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第1章 女神の騎士と女神殺し
1-15 黒猫の妖精
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時間を管理する砂時計【聖砂漏(せいさろう)】が破壊された事で徐々に世界が歪み始める。
【聖砂漏】が守っていたのは時間だけではなく空間も守っていた。
そして、その楔が破壊された事で混沌の力は地球にまで拡大する事になる──。
竜の天使であるミカエルは、その事をレムに告げると次にどうやって解決するつもりなのかを聞いた。
彼らは時の神殿から撤退して、今は本拠地に近いルーアの祖国まで身を引いていた。
地球にまで戦いが拡大するのは目に見えて明らかだ。その混乱の収拾をする人物が必要になる。
その考えをしている最中、突如として黒猫が人語を駆使して話しかけてきた。
「よう! 混沌の女神様と騎士のおじさん!」
「な、何だ? この陽気な声は?」
「下だよ! 下を見てくれよ!」
「猫!?」
「もしかして、ケット・シー?」
「おうよ! 黒猫の妖精さ」
「レム。その黒猫は味方よ! 黒猫の妖精って言われている妖精なの!」
その黒猫の妖精は何と二本足で立ち、お洒落な黒い礼服を纏っている。
眼の色は黄金色で、不思議な魅力を彼は感じる。
黒猫の妖精は世界の理が崩れ始めた事に敏感に察知して、その解決手段を共に考える為に自ら彼らの下に足を運んだのである。
「随分と困っている様子だから観に来たのはいいけど、切羽詰まる状況だね」
「私達が不甲斐ないばかりに──。すまないね──」
「いいよ、どうせこうなるだろうなぁ~って思っていたし」
「随分と辛辣だね」
「相手が女神殺しじゃ、そうなるだろうなぁって思っていただけさ」
「ねぇ? ケット・シーのあなた達って確か、地球まで行くことが出来るんじゃなかったっけ?」
「ああ。地球にも行くことは出来るよ。しかも武器も運ぶ事も可能だよ」
「──それだ」
レムはそこで思いつく。
今にアルトカークスの魔物が地球にまで来るという事はアルトカークス製の武器をケット・シーを通して渡せるという事だ。
それを操る事ができる人物達に地球の混乱を解決してもらい、自分達はグレイブに対する武力の強化を図る。
地球の混乱が終わる頃にグレイブに対する決定的な打撃を被る事ができるなら解決する糸口は見えてくるかもしれない──。
恐らくアルトカークスには、まだ未知の力が眠っているはずだ。それを得る事ができるならグレイブを倒す糸口も見えるはずだ。
「騎士のおじさん。何か考えついたって感じだね~。目の色を変わっているよ」
「君の名前は?」
「オレ? ──キッドだよ」
「──キッドか。頼みがあるんだけど」
「頼み? 聞いてやってもいいけど、何か報酬はないかな~?」
「報酬──ね」
そこでルーアが小声でケット・シーの好物を後ろから手渡しながら説明してくれた。
『ケット・シーはマタタビに弱いらしいわ。丁度持っているから』
『あの【猫はマタタビに弱い】って言うのは本当の事だったのか?』
『彼らにとっては麻薬みたいなモノらしいわよ』
『──ありがとう』
レムはルーアから渡されたマタタビをこれ見よがしにキッドに見せた。
「これ、なーんだ?」
「そ、それはマタタビ! それ、寄越すニャ……じゃなくて寄越せ──っ!」
「フフン、どうしようかなぁ」
ルーアは笑った。意外とレムは意地悪と言うか交渉上手と言うか。
上手くそれで懐柔しようと茶目っ気も発揮する人物らしい。
キッドにマタタビを見せびらかして、上手く話を持っていかせようする仕草が大人の魅力に見えた。
キッドはどうにかマタタビを手に入れようと飛んだり跳ねたりするが、レムは手を上に挙げたりして取らせない。
「じゃあ──私の依頼、受けてくれるかな?」
「受けるよ! 受けるから、マタタビをくれ──」
「はい。大事に扱ってくれよ」
「どうするつもり?」
そこでレムは、黒猫の妖精の力を借りて、地球にいる知り合いの力を借りる事を思いついた。
アルトカークス製の武器をキッドの手で運んで貰って地球で起きる事件の解決をして貰いつつ、こちらは未知の力を探してそれを会得する。
それがなるべくなら誰も使った事のない程に圧倒的な力があれば、なおさら良い。
ルーアの力も借りる事ができるなら条件に当てはまる。それを探す。
地球の知り合いには、元技術士官の立場を使えばエースパイロットの彼らの力を借りられるし、彼の娘にもこの際、助けを求める事にする。
娘も自分自身が生きていると知れば、動いてくれるという確信はあった。
その為の準備を整える事にする──。
「そうね。このアルトカークスには未知の力が確かにあるはず。このアルトカークスも広いから何か手はあるよね」
「絶望するには早いよな」
「力には力を──って考えたけど、私は元技術士官だ。なら、求めるなら人類の叡智。絶対に何か手はある。それを会得する」
「どんな人達に助けを求めるの?」
レムはそこで3名の名前を挙げた。
ハザード・レスター。
ロベルト・ギリアム。
そして──ジョニー・ライトニング。
そして最後に自らの娘──ジェニファー・レンブラント。
彼らと彼女の力を借りれば、地球の混乱は解決する事ができるのではないだろうか。
その為にはまずは彼らの武器を探して、キッドに渡さないと。
そのキッドはマタタビに頬ずりして完全にうっとりしてじゃれついていた──。
まさに【猫はマタタビに弱い】だった。
マタタビにじゃれついている間に手紙を書くことにしたレムは、便箋とペンをルーアから借りて手紙を娘に宛てて書いていく。
ふと──彼は気付いた。
ルーアとジェニファーには何か特別な結び付きがあるのだろうか?
