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第3章 混沌、それは人の心
3-6 実験記録 ルージュパピヨン
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実験日、当日の朝。
混沌の女神ルーアと女神の騎士レムは最後の体調チェックを受けている。
その日のコンディションは中々の好調でこれなら実験に参加させても問題はないと判断された。
それから実験の流れを被験者二人に説明をする。実験場所は瘴気の森。ただし入口付近にてする事になる。
何か体調に異変が起きたら即刻で実験は中止、被験者の安全確保を優先する。
その場での医師の治療を施す為に医師の同行もさせて、研究所の責任者ホープも現地に足を運ぶ。その他、ルージュパピヨンの研究を行う研究員も同行させて、瘴気の森にて行われる実験の進行をスムーズにする。
実験に使用するルージュパピヨンは野生の血の揚羽蝶でより自然に近い状態で実験を開始する。
実験に参加する者達は足早に瘴気の森へ出発した。
この実験は被験者の生命力が鍵を握る。
その為に、実験に参加させるに相応しい研究員も精鋭のみにして臨んだ。
この際、中途半端な研究員は要らない。
それほど研究所側も神経質にならないとできない危険な実験だったのだ。
研究チームと被験者の二人は瘴気の森へ足を踏み入れる。
そして、ここからルージュパピヨンの実験が開始された。
野生のルージュパピヨンが被験者二人の周囲を囲っていく──。
彼らから昨夜の愛の残り香が気力として漏れているのだろうか?
血の揚羽蝶が被験者の二人、レムとルーアの露出させた二の腕や首辺りに止まると遠慮なく彼らに噛み付いてきた。
「うっ!」
「くっ……!」
血の揚羽蝶は彼らの血を吸うと体から離れて、彼らの周囲を暫くの間、飛び回る。
赤い翅には血の赤のようなエネルギーが満ちている。
彼らは苔の絨毯に腰をおろしてお互いの手を握り合い、痛みと戦う。
「──大丈夫か? ルーア」
「結構、痛いね」
「まるで複数の注射器を刺された気分だよ」
研究員は周囲を飛び回るルージュパピヨンの動きを観察しながら、周囲の警戒も厳しくする。
一度、ルージュパピヨンが瘴気の森の奥へ姿を消した。
仲間を連れに向かったのだろう。
今の内に医師のチェックを入れる。
心拍数のチェックとルージュパピヨンに噛みつかれた所の消毒がされる。被験者二人共に噛みつかれた箇所は4箇所程だった。
二人揃って噛みつかれたのは首筋と二の腕。
他の箇所はルーアは露出箇所が足首なのでそこと左手の甲だった。
レムは右側の二の腕と首筋にもう1箇所、噛みつかれた所為が見られた。
二人共に噛みつかれた瞬間に痛みの他にも目眩を覚えたと報告した。
すると二十匹ものルージュパピヨンが飛んできているのを偵察に向かった研究員が目撃して報告に戻る。
赤い翅を羽ばたき血の揚羽蝶が飛んでくると、彼らの周囲を囲み旋回をしている。恐ろしく不気味なのに、とても幻想的でもあった。
これはルージュパピヨンが被験者二人の生気が気に入った印だ──次の段階に血の揚羽蝶が入ってきている。
ルージュパピヨンは宿主となる者の周辺を羽ばたくと宿主にする為に同時に五匹ずつ彼らの生き血を吸い取り始めた。
「いざこうしてやられる側になると……怖いね。痛みというより、恐怖が勝る……」
「これって……私達の生気を交換しているのかな……?」
彼らはお互いに握りしめ合った手を力一杯に握る……。ルージュパピヨンはルーアの生気を吸った後にレムの方にそれを供給している。レムは噛みつかれる度に痛みと共に見知った力が流れてくるのを感じる──。
ルーアの生気だ。愛を交わす時に感じる同等の力が流れてくるのを感じる──。
横から観察しているホープ達、研究員は予想以上にその実験は凄惨なものになったと医療チームの増員がされて救急車も駆けつけていた。
目の前で起きているそれは、血の揚羽蝶の饗宴──ルージュパピヨンが己の宿主に生気の供給をする様は、漆黒の騎士の下に集まる赤い翅の給仕だ──。
するとレムの瞳が深紅に変わり始める。
「いけない! これ以上は彼の精神が壊されてしまう! 実験の中止を!」
「まだだ! ホープ! まだだ……」
「レムさん! 眼の色が深紅になっています! 危険信号なんです!」
「……だろうな……! もう……少しなんだ……ううッ! 血の揚羽蝶が……俺に……力を与えてくれているんだ……」
「だけど! 端から観ても限界ですよ!」
「はあっ……はあっ……確かに、血が明らかに流れて世界が……霞んで見える……」
「レム! 私の存在は解る!? 握っているから! 手を離さないで……!」
魔力測定を担当する研究員は、己が持つ端末の魔力の値に目を疑った。膨大な魔力が彼から測定されている……! 桁がもう二桁も違う値を示している……!
