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恋人同士の一週間

六日目 繋がる

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 昼休み。いつもは裕一郎が俺の机まで移動してきてゲームの話しながらさっくりと弁当食べて、イヤホンして音楽聞きながらの昼寝タイム。が、放課後のみならず、ソレに昼休みまで侵され始めた。

「裕一郎、ごめん。今日、ご飯一緒に食べていい?」

「俺はいいけど」

「ありがと」

 おい、俺の意向は聞かんのかい、と言いたいが昨日の今日だ。とりあえず黙っておく。

「あの、ごめんね。私まで」

「大丈夫だよ。気にしないで」

 だからなんで三人で完結した?俺の気持ちは無視か?
裕一郎と茉莉花、そしてすみれちゃんは三人で、それぞれが嵌っているFPSの話で盛り上がってる。茉莉花とすみれちゃんは既に同じゲームを一緒にやっているらしく、裕一郎も一緒にやることにどうやら決まりそうだ。気持ちだけでなく存在すら俺は無視されているようだ。
まあいいか、楽しそうだ。空になった弁当箱をしまい、イヤホンを装着。これでノイズは完璧にシャットアウトだ。


「ちょっと、私たちのこと、騒音扱いしてるんじゃないでしょうね」


 イヤホンを抜き取られ、耳元に熱くも冷たい風が流れる。


「トンデモゴザイマセン」


「昨日の行いに謝罪の言葉があるかとわざわざ来てあげたのに、無視して寝るなんてどういうこと」

「ムシサレタノハ、ワタシデハ?」

「無視される心当たりがあるということだよね?」

「イイエ、マッタク」

「じゃあ、あの過去ログはなに?」

「若かりし頃、恋人繋ぎ、してみたいなと妬んだだけだよ」

「恋人繋ぎ、知ってるんじゃない!嘘ついて」

「俺、嘘なんて言ってないけど?」


 無邪気な笑顔を一生懸命つくって返してみる。昨日のやり取りを思い返したのだろう。俺は恋人繋ぎって何かを茉莉花に聞いただけだし、ゲームのことしか知らないと茉莉花に言われて「そうかも?」としか返してない。ようやくしてやられたことに気づいた茉莉花は「まさか」と言葉を探した。

「俺は、茉莉花からしてもらえてうれしかったのに」

「……」

「桜もたくさん見られたし、春を、満喫したよ」

「……」

「そういえば、色恋のことも春っていうね」

「~~~~っ、ドSだけじゃなく腹黒と呼ばれるがいい~っ」


 あ~あ、大声で叫んじゃったよ、俺はいいけどね。俺達にひっそり静かに育む恋愛は無理なようだ。明日にはまた俺たちの仲の良さが広まるだけ。腹黒もこれが俺の素だというなら、甘んじて受けよう。


「茉莉花?お花見楽しくなかった?俺は茉莉花と見られて嬉しかったのに」


 言葉を返してみてなるほど、と納得した。茉莉花がいう通り、俺は腹黒キャラだったのかも。揶揄いたい気持ちを底に隠し穏やかに言う、なんかしっくりくる。


「……う、れしかった、よ」


言いたくないけど、根が真面目な茉莉花は嘘をつけず、絞り出すように言った。


「そういえば、うちの親が明日なら、一緒にご飯食べられるって言ってたよ。昼でも夜でも、茉莉花の都合のいい方でいいってさ」

「え、ホント!やったー!楽しみ」

「夜にでも連絡するね」


 途端に喜びいっぱい表現する茉莉花にこれで嵐は去ったと安堵し、じゃあ寝るかと机に突っ伏す。


「なに、騒いでんの?」


 頭上から聞こえるイケメンの声に俺の安眠がまたもや遠ざかっていくのが分かった。


「明日、夏樹んちのご両親と一緒にご飯食べるんだー」

「そ、うなん、だ」


 イケボが戸惑ってるよ、茉莉花マイペースだな。ちらっと視線を上げるとイケボだけじゃなく、周りも戸惑っているらしい。そうだよね、付き合いたてのカップルだ。相手の両親と一緒にご飯は気が早い。期間的にも早い。フォローすべきかどうかと思った刹那、


