19 / 53
石口由香里 編
婚約破棄の理由はわかりましたが、イヤです
しおりを挟む
11月4日水曜日。
翌日、義明は私の家に19時にやってきた。
長居する気はないのか、食事や飲み物の類は一切買ってきていない。
「お邪魔します」
一言断ると私が教えた"もたもたしない入室"を実践する義明。
(最初は靴を揃えたり整えるマナーを意識し過ぎて、ものすごく上がるのが遅かったのよね)
でも、そんな微笑ましい思い出は過去のもの。
そして今後共有することもできないと思うと、また自然と涙が溢れそうになった。
「どうぞ」と義明も何度も来たリビングへ案内すると、私は「コーヒーで良い?」と聞いた。
「いや、すぐ行くから」
義明はハッキリと断った。
昨日の電話の時はもう少し申し訳なさそうな感じだったが、今日は迷いが一切ない口調で言った。
1日でこの変わりよう。
私は元通りになる可能性は無いことを最初の1分で悟ったのだった。
そこから義明はすべてを話してくれた。
ーーー私には感謝しているけれど、自分をもっと頼ってほしかったこと。
さらに男として勇気を出したプロポーズまで保留されてとても悲しかったこと。
一昨日、深夜の神保町で私と男性がホテルに入って行くのを義明の友人の谷くんが見かけて連絡してくれたこと。
仕事の取材とかだと信じていたけれど、ホテルに入って1時間くらいで電話したのに出てくれなかったこと。
一緒にいるべきなのは私じゃないと確信したこと。
私への気持ちが離れたことで、いつも良くしてくれる職場の女性が少し気になってきたこと。
それでも義明は私を責めることはしなかった。
「プロポーズを受けてもらえなかったのも、由香里さんの気持ちが離れてしまったのも、自分の不甲斐なさが原因だ」
彼は最後まで、優しい彼だった。
でも、決断が早すぎる。
まだ義明から「なんで浮気したの?」とか、何も聞かれてない。
それなのにいきなり別れるのは唐突過ぎると思う。
「義明、私がホテルに行ったのは本当よ。でも何で問い詰めないの……?いきなり別れるってそんな……」
私は自分が悪いのは承知の上で聞いてみる。
すると義明は俯きながら言った。
「ホテルの件は聞きたくない。由香里さんのこと嫌いになりそうだから。僕は由香里さんのこと、嫌いになりたくない。それから……」
義明は矢継ぎ早に言った。
「嘘をつかれたから」
「う、嘘?」
私は思い返してみるが思いつかなかった。
「昨日の朝のLINE。由香里さんは家にいるって」
確かに言った。
「あ、あれは……」
言い訳が思いつかない。
「それが一番の理由かな。嘘をつかないといけない関係じゃ、これからの結婚生活は難しいと思った」
直接浮気したことが理由じゃないという。
そんな優しい人を失ってしまった後悔は大きい。
それからも色々と話したが、まだ義明は気になっている女性には気持ちを伝えたり、そういう関係になったりしていないらしい。
思えば義明が一度転職した時も、転職先の内定が出る前に、自分の会社には不義理はしたくないという理由で社長に退職の意向を伝えていた。
それほど彼は義理人情に厚く、できた男だった。
私とは大違い。
これはダメだ。
改めて自分の情けなさを突きつけられただけだ。
頼りないなんて嘘。
本当は誰よりも優しくて、心の奥底には強さがある。
でも、私はそんなに強くない。
だから、最後まで甘えさせてもらうんだ。
「とにかく絶対にイヤ!!!」
翌日、義明は私の家に19時にやってきた。
長居する気はないのか、食事や飲み物の類は一切買ってきていない。
「お邪魔します」
一言断ると私が教えた"もたもたしない入室"を実践する義明。
(最初は靴を揃えたり整えるマナーを意識し過ぎて、ものすごく上がるのが遅かったのよね)
でも、そんな微笑ましい思い出は過去のもの。
そして今後共有することもできないと思うと、また自然と涙が溢れそうになった。
「どうぞ」と義明も何度も来たリビングへ案内すると、私は「コーヒーで良い?」と聞いた。
「いや、すぐ行くから」
義明はハッキリと断った。
昨日の電話の時はもう少し申し訳なさそうな感じだったが、今日は迷いが一切ない口調で言った。
1日でこの変わりよう。
私は元通りになる可能性は無いことを最初の1分で悟ったのだった。
そこから義明はすべてを話してくれた。
ーーー私には感謝しているけれど、自分をもっと頼ってほしかったこと。
さらに男として勇気を出したプロポーズまで保留されてとても悲しかったこと。
一昨日、深夜の神保町で私と男性がホテルに入って行くのを義明の友人の谷くんが見かけて連絡してくれたこと。
仕事の取材とかだと信じていたけれど、ホテルに入って1時間くらいで電話したのに出てくれなかったこと。
一緒にいるべきなのは私じゃないと確信したこと。
私への気持ちが離れたことで、いつも良くしてくれる職場の女性が少し気になってきたこと。
それでも義明は私を責めることはしなかった。
「プロポーズを受けてもらえなかったのも、由香里さんの気持ちが離れてしまったのも、自分の不甲斐なさが原因だ」
彼は最後まで、優しい彼だった。
でも、決断が早すぎる。
まだ義明から「なんで浮気したの?」とか、何も聞かれてない。
それなのにいきなり別れるのは唐突過ぎると思う。
「義明、私がホテルに行ったのは本当よ。でも何で問い詰めないの……?いきなり別れるってそんな……」
私は自分が悪いのは承知の上で聞いてみる。
すると義明は俯きながら言った。
「ホテルの件は聞きたくない。由香里さんのこと嫌いになりそうだから。僕は由香里さんのこと、嫌いになりたくない。それから……」
義明は矢継ぎ早に言った。
「嘘をつかれたから」
「う、嘘?」
私は思い返してみるが思いつかなかった。
「昨日の朝のLINE。由香里さんは家にいるって」
確かに言った。
「あ、あれは……」
言い訳が思いつかない。
「それが一番の理由かな。嘘をつかないといけない関係じゃ、これからの結婚生活は難しいと思った」
直接浮気したことが理由じゃないという。
そんな優しい人を失ってしまった後悔は大きい。
それからも色々と話したが、まだ義明は気になっている女性には気持ちを伝えたり、そういう関係になったりしていないらしい。
思えば義明が一度転職した時も、転職先の内定が出る前に、自分の会社には不義理はしたくないという理由で社長に退職の意向を伝えていた。
それほど彼は義理人情に厚く、できた男だった。
私とは大違い。
これはダメだ。
改めて自分の情けなさを突きつけられただけだ。
頼りないなんて嘘。
本当は誰よりも優しくて、心の奥底には強さがある。
でも、私はそんなに強くない。
だから、最後まで甘えさせてもらうんだ。
「とにかく絶対にイヤ!!!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる