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第3章 混沌、それは人の心
3-7 実験の後に
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──目を醒ますと血の揚羽蝶が空中に舞って赤い翅を羽ばたいて飛んでいる光景を最初に観た。
そうか。やはり血の揚羽蝶に血を吸い取られて意識を失ったのだな。
身体には痛みを少し感じるが、集中的にルージュパピヨンに噛まれた場所には包帯が巻かれて治療の形跡がある……。
身体の内側からは、しかし──途方もない力が湧き上がるのを感じる。
もしかして──ルージュパピヨンが齎した力なのか?
真っ赤な翅の蝶は周囲を旋回して敵意は感じさせない。むしろ仕えるように俺の周りを囲って大人しくしている。
漆黒の鎧は外されて薄い水色の服になっていた。左腕には輸血がされている。
内面の心は不思議と落ち着いている。
周囲を見渡すと少し離れた別のベッドではルーアも輸血されてまだ意識を取り戻してなかった。
ルージュパピヨンの実験は第一段階は無事に成功とは言いづらいが、初期の目的は達成できたと俺は考えるよ──。
だが──目眩はまだある。世界が不意に歪んで見えて俺はクラクラした。起き上がるには早いようだ、ベッドに横になっていよう……。
空中に漂う血の揚羽蝶は、俺を宿主として認めたのだろうか?
まるで俺に仕える給仕のように律儀に周囲を囲んで飛んでいる。しかしただ赤いだけでなく、時折、青白い光まで放っていた。あの青白い光が新しい力なのか──?
そんな時だった。
アカデミアの研究所の研究チームに参加していたエリックが見舞いにきた。特徴的な金色の長髪の男性だから一目で判る。
「お目覚めですか?」
「エリック隊長。実験は?」
「途中で中止にされて、あれから三日間近く経過している。君は気を失っていたから判らないかも知れないけどね」
「──そうか。個人的には実験は成功したと思うよ。証はそこにいるルージュパピヨンかな」
「実験チームの職員も追い払おうとしたんですが、いつでもどこでも、あなたの周囲を飛んでいました」
「血の揚羽蝶の宿主になった証拠だろう。だが、目眩はまだするかな」
エリックも不思議そうに血の揚羽蝶を観察している。
こんな生態、初めて観た事例だろう。今まではルージュパピヨンに侵された魔物ばかり観てきたなら、今起きている事象は興味深い筈だ。
彼はルーアの容態を診た。
だいぶ気力を削がれてしまったのか、彼女の意識は深い闇の中にまだいる──。
エリックは点滴を交換して暫く経過観察する事を俺に報せた。
「暫くは経過観察をします。実験の合否はそんなに結論づけるには早すぎる。あなたも養生してくださいね」
「──そうするよ」
「そう言えば、魔力測定をしていた研究員が度肝を抜かしていたよ。ルージュパピヨンに力を供給されたのは端的に証明はされたと説明していたよ」
「魔力以外の何かも宿っているな──内側から力を感じる」
「とりあえずは身体を休めてください。こちらもグレイブに対して警戒はしております」
「頼む」
だが──奴は何故かここに襲ってきた。
この研究所の事は奴は知らない筈なのに──。
まさか裏切者がいるのか?
その事態はホープやエリックには想定外だったのだろう。
アカデミア研究所の中で裏切者が出た事実はホープをして驚愕させた。
引き金を引いたのは、あのエリックの部下のシャーリーだったのだ。
シャーリーはどのような手段を用いて報せたのかは判らないが、彼女の歪んだ想いが、グレイブを呼ぶ呼び水になったのは間違いない。
それは突如として起きた裏切りの事件だったのだ。
そうか。やはり血の揚羽蝶に血を吸い取られて意識を失ったのだな。
身体には痛みを少し感じるが、集中的にルージュパピヨンに噛まれた場所には包帯が巻かれて治療の形跡がある……。
身体の内側からは、しかし──途方もない力が湧き上がるのを感じる。
もしかして──ルージュパピヨンが齎した力なのか?
真っ赤な翅の蝶は周囲を旋回して敵意は感じさせない。むしろ仕えるように俺の周りを囲って大人しくしている。
漆黒の鎧は外されて薄い水色の服になっていた。左腕には輸血がされている。
内面の心は不思議と落ち着いている。
周囲を見渡すと少し離れた別のベッドではルーアも輸血されてまだ意識を取り戻してなかった。
ルージュパピヨンの実験は第一段階は無事に成功とは言いづらいが、初期の目的は達成できたと俺は考えるよ──。
だが──目眩はまだある。世界が不意に歪んで見えて俺はクラクラした。起き上がるには早いようだ、ベッドに横になっていよう……。
空中に漂う血の揚羽蝶は、俺を宿主として認めたのだろうか?
まるで俺に仕える給仕のように律儀に周囲を囲んで飛んでいる。しかしただ赤いだけでなく、時折、青白い光まで放っていた。あの青白い光が新しい力なのか──?
そんな時だった。
アカデミアの研究所の研究チームに参加していたエリックが見舞いにきた。特徴的な金色の長髪の男性だから一目で判る。
「お目覚めですか?」
「エリック隊長。実験は?」
「途中で中止にされて、あれから三日間近く経過している。君は気を失っていたから判らないかも知れないけどね」
「──そうか。個人的には実験は成功したと思うよ。証はそこにいるルージュパピヨンかな」
「実験チームの職員も追い払おうとしたんですが、いつでもどこでも、あなたの周囲を飛んでいました」
「血の揚羽蝶の宿主になった証拠だろう。だが、目眩はまだするかな」
エリックも不思議そうに血の揚羽蝶を観察している。
こんな生態、初めて観た事例だろう。今まではルージュパピヨンに侵された魔物ばかり観てきたなら、今起きている事象は興味深い筈だ。
彼はルーアの容態を診た。
だいぶ気力を削がれてしまったのか、彼女の意識は深い闇の中にまだいる──。
エリックは点滴を交換して暫く経過観察する事を俺に報せた。
「暫くは経過観察をします。実験の合否はそんなに結論づけるには早すぎる。あなたも養生してくださいね」
「──そうするよ」
「そう言えば、魔力測定をしていた研究員が度肝を抜かしていたよ。ルージュパピヨンに力を供給されたのは端的に証明はされたと説明していたよ」
「魔力以外の何かも宿っているな──内側から力を感じる」
「とりあえずは身体を休めてください。こちらもグレイブに対して警戒はしております」
「頼む」
だが──奴は何故かここに襲ってきた。
この研究所の事は奴は知らない筈なのに──。
まさか裏切者がいるのか?
その事態はホープやエリックには想定外だったのだろう。
アカデミア研究所の中で裏切者が出た事実はホープをして驚愕させた。
引き金を引いたのは、あのエリックの部下のシャーリーだったのだ。
シャーリーはどのような手段を用いて報せたのかは判らないが、彼女の歪んだ想いが、グレイブを呼ぶ呼び水になったのは間違いない。
それは突如として起きた裏切りの事件だったのだ。
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