の男が"譲らなければならない業"を背負った者である。
(つまり俺に、関係なし!!)
女の涙の理由には大して気に留めなかった。
が、次の瞬間、目の前にさらに恐ろしいものを発見してしまう。
それは、帰宅ラッシュに紛れる、老婆の姿だった。
(ぎっ……!)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる