混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第1章 女神の騎士と女神殺し

1-11 歓楽都市ノーチラス

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 ルーアの秘石(クリスタル)を手に入れたレムとルーアは、今、この世界でも有数の歓楽街に向かっている。
 空は茜色の夕陽が照らし、今日という昼間を終えようとしている。そしてその空には白い残月が浮かんでいる。美しい夕陽を空の上で見るのも、なかなか体験できないことだった。
 そして、徐々に茜色の空は、紺藍に染まりつつある。それに伴い、月も黄金色に輝き始める。そして夜空を彩る星も輝き始める。
 銀翼の最強の竜であるミカエルの背中に乗る二人は、今宵は、アルトカークス有数の歓楽都市でデートをすることになった。
 その歓楽都市の名前はノーチラス。街全体がまさに歓楽都市になった享楽の都。世界が混沌に沈みつつある世界でも、面白おかしく世界の終末を迎えようという、そんな考え方をする歓楽都市だった。
 レムとルーアはその歓楽都市の前でミカエルから降りて、そして完全に夜の世界になったアルトカークスの夜を楽しむ。
 彼らがノーチラスに入って、まず訪れたのは、数々の飲食店やレストランが軒を連ねる”美食のエリア”だった。そのエリアからはいかにも美味しそうなかぐわしい匂いがする。
 ”美食のエリア”は観光客も多い。皆、この世界の有数の有名レストランの味を堪能しようと脚を運んできた様子だった。

「いい匂いがするね。ルーア?」
「ここは”美食のエリア”といって、世界中の美味しいレストランの本店が軒を連ねているんですって。私も初めて訪れたけど、本当に美味しそうな場所よね」

 だが、ルーアはまず初めてのデートということで、服装を変えたい様子だった。
 それにレムとしてもこの漆黒の騎士の姿でデートというのもムードがないかな、そう思う。
 彼らはそのまま”美食のエリア”を抜け、主にブティックやアクセサリーなどを販売しているエリアである”悦楽のエリア”に向かう。
 今はきらびやかな夜。街の街灯はレモン色の暖かな街灯がともり、夜の街であるこの歓楽都市も観光客で今は賑やかな雰囲気である。
 彼らはある一軒のブティックへと入った。

「いらっしゃいませ」

 そこには様々な服が所狭しと並んでいる。主に礼服が中心だ。女性用のイブニングドレスや男性用のお洒落なスーツやタキシード、燕尾服などが並んでいる。
 ここではそのノーチラスで礼服を着ないと立ち入ることが出来ないレストランに入る為に衣装をレンタルできるブティックだった。
 地球でもブティックはあるので、そこのブティックに立ち入った彼にはそこはそんなに違和感は感じなかった。だが、なかなか男性用の礼服もここではかなりの種類があるのには多少驚いた。
 あらゆるタイプの礼服がそこにはある。スーツもどこかパーティ用のスーツなので、高価そうな生地で作られている感じがする。
 それに女性用のイブニングドレスの余りの種類の多さにも彼は驚いている。しかも皆、デザインはどれもこれも非常に完成度が高く、あらゆるタイプのドレスが存在した。
 妖艶な悪女を思わせるような危険な感じの真紅と黒のドレス。
 清楚な純潔の少女を思わせるような、真っ白なフリルの多いドレス。
 まるでどこかの舞踏会で踊るのに適した、裾が長いドレス。
 男性用の礼服も豊富に揃えている。
 スタンダードな燕尾服。お洒落なタキシード。シックなデザインの上品な上下のスーツ。その他、ハンカチや革靴、ネクタイも豊富に揃っている。
 選ぶ楽しみがあるというのは嬉しい限りだった。
 そこで彼らは、一時間後に待ち合わせすることにした。
 今夜はこのノーチラスでは花火大会も行われるのだという。
 彼らはそこで初めてのデートをすることにした。
 レムからすれば、デートなんて何年かぶりの出来事である。彼はいろいろある礼服の吟味をし始める。
 あれこれ考えながら、衣装を手に取り、久しぶりのデートに胸が高鳴っていることに気付いた。

(それにしてもデートなんて久々だな。どんな服にしようかな? サイズは全部、合っているみたいだけど。彼女にとっては初めてのデートだ。こちらもあまり緊張感を感じさせないような服にしようかな)

 彼はそこでシックな落ち着いた雰囲気の紫色のスーツを手にした。ネクタイは赤にして、ワイシャツは白にした。ハンカチは無地の水色。
 試着室で漆黒の鎧を外して、アンダーウェアも脱いで、軽く香水を振りかけた。自分の素肌に少し。そのまま白いワイシャツを着て、慣れた調子でネクタイを首に巻き締める。下の紫色のズボンを履き、靴下を履く。最後に紫色のジャケットを羽織った。
 サイズはぴったり。最後にくしで自慢の銀髪をとかして、整えた。髭の確認もする。

「こんな感じかな?」

 鏡で確認をした後、彼はそのブティックから外へ出て待ち合わせ場所へと向かった。
 夜のノーチラスは魅惑的だ。街の街灯もまるで地球と同じに見える。まるで一つのアミューズメント施設にいるような錯覚を彼は感じる。
 そこには一切のゴミも捨てられていないし、非常に快適な空間になっている。今は彼は武器は持っていない。それは全て、荷物の預かり所で預けてきた。デートの時くらいは自分も一人の男性に戻りたい。
 だから手荷物預かり所で武器は預けてきたのだ。
 気温は心地よい温度で、スーツで行動するには丁度いい気温だった。暑すぎず、寒すぎず、本当にデートには最適な気温だった。
 待ち合わせ場所は時計塔の目の前だった。”悦楽のエリア”にある観光名所の一つで、待ち合わせ場所としては最適な場所だった。
 午後六時。ルーアは約束通りに彼の前に姿を現した。

「お待たせしました」

 そのルーアの姿を見て、彼は己の瞳を見開く。元々美しい女性だったのに、正装であるドレス姿のルーアは非常に美しい。
 彼女のドレスは、シックな落ち着いた色調の紫色のドレスだった。首には華美な装飾のネックレス。耳にはイヤリング。腕には同じ色の長手袋。その右手には青い薔薇の飾りが飾られている。
 靴も低めのハイヒール。高さは大体五センチくらいだろうか? 少し化粧も整えたのだろう。薄くアイシャドウを引き、苺のような瑞々しい唇には清楚なピンク色のルージュが引かれている。
 レムはそこで彼女に率直に褒めた。

「きれいだよ。ルーア」
「ありがとう。あなたも綺麗」
「そうかな? まあ、まずは夕食デートを始めようか?」
「あの”美食のエリア”でお勧めのレストランがあるの」
「どんなレストラン?」
「”ビストロ・スパーゴ”という名前のレストラン。割と観光客の間でも知られている有名レストランよ」
「美味しいの?」
「ええ。凄い美味なんですって」
「じゃあ、行こうか?」
「うん」

 そこでレムは自分の右腕を差し出して、腕を絡めるように頷いて見せた。ルーアは遠慮がちにその腕に左腕を絡めて、まるで恋人同士のように歩いた。
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