1000文字短編集

桜木雨

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ひな祭り

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空を見上げると、一面に薄い水色が広がっていた。
まるで絵の具で塗ったみたいに何処までも同じ色の、空。
春だなぁ。
綺麗。そんな言葉で言い表せないぐらい美しい空に、一体どのくらいの間見惚れていただろうか。
浮かんでは消えてゆく思い出たちに、また春らしさを感じてしまう。
そういえば、妹も春が大好きだった。
春の朝はよく僕の部屋に忍び込んできて僕を起こして散歩に連れて行こうとした。
僕が古くから春眠暁を覚えずと言ってだなとかいうと、難しいことなんてわかんなーいとおどけて返す妹。要するに春は眠いんだよだから寝かせろと言っても、私が起きてるからほら万事解決みたいな顔してぐいぐい引っ張ってくる。押し問答を続けているうちに、いつも僕が折れて散歩に行っていたっけ。結局のところ妹のお願いには誰でも弱いのだ。うん。誰でもそうだと思う。だって可愛いは正義だから。世界の摂理だ。
「わぁー!お兄ちゃん、お花がいっぱいだねー」
そう言って、両手を広げて木の下をクルクル回る。
「こけるなよー」
そういうと、こけないもん、お兄ちゃんの心配性!とか言って大口叩くくせにすぐこけて、お兄ちゃんが声かけてくるのが悪いんだ!とか言って。お兄ちゃん悪くないと思うけどなーとかいいながらも妹をおぶって家まで帰る。母にまたー?と呆れられるが妹は全く気にしていない。あんなに泣いたのにもうけろっとしてる。ここまでおぶってやったのに薄情なやつだ。
「ねぇねぇお兄ちゃん。もしかして今日ひな祭り?」
「うん。そうだよ。ちらし寿司食べれるよ」
「わぁーい!ち・ら・し・寿・司!」
「はいはい。先に手洗ってきなさい」
「「はーい」」
ちらし寿司と言いながら家の中を走り回る妹の底なしの体力に一周回って感心しつつ、洗面所へと向かい手を洗った。
リビングへ向かうともう食卓にはちらし寿司が並んでいた。
あれ?今何時だ?と思うともう12時だった。そんなに外で遊んでいたとは思っていなかったので少し驚いた。
「「「いただきます」」」
そういうや否や妹はちらし寿司を頬張っていく。喉つまるぞとか思いながらもその顔が愛らしくてずっと見つめていたっけ。

…あれ????今日は何月何日だ?懐かしい事を思い出したなと思っていたが、今日はもしかしていや、もしかしなくても3月3日だ。ひな祭りじゃん!なんで忘れていたのだろうかと慌ててみたが、独身貴族の僕には全くと言っていいほど無縁なもので、忘れていても仕方のない事だったと思う。けれど、思い出した限りは何かしたくて、とりあえず空の写真を撮って妹に送る。

ひな祭りですね。と送ると、
いいえ違います。ちらし寿司の日です。と返ってくる。
やっぱりうちの妹ちょっとバカかもしれない。

ひな祭り/完
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