その研究員も初歩の魔法を扱う身なので肌で感じる事は出来た。
とんでもない魔力の奔流が流れてきている。同時に混沌の力すらも溢れてきている。
レムの眼の色が深紅になったり、菫色になったりと忙しなく明滅している。
葛藤している……己の自我と暴力的な魔力が彼の精神で闘っているんだ。
「ううッ……もう……だめなのか……」
「実験を中止! すぐに治療を開始! 急げ!」
「はい!」
血の揚羽蝶が周囲を漂う中で混沌の女神の騎士はその意識を手放して暗闇へ堕ちていく。
ルーアも手を握り締めたまま、彼女も共に意識を失った──。
彼ら二人は共に赤い斑点を肌に刻まれ苔の絨毯に倒れてしまっていた──。
彼らが医務室にて意識を取り戻すのに、それから三日間を要した。
「初回の実験は成功したのでしょうか?」
「それ以前の話でしょうね……」
ホープは集中治療室にて治療を受ける彼らを観て……深い後悔をする……。
「やってみなければ判らない。だけど、人智を超えた力を手に入れる為にはあの恐怖を体験しなければならない……。僕なら途中で折れてしまう……」
血の揚羽蝶はまるで宿主を心配するように未だに五匹程が周囲を飛んでいる……。
集中治療室へ入っても血の揚羽蝶は追い払えど無理矢理着いてきた。
そして、主君の目覚めを待つように未だに赤い翅を美しく羽ばたいている──。
混沌の女神ルーアと女神の騎士レムは最後の体調チェックを受けている。
その日のコンディションは中々の好調でこれなら実験に参加させても問題はないと判断された。
それから実験の流れを被験者二人に説明をする。実験場所は瘴気の森。ただし入口付近にてする事になる。
何か体調に異変が起きたら即刻で実験は中止、被験者の安全確保を優先する。
その場での医師の治療を施す為に医師の同行もさせて、研究所の責任者ホープも現地に足を運ぶ。その他、ルージュパピヨンの研究を行う研究員も同行させて、瘴気の森にて行われる実験の進行をスムーズにする。
実験に使用するルージュパピヨンは野生の血の揚羽蝶でより自然に近い状態で実験を開始する。
実験に参加する者達は足早に瘴気の森へ出発した。
この実験は被験者の生命力が鍵を握る。
その為に、実験に参加させるに相応しい研究員も精鋭のみにして臨んだ。
この際、中途半端な研究員は要らない。
それほど研究所側も神経質にならないとできない危険な実験だったのだ。
研究チームと被験者の二人は瘴気の森へ足を踏み入れる。
そして、ここからルージュパピヨンの実験が開始された。
野生のルージュパピヨンが被験者二人の周囲を囲っていく──。
彼らから昨夜の愛の残り香が気力として漏れているのだろうか?
