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第3章 混沌、それは人の心
3-1 混沌、それは人の心
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異世界アルトカークスでは、銀色の竜ミカエルに跨がる女神の騎士レムと混沌の女神ルーアが、とある学業都市へ向かっている。
学業都市アカデミア。
シンボルに不死鳥を掲げる都市で、混沌に関する研究を進める第一人者が研究機関を設けているという。
彼らの目的は混沌の解明と制御だった。そして女神殺しを企むグレイブをどうにか止めたいという利害はレムと一致している。
ミカエルに乗り学業都市アカデミアに向かう彼らはその研究者への接触を試みる事にした。
学業都市アカデミアは、ルーアの王国と歓楽都市ノーチラスの次に規模が大きな都市部でアルトカークスの学者の都として知られている。
そこでは混沌に関する研究の他にも、魔法について、そして武器について、人知を超えた力を生み出す為の研究がされている。
学業都市の門が見える。
柱の両端には不死鳥の銅像が置かれている。建物はまるで研究所そのもので、レムは元々いた地球に似た空気に安心感を覚える。こういう所は落ち着く。
研究所の中は入口のロビーこそ賑やかだが、研究員達が務めているだけに大声で話す人はあまりいない。
レムとルーアはロビーの受付に出向くと、学業都市アカデミアのリーダーに面会したいと申し出る。
自分達の事を混沌の秘密を追うものとして自己紹介して、混沌に関する研究員のリーダーに面会したいのだと言った。
程なくアカデミアのリーダーがいる研究室へと案内される。
そこには爽やかな白銀色の銀髪の青年がいた。理知的な緑色の瞳が特徴的な男性だった。
「初めまして。学業都市アカデミアの顧問研究員、ホープ・クレアリスです。あなたがルーア姫様ですね? ようこそこちらまで足を運んで下さいました。そしてあなたが混沌の女神の騎士──ですね?」
「レム・レンブラントだ。気軽にレムとでも呼んでくれ」
「初めまして。レムさん。こちらにはどのような用件で?」
「アカデミアに混沌について研究を進めている研究員がいる──という噂話を聞いてね」
「はい。実は僕がその研究の第一人者です。僕自身は皆さんの力があってこそ、研究を進められていますので顧問研究員として、このアカデミアを統率しています」
「ホープ。いきなり答えを聞くが、『混沌』とは一体、なんだろうか?」
「我々の研究員の中での混沌の定義はこれです。【暴走した人間の負の心】です」
「【暴走した人間の負の心】?」
「この世界に満ちている混沌は、憎しみや悲しみ、怒り、理不尽、あらゆる負の心を栄養にして心の隙間に入り込む暗黒の力─という定義があります」
「つまりは【混沌】とは【人間の心】とも取れる訳だね──」
「ええ。そして人間が死ぬと転生をする為の前段階があります。それが混沌の女神による浄化作用です。そうしてまたまっさらな心にして転生をさせる仕組みですね」
「──でも、今はその転生する人間はいない状態でもある──」
「──そうです。レムさんの使命はルーア姫を混沌の力の生まれる馬所へ導く事にあります」
「それは合点がいく。だが、そこに邪魔を入れてきた奴がいた。ビヨンド・グレイブという騎士だ。奴は時読みの一族というが──」
「時読みの一族の事が判らないんですね?」
「彼は何者なんだ?」
「この世界には混沌の女神が創る世界を維持する為の一族がいます。彼らは時読みの一族と言われて先祖代々、混沌の女神に仕える事を宿命づけられた一族です」
「なのに、奴は俺達を襲ってくる。何故だ?」
「時読みの一族には時読みの巫女と騎士がいます。常に二人一組で行動するあなた達のような存在が彼らです」
「その時読みの巫女の名前は?」
「彼らは代々、時読みの巫女のエリスという名前を継承しています。騎士には名前の継承はありませんが、大体が巫女と恋人同士である場合があります」
