僕が僕であるために僕は僕になった

桜木雨

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第五話

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嫌がる僕をよそに話はどんどん進んでいく。もう既に両親に許可は取ってあるらしく、外堀は埋め尽くされていた。しかも、事務所に入れば無料でスタジオが使えるし、いろんな振付師さんに会わせてくれるっていうじゃないか。動画投稿を始めてからは自分で振り付けをしていたから、もっと技能を身につけたい僕からしてみれば喉から手が出るほどに欲しているものであった。もう乗るしかないだろ!半ばやけくそで契約書にサインした。こんな生活で本当に良いのだろうか。まあ、いっか。
「じゃあメンバーに会いに行こう」
えっ。メンバー?マジで。他の人とも活動するの?そんなこと僕にできるのか?
ぽかんとする僕をおいて、社長は早足でそのメンバーの元へ向かっていく。慌てて渡と共に社長を追いかける。そうこうしているうちに、社長が大きなガラス張りのスタジオの前で足を止めた。
「あそこにいる二人の男の子が君と一緒に活動するメンバーだよ。ちなみに、その隣でタオル持ってるのが君たちのマネージャー。無駄にイケボでムカつくんだよね」
その情報いらなくない?そんなことを言いつつも扉を開けた社長は中の3人に声をかけた。
「どう進んでるー?」
すると先ほど紹介されたマネージャーが答えた。
「進んでますよ。後ろの彼が最後のメンバーですか?」
確かにイケボだ。ちょっと社長の気持ちが分かった。メンバーの1人、便宜上チャラい方とでも呼ぼうか。そのチャラい方がわぁと歓声を上げる。
「マジで!新しいメンバー?可愛いー!」
へ?可愛い…?嘘だろ。僕可愛いのか?全く自覚してなかったんだけど。
「そうだよ。この可愛い子が、新メンバーのかぐら君。最近話題沸騰中のダンサーだよ」
えっ。社長に肯定されたんだけど。そこ!渡、にこやかに頷くな!僕は可愛くない。格好いいだ。
「嘘…」
もう1人のメンバーが呟く。僕ってそんなに有名だったの?はてなを浮かべていると渡が教えてくれた。
「神楽はネット見てないから知らないかもだけど、すっごく広まってるよ。特にこの業界はね」
そうだったのか。初耳だ。
「初めまして。かぐら君。早乙女志恩、大学一回生だよ。高校に入ったぐらいで芸能界に入ったから、3年先輩かな。少し前まではそこの優と一緒に別のグループに入っていたんだ。あ、志恩って呼び捨てにしてくれて良いから。タメ語でいいし。よろしくね」
そうこうしているうちに、チャラい方改め志恩さんが自己紹介をしてくれた。僕もしなければと思っていると、先にもう1人の方、優と呼ばれた人が口を開いた。
「初めまして。俺は氷室優だ。4歳ぐらいの頃から芸能界にいる。かぐらs…君と同い年だ。呼び捨てで構わない」
え。今、sの音が聞こえたんだけど。さんって言おうとした?同い年なのに?そして何故言い直した?もう、わかんない…
「マネージャを務めさせていただきます、羽田要です。よろしくお願いします」
はい。お願いされました…!何度も言う。というか何度でも言う。イケボすぎる。なんでこの人芸能人じゃないの?顔もいいのに。あっ、自己紹介!
「初めまして!かぐらこと天川神楽です!僕も呼び捨てでお願いします!ダンスしかできないけど、よろしくお願いします」
「よろしくね~」
と志恩。
「ああ、こちらこそ」
と優。
「頑張っていきましょう」
と羽田。
「はい!」
僕は満面の笑みで頷いた。
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