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石口由香里 編
そのプロポーズは20点です。やり直し!
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「結婚して下さい」
高層ビルの18階にある洒落たレストラン。
付き合って1年半の彼氏に、指輪と共にそう言われたのは、私の29歳の誕生日である10月29日の事だった。
なんとなく予想はしていたものの、やっぱり改めて言われると嬉しい。
もちろん、結婚を否定する理由は無い。
母親や親戚からは実家へ帰るたびにうるさく言われるし、姉が2人目を妊娠した事で今年の正月も散々だった。
「千佳は孫を見せてくれるけど、由香里は一向にその気配がない」
「もう由香里の子供は一生見れないかもしれない」
「周りの30前後はみんな婚活しているのに由香里はしていない」
せっかく帰ってきた正月にそんな話ばかりされて、もううんざりだった。
正直、私は姉が2人目を妊娠した事で、今年は自分に対してそういう話が飛んでくる事はないだろう、くらいに考えていたが、逆にエスカレートしたのは意外だった。
「わかってる」
反論したり何か言うと話が広がるので、もう4~5年前から同じセリフでかわしてきたが、ここらが限界か、と感じていた。
だから今回のプロポーズはとても嬉しい。
やっと母や親戚からのプレッシャーから解放されるし、どんどん寿退社していく同年代の子を羨む自分へのストレスも無くなる。
だからその安堵感からか、この気持ちをもっと味わっていたい、そう思った。
なので思ってもいない事を言った。
「少し…考えさせて下さい」
「えっ……」
彼は少し動揺したが、私には打算があった。
(こう言う事で、彼は私を説得したり、どこが好き、どういう所に惚れた、など色んな事を言って、私を気持ちよくさせてくれるに違いない)
「少し…」というフレーズを使うことにより、もうほぼOKなんだけど、あと1、2個引っかかってる事がある、といったニュアンスを醸し出し、ガツガツ押して来れるよう促した。
「え、あ、うん…」
そう言われるとは思ってもみなかったのか、彼は狼狽を隠そうともせず、そのうち少し俯いた。
由香里は感じていた。
彼も、日々自分と接している中で、何となく結婚というキーワードに自分が敏感になっていた事に気づいているかもしれない。つまり、その気づきは「結婚に焦っているから多分いける」という不安なしのプロポーズを誘発する。
(そんなプロポーズは20点!そうは問屋が卸しませんよ~。やり直し!)
確度の高いプロポーズなんてさせてあげない。
ビクつきながら相手の顔色を伺いつつ、タイミングを見計らって恐る恐る口にする、それが本来のプロポーズのあるべき姿だ。
そして、私はそこらへんの何かに取り憑かれたように結婚相手を探している連中とは違う。
由香里はそんな思いから、自分を高く評価してもらいたい、と思うようになっていた。
彼ははにかんだ笑顔で、「ゆっくり考えてもらっていいから…」と告げると、指輪を気まずそうに箱にしまった。
その日、それ以上彼が結婚について触れる事は無かった。
しかしこのちょっとした遊び心が、後に最悪の事態を引き起こす。
高層ビルの18階にある洒落たレストラン。
付き合って1年半の彼氏に、指輪と共にそう言われたのは、私の29歳の誕生日である10月29日の事だった。
なんとなく予想はしていたものの、やっぱり改めて言われると嬉しい。
もちろん、結婚を否定する理由は無い。
母親や親戚からは実家へ帰るたびにうるさく言われるし、姉が2人目を妊娠した事で今年の正月も散々だった。
「千佳は孫を見せてくれるけど、由香里は一向にその気配がない」
「もう由香里の子供は一生見れないかもしれない」
「周りの30前後はみんな婚活しているのに由香里はしていない」
せっかく帰ってきた正月にそんな話ばかりされて、もううんざりだった。
正直、私は姉が2人目を妊娠した事で、今年は自分に対してそういう話が飛んでくる事はないだろう、くらいに考えていたが、逆にエスカレートしたのは意外だった。
「わかってる」
反論したり何か言うと話が広がるので、もう4~5年前から同じセリフでかわしてきたが、ここらが限界か、と感じていた。
だから今回のプロポーズはとても嬉しい。
やっと母や親戚からのプレッシャーから解放されるし、どんどん寿退社していく同年代の子を羨む自分へのストレスも無くなる。
だからその安堵感からか、この気持ちをもっと味わっていたい、そう思った。
なので思ってもいない事を言った。
「少し…考えさせて下さい」
「えっ……」
彼は少し動揺したが、私には打算があった。
(こう言う事で、彼は私を説得したり、どこが好き、どういう所に惚れた、など色んな事を言って、私を気持ちよくさせてくれるに違いない)
「少し…」というフレーズを使うことにより、もうほぼOKなんだけど、あと1、2個引っかかってる事がある、といったニュアンスを醸し出し、ガツガツ押して来れるよう促した。
「え、あ、うん…」
そう言われるとは思ってもみなかったのか、彼は狼狽を隠そうともせず、そのうち少し俯いた。
由香里は感じていた。
彼も、日々自分と接している中で、何となく結婚というキーワードに自分が敏感になっていた事に気づいているかもしれない。つまり、その気づきは「結婚に焦っているから多分いける」という不安なしのプロポーズを誘発する。
(そんなプロポーズは20点!そうは問屋が卸しませんよ~。やり直し!)
確度の高いプロポーズなんてさせてあげない。
ビクつきながら相手の顔色を伺いつつ、タイミングを見計らって恐る恐る口にする、それが本来のプロポーズのあるべき姿だ。
そして、私はそこらへんの何かに取り憑かれたように結婚相手を探している連中とは違う。
由香里はそんな思いから、自分を高く評価してもらいたい、と思うようになっていた。
彼ははにかんだ笑顔で、「ゆっくり考えてもらっていいから…」と告げると、指輪を気まずそうに箱にしまった。
その日、それ以上彼が結婚について触れる事は無かった。
しかしこのちょっとした遊び心が、後に最悪の事態を引き起こす。
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