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石口由香里 編
婚約者の電話を無視して体を重ねる私は最低ですか?
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孝之が何社か転職する中で、名古屋に引っ越したのは3年前に飲んだときに知っていた。
だから、今日も出張で来てるんだろうな、というのは気づいていた。
が、部屋にまで誘われるとは思っていなかった。
しかも結果的に既婚者と体を重ねてしまうことになるとも思っていなかった。
(私は独身とはいえ、義明にちょっと悪いことした……)
私はベッドの上で膝を抱えながら俯いた。
でも、義明との関係がギクシャクしていたからか、無心で孝之に体を預けて、抱きしめられている時は何も考えずに済む安心感が確かにあった。
「お互い大人だから2人だけの秘密ね!」
賢者モードに入った彼は、さっきまでのムーディーな態度とは打って変わって、奥さんにバレないように冷静に口止めしてきていた。
「言わないわよ。私だって婚約するかどうかの瀬戸際なんだから。孝之こそ詰めが甘いんだから気をつけなさいよ」
「わかってるってー!」
そう言って冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出し、私のほっぺたに押し付けてきた。
「冷たっ」
「ははは!」
ペットボトルを受け取り、ごくごくと1/3くらい飲んだ。
「俺、やっぱ由香里との相性が一番良いわ。今の奥さんとか全然合わないし」
私もそれは思っていた。孝之との相性は良い。
「そうね。でも私、孝之とどうにかなる気も無いし、奥さんにも悪いから、こういうのは今回だけにした方が良いと思う」
「いや、俺も子供もいるし、離婚する気はないんだ。それに由香里もこれから結婚するでしょ?だから、今の距離感で、お互いの時間が合えばこの幸せな関係を続けられたら良いなって」
完全にセフレを作る時の常套句。
これから結婚する女に対して、まだ会おうと言える神経の図太さに感心する。
『今の距離感』とか『お互い良い人は別にいる』とか、それっぽいことを言って、要はタダで使える性の捌け口をキープしておきたい、ということだ。
そんなゴミクズのような人間に騙されて、それでもこの関係は残しておきたいと思う私も、同じくゴミクズだった。
その時、鞄の中のスマホのバイブが聞こえた。
慌てて手繰り寄せると、切望していた義明からの着信だった。
「出たら?」
何も考えずに孝之が言うが、今出てしまって重要な話をここでするのも嫌だし、会話の流れで自宅でないことがバレるのも問題だ。
時刻は0時25分。
終電にはもう間に合わない。
(こんな遅い時間にかけてくる義明が悪いんだから……)
私は寝ていると思わせるのが最善だと思い、バイブが消えるまでスマホの表示を眺めていた。
その日の夜は、孝之との体の相性の良さを噛み締めるように、第3ラウンドまで続いた。
だから、今日も出張で来てるんだろうな、というのは気づいていた。
が、部屋にまで誘われるとは思っていなかった。
しかも結果的に既婚者と体を重ねてしまうことになるとも思っていなかった。
(私は独身とはいえ、義明にちょっと悪いことした……)
私はベッドの上で膝を抱えながら俯いた。
でも、義明との関係がギクシャクしていたからか、無心で孝之に体を預けて、抱きしめられている時は何も考えずに済む安心感が確かにあった。
「お互い大人だから2人だけの秘密ね!」
賢者モードに入った彼は、さっきまでのムーディーな態度とは打って変わって、奥さんにバレないように冷静に口止めしてきていた。
「言わないわよ。私だって婚約するかどうかの瀬戸際なんだから。孝之こそ詰めが甘いんだから気をつけなさいよ」
「わかってるってー!」
そう言って冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出し、私のほっぺたに押し付けてきた。
「冷たっ」
「ははは!」
ペットボトルを受け取り、ごくごくと1/3くらい飲んだ。
「俺、やっぱ由香里との相性が一番良いわ。今の奥さんとか全然合わないし」
私もそれは思っていた。孝之との相性は良い。
「そうね。でも私、孝之とどうにかなる気も無いし、奥さんにも悪いから、こういうのは今回だけにした方が良いと思う」
「いや、俺も子供もいるし、離婚する気はないんだ。それに由香里もこれから結婚するでしょ?だから、今の距離感で、お互いの時間が合えばこの幸せな関係を続けられたら良いなって」
完全にセフレを作る時の常套句。
これから結婚する女に対して、まだ会おうと言える神経の図太さに感心する。
『今の距離感』とか『お互い良い人は別にいる』とか、それっぽいことを言って、要はタダで使える性の捌け口をキープしておきたい、ということだ。
そんなゴミクズのような人間に騙されて、それでもこの関係は残しておきたいと思う私も、同じくゴミクズだった。
その時、鞄の中のスマホのバイブが聞こえた。
慌てて手繰り寄せると、切望していた義明からの着信だった。
「出たら?」
何も考えずに孝之が言うが、今出てしまって重要な話をここでするのも嫌だし、会話の流れで自宅でないことがバレるのも問題だ。
時刻は0時25分。
終電にはもう間に合わない。
(こんな遅い時間にかけてくる義明が悪いんだから……)
私は寝ていると思わせるのが最善だと思い、バイブが消えるまでスマホの表示を眺めていた。
その日の夜は、孝之との体の相性の良さを噛み締めるように、第3ラウンドまで続いた。
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