「──時の概念が崩壊した事実は知っているかな?」
「ええ。グレイブの仕業ですよね。しかし、奴はそれだけでは満足はしないでしょう」
「何を企んでいるんだ?」
「エリスを助ける為に次はルーア姫を殺して、永遠の生命を狙っているでしょうね」
「そ、そんな!」
ルーアはその話を聞いて顔を真っ青にする。
傍らのレムは落ち着くように彼女を自分自身の胸に抱かせた。
レムはその企みに耳を傾ける。
「グレイブは恐らく混沌の場所を知っています。そこにルーア姫の遺体を連れて、エリスの体にルーア姫の魂を移し変えるのを企んでいるでしょう」
「──何故、そこまでする?」
「グレイブは全ての時代のエリスの死に際を目撃しております。理由は誓約者だからでしょうね」
「誓約者──?」
「代々のエリスを護る為に騎士となった人物の事です。奴は時の概念を破壊しただけでは、エリスを永遠の存在にする事はできないと悟った。だからこそルーア姫を狙っている」
「そして、俺と対立しているって訳か……」
ホープは真剣な表情で混沌の女神の騎士の使命を話して聞かせる。
「だからこそルーア姫を護らないとならないんです。ルーア姫は混沌の女神となり、転生を司る役目の女性──替えのきかない唯一の女性です」
「──その話を聞けて安心できた。グレイブはエリスを永遠の存在にしたい。その為にルーアが必要。だけど、彼女は大事な使命がある。それを果たす為に俺が必要って事か」
「なら、ホープ。その為に君の力を貸して欲しい。アカデミアの研究は人間の叡智そのものだ。俺はその叡智で持って奴を倒したい」
「こちらこそ。宜しくお願い致します。レムさん」
二人はそこで固い握手をする。
ホープは握手をしながら語る。
「銀翼の天使、ミカエルがあなたに力を貸している理由が解ります。あなたはけして我欲の為に戦ってはいない」
「──?」
「ルーア姫を護りたい……彼女の孤独を埋めたい……共に居たい」
「それは、ルーア姫を愛しているから──ですよね」
「──ああ」
「共に闘いましょう。混沌の女神の使命の為に」
アルトカークスではこれからホープも戦線に参加して彼らの知恵としてサポートする事になった。
学業都市アカデミア。
シンボルに不死鳥を掲げる都市で、混沌に関する研究を進める第一人者が研究機関を設けているという。
彼らの目的は混沌の解明と制御だった。そして女神殺しを企むグレイブをどうにか止めたいという利害はレムと一致している。
ミカエルに乗り学業都市アカデミアに向かう彼らはその研究者への接触を試みる事にした。
学業都市アカデミアは、ルーアの王国と歓楽都市ノーチラスの次に規模が大きな都市部でアルトカークスの学者の都として知られている。
そこでは混沌に関する研究の他にも、魔法について、そして武器について、人知を超えた力を生み出す為の研究がされている。
学業都市の門が見える。
柱の両端には不死鳥の銅像が置かれている。建物はまるで研究所そのもので、レムは元々いた地球に似た空気に安心感を覚える。こういう所は落ち着く。
研究所の中は入口のロビーこそ賑やかだが、研究員達が務めているだけに大声で話す人はあまりいない。
レムとルーアはロビーの受付に出向くと、学業都市アカデミアのリーダーに面会したいと申し出る。
自分達の事を混沌の秘密を追うものとして自己紹介して、混沌に関する研究員のリーダーに面会したいのだと言った。
程なくアカデミアのリーダーがいる研究室へと案内される。
そこには爽やかな白銀色の銀髪の青年がいた。理知的な緑色の瞳が特徴的な男性だった。
「初めまして。学業都市アカデミアの顧問研究員、ホープ・クレアリスです。あなたがルーア姫様ですね? ようこそこちらまで足を運んで下さいました。そしてあなたが混沌の女神の騎士──ですね?」
「レム・レンブラントだ。気軽にレムとでも呼んでくれ」
「初めまして。レムさん。こちらにはどのような用件で?」
