満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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井口泰平 編

電車を一本遅らせてでも確実に座る男

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(なんで連日、本厚木なんかに……!)

戸崎に一報入れて新宿の小田急線に向かいながら俺は強い不満を感じていた。

すでに営業活動と連日の深夜までの疲労で足は限界。

そしてこれから銀だこ&ハイボール酒場での立ち飲み。

いくらなんでもひどすぎないか。

酒好きの戸崎との飲み会なのだから、当然のことながら23時~0時くらいまでは覚悟しなければならない。

(ヤバい、足が壊死してしまう……)

本当に内出血とかしてるんじゃないかと思えるくらい、足の痛みは尋常じゃなかった。

(なんとか座らなければ……)


時刻は18時15分。

ちょうど帰宅ラッシュの時間帯。

車内乗車率は体感で150%を超えるほどギュウギュウになることで有名な小田急線。

ただ、今日は幸い始発駅の新宿なので、一本見送ってでも一番前に並べば確実に座ることができる。

そう考えた俺はわざわざ一本見送って、ホームの一番前に陣取っていた。

(少しでも疲労を抜いておかなければ……)

本厚木までの1時間弱だけでも座ったり仮眠を取れればなんとか今日を耐えられる。

そんなことを考えていると、本厚木まで一番早く行く小田原行きが到着した。

扉が開いた瞬間、泰平は体を車内に滑り込ませ、一区画4人までの特権である端の席に腰掛けた。

(ふぃ~~。ひとまず落ち着けた……)

後には雪崩のように人が入ってきて、すぐにギュウギュウ詰めになった。

昨日も思ったが、この状態は町田辺りまで続く。

下北、登戸、新百合ヶ丘など人が降りる駅はあるものの、同じくらい乗ってくるため、結果、落ち着くのは町田より先。

そこまで立っていなければならないのは地獄の苦痛だった。

(一本遅らせる判断は正解だ。後は眠りにつけば……)

泰平がそうして目を閉じようとした瞬間、音がした。


ズズズッ。


(…?)



気づくと、20代後半くらいの女性が泰平の席の斜め前に立っていた。

どうやら鼻をすすっているのか、先ほどからウェッティーな音が聞こえている。

「…ハッ…ズズズ…」

(…泣いている?)

体調が優れないのかと少し気にはなったが、彼女が立つのはあくまでも俺の"斜め前"。

つまり俺の隣に座るサラリーマン風の男が"譲らなければならない業"を背負った者である。

(つまり俺に、関係なし!!)

女の涙の理由には大して気に留めなかった。

が、次の瞬間、目の前にさらに恐ろしいものを発見してしまう。

それは、帰宅ラッシュに紛れる、老婆の姿だった。

(ぎっ……!)


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