「悠一もFPS好きだよね。いま三人で一緒にゲームしようって話してたんだけど、一緒にしない?」

「三人?」

「俺はハブられているらしい」

「あ、ごめん。忘れてた。四人です」


(俺はするとは言ってないし誘われてもいないけどな)


「タイミングが合えば、いいよ。茉莉花とはゲームの趣味近いと思うしね」

「やった!めっちゃ楽しみ。俄然やる気になってきた。がんばろーね、すみれ」

「ふふ、足引っ張らないでよ、茉莉花」

「それはこっちのセリフ。ガチでやりこむからね」


 みんなでメッセージアプリのグループ作ってるよ。楽しそうっすね。頬杖付きながら茉莉花をぼーっと見ていたら目があって、揶揄うような視線を送られた。さりげなく俺、ハブられています、茉莉花に。やっぱりさっきので誤魔化されてはいないか。でもたまには茉莉花の掌の上もいいかと、にっこり微笑みを返しといた。


「悠一、次移動教室だぞ」

「あ、忘れてた」


 さらに昂輝が呼びに来て、クラスは一時騒然とした。隠キャの俺の周りにカースト上位が取り囲んでいる。俺の心情も騒然としてる。凪いでいた中学時代とは違う環境に戸惑うばかりだ。


「ゲームの話、してたんだろ。お前ら好きだなー」

「お前ともゲームの話、一緒にしたいんだけどな」

「興味ない」

 イケメン二人が楽しそうに笑いながら戻っていく。悠一は振り返りこっちを見て、笑った。俺と視線が合い引き攣った笑みで俺が返すと、イケメンはカッコよく手を振って消えていった。











 俺がグループに招待されたのは夜になってからだった。みんなとだいぶ盛り上がってからの様だ、空気感的に。腹黒にこの仕打ちとは覚えてろ、ぐぬぬ。と茉莉花をどうやって困らせてやろうかと思いを巡らす。笑った顔もいいけど、困った表情もあれはあれで良き、さらには悪いことを考えているであろう悪戯っ子のような表情も隠しきれてなく良い……と幸福感に浸る。


 リビングのソファに寝転びながら、メッセージを打つ。


  明日、昼に待ってる
  十二時頃食べ始めるって



「ねえ、母さん。茉莉花、十一時半くらいに来れば良いよね?」


「そうね。あんたが茉莉花ちゃんに何を見せたいか知らないけど、良いんじゃない?」

「我が家のありのままの姿だよ」

「ふーん、まあ良いけど」



  十一時半くらいに
  うちに来たらいいと思うよ



  わかった
  明日、十一時半ね


 送信するとすぐに既読がついて返事が来た。




  そのまま午後は
  茉莉花の好きなことに付き合うよ




 メッセージを送ったところで着信音がした。母さんのスマホだ。


 母さんは無言でスマホを操作している。俺の視線に気づいて「なに?」と淡々と返すが「なんでもない。明日、よろしく」とだけ言ってスマホに目を向けなおす。


 俺のメッセージに既読はついたものの返事がこない。珍しいこともあるものだ。
スマホで日課の巡回をしてるとようやく返事が返って来た。それも一言あっさりと。


  楽しみにしてる



タップし送信する。


  明日茉莉花に家で会えるの
  俺も楽しみだよ





「俺、コンビニ行ってくる」

「あ、アイス!明日新発売って言ってたから、並んでたら買ってきて!」

「それは、明日じゃなきゃないだろ」

「アイスのフラゲ、あるかも」

「はいはい、あったらね」


 財布をポケットに突っ込み、茉莉花に自分でもなんか用意しようと飲み物か、お菓子か、アイスかと悩みながら家を出た。何を口にしたら喜んでくれるだろうか。それを考えているだけで俺は幸せな気持ちになった。












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