「アカデミアに混沌について研究を進めている研究員がいる──という噂話を聞いてね」
「はい。実は僕がその研究の第一人者です。僕自身は皆さんの力があってこそ、研究を進められていますので顧問研究員として、このアカデミアを統率しています」
「ホープ。いきなり答えを聞くが、『混沌』とは一体、なんだろうか?」
「我々の研究員の中での混沌の定義はこれです。【暴走した人間の負の心】です」
「【暴走した人間の負の心】?」
「この世界に満ちている混沌は、憎しみや悲しみ、怒り、理不尽、あらゆる負の心を栄養にして心の隙間に入り込む暗黒の力─という定義があります」
「つまりは【混沌】とは【人間の心】とも取れる訳だね──」
「ええ。そして人間が死ぬと転生をする為の前段階があります。それが混沌の女神による浄化作用です。そうしてまたまっさらな心にして転生をさせる仕組みですね」
「──でも、今はその転生する人間はいない状態でもある──」
「──そうです。レムさんの使命はルーア姫を混沌の力の生まれる馬所へ導く事にあります」
「それは合点がいく。だが、そこに邪魔を入れてきた奴がいた。ビヨンド・グレイブという騎士だ。奴は時読みの一族というが──」
「時読みの一族の事が判らないんですね?」
「彼は何者なんだ?」
「この世界には混沌の女神が創る世界を維持する為の一族がいます。彼らは時読みの一族と言われて先祖代々、混沌の女神に仕える事を宿命づけられた一族です」
「なのに、奴は俺達を襲ってくる。何故だ?」
「時読みの一族には時読みの巫女と騎士がいます。常に二人一組で行動するあなた達のような存在が彼らです」
「その時読みの巫女の名前は?」
「彼らは代々、時読みの巫女のエリスという名前を継承しています。騎士には名前の継承はありませんが、大体が巫女と恋人同士である場合があります」
「──時の概念が崩壊した事実は知っているかな?」
「ええ。グレイブの仕業ですよね。しかし、奴はそれだけでは満足はしないでしょう」
「何を企んでいるんだ?」
「エリスを助ける為に次はルーア姫を殺して、永遠の生命を狙っているでしょうね」
「そ、そんな!」
ルーアはその話を聞いて顔を真っ青にする。
傍らのレムは落ち着くように彼女を自分自身の胸に抱かせた。
レムはその企みに耳を傾ける。
「グレイブは恐らく混沌の場所を知っています。そこにルーア姫の遺体を連れて、エリスの体にルーア姫の魂を移し変えるのを企んでいるでしょう」
「──何故、そこまでする?」
「グレイブは全ての時代のエリスの死に際を目撃しております。理由は誓約者だからでしょうね」
「誓約者──?」
「代々のエリスを護る為に騎士となった人物の事です。奴は時の概念を破壊しただけでは、エリスを永遠の存在にする事はできないと悟った。だからこそルーア姫を狙っている」
「そして、俺と対立しているって訳か……」
ホープは真剣な表情で混沌の女神の騎士の使命を話して聞かせる。
「だからこそルーア姫を護らないとならないんです。ルーア姫は混沌の女神となり、転生を司る役目の女性──替えのきかない唯一の女性です」
「──その話を聞けて安心できた。グレイブはエリスを永遠の存在にしたい。その為にルーアが必要。だけど、彼女は大事な使命がある。それを果たす為に俺が必要って事か」
「なら、ホープ。その為に君の力を貸して欲しい。アカデミアの研究は人間の叡智そのものだ。俺はその叡智で持って奴を倒したい」
「こちらこそ。宜しくお願い致します。レムさん」
二人はそこで固い握手をする。
ホープは握手をしながら語る。
「銀翼の天使、ミカエルがあなたに力を貸している理由が解ります。あなたはけして我欲の為に戦ってはいない」
「──?」
「ルーア姫を護りたい……彼女の孤独を埋めたい……共に居たい」
「それは、ルーア姫を愛しているから──ですよね」
「──ああ」
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