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第二話

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 書庫に置かれた大きな机の、あちらとこちらの端でそれぞれのお目当てをめくっていると、ベルトラン様がふと思い出したように言いました。

「ところで、最近婚約したんだって?」

「は、はい……」

 わたくしは婚約者の顔を思い出して、思わず目じりを下げました。抑えきれない笑みが口元に浮かび、頬が熱くなっていくようです。

 艷やかな黄金の髪を持ち女性的な魅力にあふれた双子の姉に対し、色あせた金髪に薄い身体を持つわたくしは、口さがない人たちから「地味な方の王女」と呼ばれているようです。しかしわたくしは、そんな噂は特に気にはしませんでした。どうせ政略で嫁ぐ身なのですから、多くの殿方の興味を引く必要もないでしょう。

 そんなわたくしにもいくつか合理的な縁談が持ち上がり始めたころの、半年ほど前の初夏の夜会でのことです。――ニクラスから、熱烈な愛の告白を受けたのは。

 星の降る庭園をのぞむテラスでひざまずきながら、彼はわたくしの淡い髪色を月にたとえて言いました。

『月の光のように儚げな貴女に、一目惚れしてしまいました。どうか、数多の求婚者たちの中から、僕を選んでくださいませんか?』

 それ以来、私はまるで大好きな恋物語の主人公になったかのように、行く先々で彼からの求愛を受けるようになりました。恥ずかしい話なのですが、これまでそのような経験がなかったわたくしは……すっかり舞い上がってしまったのです。

 わたくしはとうとう勇気を出して、ニクラスからの求婚を受けたいと、お父様に頼み込みました。本来なら侯爵令息といえど爵位を継げないニクラスは、王女の降嫁先に適した相手とは言えません。しかしわたくしがどうしてもとお願いすると、困ったように笑いながらもお父様はニクラスとの婚約を許してくださったのでした。

「君が幸せそうで良かったよ。もし不幸そうならば、我が国に攫って帰ってしまおうかと思っていたんだが」

 そうベルトラン様の声が聞こえて、わたくしはハッとして我に返りました。ついニクラスのことを思い出して、ポワッとしてしまっていたようです。

「ごめんなさい! わたくしったら、お恥ずかしい姿を……」

「いや……ちょっと、妬けてしまうな。でも――おめでとう」

 彼の口角は上がっているのに、その整った眉根は複雑に歪んでいます。バカみたいに舞い上がっている姿を見せたから、呆れられてしまったのでしょうか。

「ありがとうございます……」

 小さくなりながらもなんとかお礼だけは言うと、ベルトラン様は今度は少しだけ寂しそうに微笑んで言いました。

「次に来たときには、ここでこうして会うこともなくなるのか……」

「そう、ですね……」

 でも、ニクラスの元へ嫁いでゆくまで、あと一年近く時間があるのです。お世継ぎとしてお忙しい身のベルトラン様ですが、あと一度くらい――。

 そこまで考えてしまってから、わたくしは内心かぶりを振りました。もうすぐ嫁ぐ身だというのに、そういう考えはよくないことでしょう。わたくしは本に目を落とすと、黙々と文字を追い始めました。
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