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第六話
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それからの日々は、まるでこの世が終わってしまったかのようでした。あのとき囁かれた愛の言葉も、夢のような甘い時間も、全て偽りだったのです。『鶏ガラ姫』と心の中では嘲笑いながら、表面上だけ取り繕われた……全ては爵位を得るためだけの、お芝居だったのです。
憔悴して部屋に閉じこもってしまったわたくしを心配し、ベルトラン様は毎日訪ねて来てくださっているようでした。自分がカフェなんかに誘ったせいで辛い思いをさせたと、責任を感じていらっしゃるようなのです。
しかしその訪問も、十日もお断りし続けているとさすがに申し訳なく感じてしまいます。とうとうお会いすることにした、その日。ベルトラン様はわたくしの顔を見るなり言いました。
「すまない、本当に、すまなかった! あんなにも幸せそうだった君を、それほどやつれるまで悲しませてしまうことになるなんて、なんということをしてしまったんだ。詫びと言ってはなんだが、あの男と友人共には私から――」
ですがわたくしは彼が皆まで言う前に、その言葉を遮るようにして首を振りました。
「いいえ、ベルトラン様の責任などではありませんわ。もし今は気づかずに済んでいたとしても、数年後に最悪の形で露見してしまっていたでしょう。ならばむしろ、貴方には感謝しかないのです」
「アウロラ……」
「それでもお気になさるようなら、この栞の処理をお願いします。わたくしにはどうにも、荷が重くって」
わたくしがあの初めてもらった花で作った栞を差し出すと、ベルトラン様はそっと受け取ってくださいながら言いました。
「確かに、請け負った。だが、それだけでよいのか? ひと言この私に全てを任せると言ってくれたなら、喜んで全ての処理を請け負うのだが」
「……あとはわたくしが自分で、全てを終わらせて参ります。ベルトラン様、どうぞ見張っていてくださいませ。わたくしが、挫けてしまわないように」
「……わかった。確かに見守っていよう」
憔悴して部屋に閉じこもってしまったわたくしを心配し、ベルトラン様は毎日訪ねて来てくださっているようでした。自分がカフェなんかに誘ったせいで辛い思いをさせたと、責任を感じていらっしゃるようなのです。
しかしその訪問も、十日もお断りし続けているとさすがに申し訳なく感じてしまいます。とうとうお会いすることにした、その日。ベルトラン様はわたくしの顔を見るなり言いました。
「すまない、本当に、すまなかった! あんなにも幸せそうだった君を、それほどやつれるまで悲しませてしまうことになるなんて、なんということをしてしまったんだ。詫びと言ってはなんだが、あの男と友人共には私から――」
ですがわたくしは彼が皆まで言う前に、その言葉を遮るようにして首を振りました。
「いいえ、ベルトラン様の責任などではありませんわ。もし今は気づかずに済んでいたとしても、数年後に最悪の形で露見してしまっていたでしょう。ならばむしろ、貴方には感謝しかないのです」
「アウロラ……」
「それでもお気になさるようなら、この栞の処理をお願いします。わたくしにはどうにも、荷が重くって」
わたくしがあの初めてもらった花で作った栞を差し出すと、ベルトラン様はそっと受け取ってくださいながら言いました。
「確かに、請け負った。だが、それだけでよいのか? ひと言この私に全てを任せると言ってくれたなら、喜んで全ての処理を請け負うのだが」
「……あとはわたくしが自分で、全てを終わらせて参ります。ベルトラン様、どうぞ見張っていてくださいませ。わたくしが、挫けてしまわないように」
「……わかった。確かに見守っていよう」
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