ルーアの瞳はジェニファーにそっくり過ぎるのだ──。
レムはルーアに聞いた。
「ルーア。君のその瞳──本当に実の娘にそっくりだよ。その瞳には何か特別な意味はあるのかな──?」
「──うん。──私、少し先の未来が視える時があるの──。そして──他の世界の人の事も視える時がある──。皆はその人をジェニファーって呼んでいる」
「──まさか、君とジェニファーは?」
「【女神の瞳】で繋がっているの。だから、ジェニファーって人にもあなたの事が視えてるはずよ」
じゃあ──娘にもその時、ルーアを抱いた時に自分が見えていたというのか。
──なんて、背徳的な快楽なんだ──。
そして──扇情的な光景なんだろう──。
その時、レムの心に何かが芽生えた。
その──背徳的な快楽に溺れてみたい──扇情的な光景を見せつけてみたい──。
その夜から、混沌の女神の騎士の欲望が、ルーアを激しく、淫らに、変えてゆく。
そして、レムもまた、抑制されていた本来の自分が目覚めていくのを感じていくのであった。
【聖砂漏】が守っていたのは時間だけではなく空間も守っていた。
そして、その楔が破壊された事で混沌の力は地球にまで拡大する事になる──。
竜の天使であるミカエルは、その事をレムに告げると次にどうやって解決するつもりなのかを聞いた。
彼らは時の神殿から撤退して、今は本拠地に近いルーアの祖国まで身を引いていた。
地球にまで戦いが拡大するのは目に見えて明らかだ。その混乱の収拾をする人物が必要になる。
その考えをしている最中、突如として黒猫が人語を駆使して話しかけてきた。
「よう! 混沌の女神様と騎士のおじさん!」
「な、何だ? この陽気な声は?」
「下だよ! 下を見てくれよ!」
「猫!?」
「もしかして、ケット・シー?」
「おうよ! 黒猫の妖精さ」
「レム。その黒猫は味方よ! 黒猫の妖精って言われている妖精なの!」
その黒猫の妖精は何と二本足で立ち、お洒落な黒い礼服を纏っている。
眼の色は黄金色で、不思議な魅力を彼は感じる。
黒猫の妖精は世界の理が崩れ始めた事に敏感に察知して、その解決手段を共に考える為に自ら彼らの下に足を運んだのである。
「随分と困っている様子だから観に来たのはいいけど、切羽詰まる状況だね」
「私達が不甲斐ないばかりに──。すまないね──」
「いいよ、どうせこうなるだろうなぁ~って思っていたし」
「随分と辛辣だね」
「相手が女神殺しじゃ、そうなるだろうなぁって思っていただけさ」
「ねぇ? ケット・シーのあなた達って確か、地球まで行くことが出来るんじゃなかったっけ?」
「ああ。地球にも行くことは出来るよ。しかも武器も運ぶ事も可能だよ」
「──それだ」
レムはそこで思いつく。
今にアルトカークスの魔物が地球にまで来るという事はアルトカークス製の武器をケット・シーを通して渡せるという事だ。
それを操る事ができる人物達に地球の混乱を解決してもらい、自分達はグレイブに対する武力の強化を図る。
地球の混乱が終わる頃にグレイブに対する決定的な打撃を被る事ができるなら解決する糸口は見えてくるかもしれない──。
恐らくアルトカークスには、まだ未知の力が眠っているはずだ。それを得る事ができるならグレイブを倒す糸口も見えるはずだ。
「騎士のおじさん。何か考えついたって感じだね~。目の色を変わっているよ」
「君の名前は?」
「オレ? ──キッドだよ」
「──キッドか。頼みがあるんだけど」
「頼み? 聞いてやってもいいけど、何か報酬はないかな~?」
「報酬──ね」
そこでルーアが小声でケット・シーの好物を後ろから手渡しながら説明してくれた。
『ケット・シーはマタタビに弱いらしいわ。丁度持っているから』
