混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第3章 混沌、それは人の心

3-2 新たなる力への探求

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 ホープ・クレアリスの助力を得られる事になった彼らは、早速、ホープに現在置かれている状況を話す。
 そして、女神の騎士レムがグレイブに指摘されてしまった『決定的な力の差』についての解決策を模索する。
 グレイブの混沌が具現化した剛剣には、銀色の剣では少々、力不足感が漂う。 
 それらの圧倒的な力を前には無力感が襲うのはもう味わいたくもない屈辱だった。
 そこでホープは学業都市アカデミアの中にある研究室を訪ねてみると、そこに解決策があるかもしれないと教えた。

「特に足を運ぶに相応しい場所は一階の庭園です。アカデミアは近くに瘴気の森がありますが、寸分違わず再現してみせた庭園なんですよ」
「そこに何か解決策がある──と?」
「そこには生態調査もする研究者もいますので、何かヒントは貰えるかと思います」

 アカデミアの研究所を歩き回るレムとルーアは人口的な研究所と相反する庭園に科学と自然の調和を感じた──。
 携えた銀色の剣の強化もアカデミアならできるかもしれない。
 程なく庭園に差し掛かる。
 入口付近の職員は注意喚起をしてから中へ入れてくれた。

「この庭園は瘴気の森を寸分違わず再現しております。危険とみたら避難はして下さい。放し飼いした魔物もいますから──」

 自動ドアを潜ると目の前に広がるのは広大な古代の香りのする森だった。
 上を見上げるとまるで大きなムカデのような生物が悠然と飛んでいる。
 とでも人口的に再現したとは思えない程に足場の悪さも再現されている。
 木々には苔や胞子が生えている。
 見渡せば、細かな虫が森と大差なく暮らしており、室内なのに小さな小川まで流れている。
 レムはルーアの手を取りながら、彼女を守りながら森の探索をした。
 すると、目の前に真っ赤な蝶が周辺を囲っている。大きさとしては地球の揚羽蝶と大差はないが、その赤い蝶はレムの首に止まった。

「この赤い蝶は一体──」

 すると赤い蝶は彼の首に噛みつき生気を奪った。微かに視界がぼやけるレム。
 すると近くの研究員が駆け寄り、気を遣って声をかけてくれた。

「大丈夫ですか? 体に異変を感じますか!?」
「グッ……あの赤い蝶は一体──?」
「ルージュパピヨンという学名がある吸血生物です。あんなに美しいのに他の生物の生気を吸って生命を保つという生態なんですよ」
「ルージュパピヨン──まさに【赤い蝶】だね」
(吸血生物か。地球で表現するならヒルみたいな生態だな)

 よくよく周辺を観るとルージュパピヨンはそこらじゅうに飛んで様々な生物に噛みつき、血を吸っている。
 それはまさに血の赤の蝶、そのもの。
 庭園のかなり奥まで進むと、大きな熊みたいな生物がルージュパピヨンに群がられ、凶暴化しているのを目撃する。
 熊の周りにはルージュパピヨンが赤い翅を羽ばたき、生気を奪い取る。
 研究員が木の陰でその経過観察をしている。
 
「やはりあの赤い蝶には、生気を奪う相手には暴力的な力を与える交換条件みたいなものがあるのか……」

 赤い蝶が群がる熊の前に、強そうな緑色の飛竜が現れた。
 研究員はレムとルーアを見つけると、彼らを手招きして物陰に隠れるように促していた。
 大きな木の陰に彼らは来るとレムは聞いた。

「あなたはあのルージュパピヨンの研究をしているのですか?」
「ああ、大変興味深い生態なんだ。ルージュパピヨンは。あの緑色の飛竜も強いが、暫く傍観しているといい。面白い光景が観られる」

 緑色の飛竜は咆哮を上げるが、赤い蝶を周辺に纏わせる熊は怯む事もなく、重たい爪の一撃でその緑色の飛竜を引き裂いた。
 臓物が飛び散る様をルーアは観ていられないので両手で顔を覆った。
 レムはその熊の異常な攻撃力に肝を冷やす。
 一体──今のは?
 研究員は緑色の飛竜の遺骸に近寄ると、そこから赤い蝶が生まれて周辺に飛び去る様を観察している。

「やはり。思った通りだ。ルージュパピヨンにはその生物を強靭にする力があるんだな。あの緑色の飛竜グリーンドラゴンを一撃で葬るなんて──」

 そこでレムは一つの策を考えついた。
 ルージュパピヨンの生態を使えば、途方もない力を得られるのでは? 
 しかも自然発生する野生のルージュパピヨンなら、それは途轍もないものを齎すかもしれない──と。
 問題点があるとしたら、まだどのような副作用があるかを身を持って知らない事だ。
 だからこそ、それを体験する必要がある。
 
 彼らはアカデミアの庭園から去ると、近くの研究員に瘴気の森の場所を聞いていた。
 瘴気の森はアカデミアから東にある深く危険な森。生息する魔物も強い生物ばかりだから、足を踏み入れるなら相応の覚悟で入る事を推奨してくれた。
 ルーアはレムが力に飢えているのを観て、グレイブに突きつけられた屈辱は今に、混沌の格好の餌にならないかを危惧していた──。
 ──私の力ではグレイブを止める事はできないのかな──。
 一抹の不安と悲しみがルーアの心に巣食った──。
 
「ルーア」
「──何?」
「俺はたぶん、君から観ると力に飢えているように見えるだろうな──」

 彼女に背中を向けてうつむく騎士。
 そして、それを彼女自身のせいだと思い始めていると考えているだろうと察したレムは、自分自身の存在に疑いを抱かないように励ました。

「ルーア。力不足なのは俺なんだ。君のせいじゃない。だが、愛の力では越えられない壁もある。俺はその壁を壊す為に赤い蝶に賭けてみたいんだ」
「正気を失うかもしれない──その時は俺を救い出してくれ」
「──レム」
「頼むよ。ルーア」

 アカデミア研究所の人気のいない場所で彼らは激しく唇を貪る。
 その口づけにルーアはただ蕩けきった顔を晒す事しかできなかった──。
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