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石口由香里 編
元カレとの近況報告
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「へぇー!由香里も結婚かぁ!おめでとう!」
久しぶりに再開した元カレの孝之は私がプロポーズされた話をした瞬間、少しあどけなさの残る笑顔でニカッと笑った。
海鮮居酒屋に到着して乾杯した私たちは、お互いの状況と身の上話をツマミに盛り上がっていた。
孝之は去年職場の後輩と結婚して子供が1人いること。
私はつい先日プロポーズされたことを報告していた。
この3年くらいでそれぞれ人生で大きな変化があり、ようやく学生気分が抜けて大人として歩もうとしていた。
「相手の人はどんな人なの?」
「そうねぇ。ちょっと頼りない部分もあるけど、優しい人かな」
「へぇ~、意外。由香里はリードしてくれるような人が好みだと思ってた」
全然違ぇよ、というセリフをグッと堪えて、「まあね」と相槌を打つ。
孝之は人当たりも良く友達も多いが、相手の本質や考え方を見抜く能力や、空気を読む能力が欠けている人間だった。
(自分の考えが間違ってるのにものすごい自信家なのよね)
そういうものは後天的に身につくものではなく、大体は先天的なものだと思うから、私は彼との未来は無いと確信して別れを切り出した過去がある。
その点、今の義明はかなり空気を読む能力が高い。
ただ、高すぎてHSP気味なくらい繊細で、言いたいことも相手を気遣ってグッと堪えてしまう性格なため、少し心配な面もある。
それでも、それは優しさから来るものであることを知っている私は、彼は本気で良い人なんだと確信していた。
「孝之はどうなの?去年結婚して子供もいるなら今は一番幸せな時期じゃない?」
子供がいる生活っていうのは私にはまだ想像できないが、自分も近いうち同じ経験をすることになると思うと、孝之にどんな生活なのか聞いてみたかった。
「うーん……子供は可愛いけど、嫁とはあんまりうまくいってないかな。なんかお母さんって感じになっちゃってさ。夜の方も全然だし」
そういうことをサラッと言ってくるのも変わっていなかった。
「そうなんだ。まぁ奥さんも大変な時期だと思うから支えてあげないと」
「でも空回りしちゃってさ。手伝っても怒られてばっかりで」
「父親だって1年生なんだって誰かが言ってたよ。慣れてくれば奥さんもきっと頼ってくれるよ」
私は慰めにもならないような他社の書籍で見た情報をそのまま話した。
「そっか。やっぱり由香里は博識だな。そう言われてスッと心が軽くなったよ」
「そう。良かった」
私は孝之の単純さに少し笑いながらビールのグラスに口をつけた。
「うん。最近ふと考えちゃうんだよね。もし由香里と今も別れずにいたらどうなってたかな?って」
急な話の切り替わりに少し動揺したが、その心の動きを悟られないように目線を伏せる。
「幸せのど真ん中にいる人が何言ってんの。それに、そんな未来は無かったはずよ。振った私が保証する」
「確かに!俺は振られたんだった!」
そう言って孝之はケラケラと笑った。
「でもさ、俺もそう思う。俺たちって距離が近すぎるとうまくいかないよな。だからかわからないけど、今くらいの距離感でお酒を飲みながら一緒に話せるくらいがめっちゃ楽しいよ」
グラスのビールを飲み干し、店員の女の子にグラスを上げてお代わりの合図を出す。
「そうね。それは間違いないかもね」
私もそれは同意だった。
情熱的な孝之とは最初は楽しかったが、大人になってくると心の落ち着く環境を求める。
同棲している中で、そんな環境を彼と築くのは難しかった。
自宅でダラダラしたい休みの日も、毎週土日には釣りやらツーリングに連れて行かれ、しかも彼の友達がたくさん来る。
芸人の嫁じゃないんだから、と言いたくなるくらい当時は色々な友達と交流させられた。
人見知りではないが、少数の気の合う友人と仲良くしてきた私としては、広く浅く付き合いがある彼のライフスタイルに疲れてしまった。
(その友達同士で恋愛とかもしてたし、孝之には言えないけどその中の一人に私も告白されたっけ……)
「だから由香里は一番気が許せて、信頼できる感じがするよ。若い頃の大変だった時期を一緒に過ごしたからかな?一蓮托生的な感じ?」