血の揚羽蝶が被験者の二人、レムとルーアの露出させた二の腕や首辺りに止まると遠慮なく彼らに噛み付いてきた。
「うっ!」
「くっ……!」
血の揚羽蝶は彼らの血を吸うと体から離れて、彼らの周囲を暫くの間、飛び回る。
赤い翅には血の赤のようなエネルギーが満ちている。
彼らは苔の絨毯に腰をおろしてお互いの手を握り合い、痛みと戦う。
「──大丈夫か? ルーア」
「結構、痛いね」
「まるで複数の注射器を刺された気分だよ」
研究員は周囲を飛び回るルージュパピヨンの動きを観察しながら、周囲の警戒も厳しくする。
一度、ルージュパピヨンが瘴気の森の奥へ姿を消した。
仲間を連れに向かったのだろう。
今の内に医師のチェックを入れる。
心拍数のチェックとルージュパピヨンに噛みつかれた所の消毒がされる。被験者二人共に噛みつかれた箇所は4箇所程だった。
二人揃って噛みつかれたのは首筋と二の腕。
他の箇所はルーアは露出箇所が足首なのでそこと左手の甲だった。
レムは右側の二の腕と首筋にもう1箇所、噛みつかれた所為が見られた。
二人共に噛みつかれた瞬間に痛みの他にも目眩を覚えたと報告した。
すると二十匹ものルージュパピヨンが飛んできているのを偵察に向かった研究員が目撃して報告に戻る。
赤い翅を羽ばたき血の揚羽蝶が飛んでくると、彼らの周囲を囲み旋回をしている。恐ろしく不気味なのに、とても幻想的でもあった。
これはルージュパピヨンが被験者二人の生気が気に入った印だ──次の段階に血の揚羽蝶が入ってきている。
ルージュパピヨンは宿主となる者の周辺を羽ばたくと宿主にする為に同時に五匹ずつ彼らの生き血を吸い取り始めた。
「いざこうしてやられる側になると……怖いね。痛みというより、恐怖が勝る……」
「これって……私達の生気を交換しているのかな……?」
彼らはお互いに握りしめ合った手を力一杯に握る……。ルージュパピヨンはルーアの生気を吸った後にレムの方にそれを供給している。レムは噛みつかれる度に痛みと共に見知った力が流れてくるのを感じる──。
ルーアの生気だ。愛を交わす時に感じる同等の力が流れてくるのを感じる──。
横から観察しているホープ達、研究員は予想以上にその実験は凄惨なものになったと医療チームの増員がされて救急車も駆けつけていた。
目の前で起きているそれは、血の揚羽蝶の饗宴──ルージュパピヨンが己の宿主に生気の供給をする様は、漆黒の騎士の下に集まる赤い翅の給仕だ──。
するとレムの瞳が深紅に変わり始める。
「いけない! これ以上は彼の精神が壊されてしまう! 実験の中止を!」
「まだだ! ホープ! まだだ……」
「レムさん! 眼の色が深紅になっています! 危険信号なんです!」
「……だろうな……! もう……少しなんだ……ううッ! 血の揚羽蝶が……俺に……力を与えてくれているんだ……」
「だけど! 端から観ても限界ですよ!」
「はあっ……はあっ……確かに、血が明らかに流れて世界が……霞んで見える……」
「レム! 私の存在は解る!? 握っているから! 手を離さないで……!」
魔力測定を担当する研究員は、己が持つ端末の魔力の値に目を疑った。膨大な魔力が彼から測定されている……! 桁がもう二桁も違う値を示している……!
その研究員も初歩の魔法を扱う身なので肌で感じる事は出来た。
とんでもない魔力の奔流が流れてきている。同時に混沌の力すらも溢れてきている。
レムの眼の色が深紅になったり、菫色になったりと忙しなく明滅している。
葛藤している……己の自我と暴力的な魔力が彼の精神で闘っているんだ。
「ううッ……もう……だめなのか……」
「実験を中止! すぐに治療を開始! 急げ!」
「はい!」
血の揚羽蝶が周囲を漂う中で混沌の女神の騎士はその意識を手放して暗闇へ堕ちていく。
ルーアも手を握り締めたまま、彼女も共に意識を失った──。
彼ら二人は共に赤い斑点を肌に刻まれ苔の絨毯に倒れてしまっていた──。
彼らが医務室にて意識を取り戻すのに、それから三日間を要した。
「初回の実験は成功したのでしょうか?」
「それ以前の話でしょうね……」
ホープは集中治療室にて治療を受ける彼らを観て……深い後悔をする……。
「やってみなければ判らない。だけど、人智を超えた力を手に入れる為にはあの恐怖を体験しなければならない……。僕なら途中で折れてしまう……」
血の揚羽蝶はまるで宿主を心配するように未だに五匹程が周囲を飛んでいる……。
集中治療室へ入っても血の揚羽蝶は追い払えど無理矢理着いてきた。
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