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石口由香里 編
婚約破棄にブチギレる
しおりを挟む「あのプロポーズなんだけど、無かったことにしてほしいんだ」
「ア"?」
心の状態をそのまま写すかのように、魔物のような声が出た。
「い、いや……ごめん!い、いや、ごめんじゃないか……。うん……。もう決めたんだ」
「決めたってどういうこと?私、何も聞いてないよ?」
唐突すぎるプロポーズ破棄に狼狽しながら、私はさっきまで気持ちよかった酔いがサーッと引いていくのを感じていた。
「自分勝手なことを言っているのはわかってる。ごめん」
義明が声を殺して言う。
「ほんとだよ!!自分からプロポーズしておいて、返事も待たずにやっぱやめるって何!?そんなの聞いたことない!!」
気づいたら、私は涙を流して絶叫していた。
やっぱり彼が好きだ。
「ごめん」
「ごめんじゃねーよ!!責任取れよ!!」
好き。大好き。
「自信の無かった僕が、ここまで自信を付けられたのは、間違いなく由香里さんのおかげだ。ありがとう」
「やめろよ!終わりじゃねーんだよ!!」
付き合って1年半。
自信の無かった頃も、今も。
ずっと大好き。
「これまで、ありがとう」
「イヤ……。会って話ししないと納得できない」
彼の声で、彼が本気であることはわかる。
決定的だ。
でも、私は無様だとわかりながら意味不明な別れに抵抗する。
「……わかった。明日、由香里さんの家に行ってちゃんと話をさせて。19時とかどう?」
義明は私の都合を気にかけながら、しっかり話すと約束した。
「……うん」
私は渋々納得せざるを得なかったが、まだ1ミリでも義明が考え直す可能性があるのなら、と諦めることはしなかった。
電話を切ってから自分の顔を鏡で見る。
そこには怒りとも悲しみとも言えない表情を浮かべて涙を流す、お世辞にもキレイとは言えない女が立っていた。
「くっ……。はっ……ひぐっ……」
今夜はまだまだ感情が抑えられそうになかった。
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