「なにそれ(笑)一緒に破滅したくないわ」
私は孝之の考えを一蹴しつつ、そう言ってもらえるのは素直に嬉しい気持ちも感じていた。
久しぶりに再開した元カレの孝之は私がプロポーズされた話をした瞬間、少しあどけなさの残る笑顔でニカッと笑った。
海鮮居酒屋に到着して乾杯した私たちは、お互いの状況と身の上話をツマミに盛り上がっていた。
孝之は去年職場の後輩と結婚して子供が1人いること。
私はつい先日プロポーズされたことを報告していた。
この3年くらいでそれぞれ人生で大きな変化があり、ようやく学生気分が抜けて大人として歩もうとしていた。
「相手の人はどんな人なの?」
「そうねぇ。ちょっと頼りない部分もあるけど、優しい人かな」
「へぇ~、意外。由香里はリードしてくれるような人が好みだと思ってた」
全然違ぇよ、というセリフをグッと堪えて、「まあね」と相槌を打つ。
孝之は人当たりも良く友達も多いが、相手の本質や考え方を見抜く能力や、空気を読む能力が欠けている人間だった。
(自分の考えが間違ってるのにものすごい自信家なのよね)
そういうものは後天的に身につくものではなく、大体は先天的なものだと思うから、私は彼との未来は無いと確信して別れを切り出した過去がある。
その点、今の義明はかなり空気を読む能力が高い。
ただ、高すぎてHSP気味なくらい繊細で、言いたいことも相手を気遣ってグッと堪えてしまう性格なため、少し心配な面もある。
それでも、それは優しさから来るものであることを知っている私は、彼は本気で良い人なんだと確信していた。
「孝之はどうなの?去年結婚して子供もいるなら今は一番幸せな時期じゃない?」
子供がいる生活っていうのは私にはまだ想像できないが、自分も近いうち同じ経験をすることになると思うと、孝之にどんな生活なのか聞いてみたかった。
「うーん……子供は可愛いけど、嫁とはあんまりうまくいってないかな。なんかお母さんって感じになっちゃってさ。夜の方も全然だし」
そういうことをサラッと言ってくるのも変わっていなかった。
「そうなんだ。まぁ奥さんも大変な時期だと思うから支えてあげないと」
「でも空回りしちゃってさ。手伝っても怒られてばっかりで」
「父親だって1年生なんだって誰かが言ってたよ。慣れてくれば奥さんもきっと頼ってくれるよ」
私は慰めにもならないような他社の書籍で見た情報をそのまま話した。
「そっか。やっぱり由香里は博識だな。そう言われてスッと心が軽くなったよ」
「そう。良かった」
私は孝之の単純さに少し笑いながらビールのグラスに口をつけた。
「うん。最近ふと考えちゃうんだよね。もし由香里と今も別れずにいたらどうなってたかな?って」
急な話の切り替わりに少し動揺したが、その心の動きを悟られないように目線を伏せる。
「幸せのど真ん中にいる人が何言ってんの。それに、そんな未来は無かったはずよ。振った私が保証する」
「確かに!俺は振られたんだった!」
そう言って孝之はケラケラと笑った。
「でもさ、俺もそう思う。俺たちって距離が近すぎるとうまくいかないよな。だからかわからないけど、今くらいの距離感でお酒を飲みながら一緒に話せるくらいがめっちゃ楽しいよ」
グラスのビールを飲み干し、店員の女の子にグラスを上げてお代わりの合図を出す。
「そうね。それは間違いないかもね」
私もそれは同意だった。
情熱的な孝之とは最初は楽しかったが、大人になってくると心の落ち着く環境を求める。
同棲している中で、そんな環境を彼と築くのは難しかった。
自宅でダラダラしたい休みの日も、毎週土日には釣りやらツーリングに連れて行かれ、しかも彼の友達がたくさん来る。
芸人の嫁じゃないんだから、と言いたくなるくらい当時は色々な友達と交流させられた。
人見知りではないが、少数の気の合う友人と仲良くしてきた私としては、広く浅く付き合いがある彼のライフスタイルに疲れてしまった。
(その友達同士で恋愛とかもしてたし、孝之には言えないけどその中の一人に私も告白されたっけ……)
「だから由香里は一番気が許せて、信頼できる感じがするよ。若い頃の大変だった時期を一緒に過ごしたからかな?一蓮托生的な感じ?」
「なにそれ(笑)一緒に破滅したくないわ」
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