上 下
6 / 8

第六話

しおりを挟む
 それからの日々は、まるでこの世が終わってしまったかのようでした。あのとき囁かれた愛の言葉も、夢のような甘い時間も、全て偽りだったのです。『鶏ガラ姫』と心の中では嘲笑あざわらいながら、表面上だけ取り繕われた……全ては爵位を得るためだけの、お芝居だったのです。

 憔悴して部屋に閉じこもってしまったわたくしを心配し、ベルトラン様は毎日訪ねて来てくださっているようでした。自分がカフェなんかに誘ったせいで辛い思いをさせたと、責任を感じていらっしゃるようなのです。

 しかしその訪問も、十日もお断りし続けているとさすがに申し訳なく感じてしまいます。とうとうお会いすることにした、その日。ベルトラン様はわたくしの顔を見るなり言いました。

「すまない、本当に、すまなかった! あんなにも幸せそうだった君を、それほどやつれるまで悲しませてしまうことになるなんて、なんということをしてしまったんだ。詫びと言ってはなんだが、あの男と友人共には私から――」

 ですがわたくしは彼が皆まで言う前に、その言葉を遮るようにして首を振りました。

「いいえ、ベルトラン様の責任などではありませんわ。もし今は気づかずに済んでいたとしても、数年後に最悪の形で露見してしまっていたでしょう。ならばむしろ、貴方には感謝しかないのです」

「アウロラ……」

「それでもお気になさるようなら、この栞の処理をお願いします。わたくしにはどうにも、荷が重くって」

 わたくしがあの初めてもらった花で作った栞を差し出すと、ベルトラン様はそっと受け取ってくださいながら言いました。

「確かに、請け負った。だが、それだけでよいのか? ひと言この私に全てを任せると言ってくれたなら、喜んで全てのを請け負うのだが」

「……あとはわたくしが自分で、全てを終わらせて参ります。ベルトラン様、どうぞいてくださいませ。わたくしが、挫けてしまわないように」

「……わかった。確かにいよう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってそういうことでしょう?

杜野秋人
恋愛
「そなたがこれほど性根の卑しい女だとは思わなかった!今日この場をもってそなたとの婚約を破棄する!」 夜会の会場に現れた婚約者様の言葉に驚き固まるわたくし。 しかも彼の隣には妹が。 「私はそなたとの婚約を破棄し、新たに彼女と婚約を結ぶ!」 まあ!では、そういうことなのですね! ◆思いつきでサラッと書きました。 一発ネタです。 後悔はしていません。 ◆小説家になろう、カクヨムでも公開しています。あちらは短編で一気読みできます。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結】真実の愛に生きるのならお好きにどうぞ、その代わり城からは出て行ってもらいます

まほりろ
恋愛
私の名はイルク公爵家の長女アロンザ。 卒業パーティーで王太子のハインツ様に婚約破棄されましたわ。王太子の腕の中には愛くるしい容姿に華奢な体格の男爵令嬢のミア様の姿が。 国王と王妃にハインツ様が卒業パーティーでやらかしたことをなかったことにされ、無理やりハインツ様の正妃にさせられましたわ。 ミア様はハインツ様の側妃となり、二人の間には息子が生まれデールと名付けられました。 私はデールと養子縁組させられ、彼の後ろ盾になることを強要された。 結婚して十八年、ハインツ様とミア様とデールの尻拭いをさせられてきた。 十六歳になったデールが学園の進級パーティーで侯爵令嬢との婚約破棄を宣言し、男爵令嬢のペピンと婚約すると言い出した。 私の脳裏に十八年前の悪夢がよみがえる。 デールを呼び出し説教をすると「俺はペピンとの真実の愛に生きる!」と怒鳴られました。 この瞬間私の中で何かが切れましたわ。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 他サイトにも投稿してます。 ざまぁ回には「ざまぁ」と明記してあります。 2022年1月4日HOTランキング35位、ありがとうございました!

「つまらない女」を捨ててやったつもりの王子様

七辻ゆゆ
恋愛
「父上! 俺は、あんなつまらない女とは結婚できません!」 婚約は解消になった。相手側からも、王子との相性を不安視して、解消の打診が行われていたのである。 王子はまだ「選ばれなかった」ことに気づいていない。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

私に代わり彼に寄り添うのは、幼馴染の女でした…一緒に居られないなら婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
彼の婚約者は私なのに…傍に寄り添うのは、幼馴染の女!? 一緒に居られないなら、もう婚約破棄しましょう─。

処理中です...