『あの【猫はマタタビに弱い】って言うのは本当の事だったのか?』
『彼らにとっては麻薬みたいなモノらしいわよ』
『──ありがとう』
レムはルーアから渡されたマタタビをこれ見よがしにキッドに見せた。
「これ、なーんだ?」
「そ、それはマタタビ! それ、寄越すニャ……じゃなくて寄越せ──っ!」
「フフン、どうしようかなぁ」
ルーアは笑った。意外とレムは意地悪と言うか交渉上手と言うか。
上手くそれで懐柔しようと茶目っ気も発揮する人物らしい。
キッドにマタタビを見せびらかして、上手く話を持っていかせようする仕草が大人の魅力に見えた。
キッドはどうにかマタタビを手に入れようと飛んだり跳ねたりするが、レムは手を上に挙げたりして取らせない。
「じゃあ──私の依頼、受けてくれるかな?」
「受けるよ! 受けるから、マタタビをくれ──」
「はい。大事に扱ってくれよ」
「どうするつもり?」
そこでレムは、黒猫の妖精の力を借りて、地球にいる知り合いの力を借りる事を思いついた。
アルトカークス製の武器をキッドの手で運んで貰って地球で起きる事件の解決をして貰いつつ、こちらは未知の力を探してそれを会得する。
それがなるべくなら誰も使った事のない程に圧倒的な力があれば、なおさら良い。
ルーアの力も借りる事ができるなら条件に当てはまる。それを探す。
地球の知り合いには、元技術士官の立場を使えばエースパイロットの彼らの力を借りられるし、彼の娘にもこの際、助けを求める事にする。
娘も自分自身が生きていると知れば、動いてくれるという確信はあった。
その為の準備を整える事にする──。
「そうね。このアルトカークスには未知の力が確かにあるはず。このアルトカークスも広いから何か手はあるよね」
「絶望するには早いよな」
「力には力を──って考えたけど、私は元技術士官だ。なら、求めるなら人類の叡智。絶対に何か手はある。それを会得する」
「どんな人達に助けを求めるの?」
レムはそこで3名の名前を挙げた。
ハザード・レスター。
ロベルト・ギリアム。
そして──ジョニー・ライトニング。
そして最後に自らの娘──ジェニファー・レンブラント。
彼らと彼女の力を借りれば、地球の混乱は解決する事ができるのではないだろうか。
その為にはまずは彼らの武器を探して、キッドに渡さないと。
そのキッドはマタタビに頬ずりして完全にうっとりしてじゃれついていた──。
まさに【猫はマタタビに弱い】だった。
マタタビにじゃれついている間に手紙を書くことにしたレムは、便箋とペンをルーアから借りて手紙を娘に宛てて書いていく。
ふと──彼は気付いた。
ルーアとジェニファーには何か特別な結び付きがあるのだろうか?
ルーアの瞳はジェニファーにそっくり過ぎるのだ──。
レムはルーアに聞いた。
「ルーア。君のその瞳──本当に実の娘にそっくりだよ。その瞳には何か特別な意味はあるのかな──?」
「──うん。──私、少し先の未来が視える時があるの──。そして──他の世界の人の事も視える時がある──。皆はその人をジェニファーって呼んでいる」
「──まさか、君とジェニファーは?」
「【女神の瞳】で繋がっているの。だから、ジェニファーって人にもあなたの事が視えてるはずよ」
じゃあ──娘にもその時、ルーアを抱いた時に自分が見えていたというのか。
──なんて、背徳的な快楽なんだ──。
そして──扇情的な光景なんだろう──。
その時、レムの心に何かが芽生えた。
その──背徳的な快楽に溺れてみたい──扇情的な光景を見せつけてみたい──。
その夜から、混沌の女神の騎士の欲望が、ルーアを激しく、淫らに、変えてゆく。
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