混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第1章 女神の騎士と女神殺し

1-8 銀翼の絶対者

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 彼らが訪れた最初の神殿には銀色の翼が優雅でありながらも雄大な美しさを持つ竜が試練を与えるために、待ち構えていた。

「さあ、混沌の女神の騎士よ! お前の力を見せてみろ!」

 銀翼の天使である、最強のドラゴン・ミカエルが、レムとルーアに全てを焼き払う業火を吐いた。紅蓮の猛火が二人に襲い掛かる。
 だが、そこでルーアは魔法によるバリアでその炎を遮断した。

「魔力障壁(マジックバリア)!」

 ミカエルの猛火が、彼ら二人に浴びせられるが、魔力障壁(マジックバリア)のおかげでダメージはない。
 ルーアの咄嗟の機転の良さに彼は素直な反応を示した。そのまま銀色に輝く剣を左手に握り、彼は目の前の強大な敵に初めて生身で戦いを挑む。

「やるじゃないか? ルーア。私も足を引っ張るわけにはいかないな」
 
 そう彼女を褒めて、レムは己の剣に備え付けられた機能を作動させた。彼の銀色の剣は非常に機械的な剣だ。それには元居た世界でもある地球でさえも発明されていない技術が使用されていた。
 彼の銀色の剣の柄に引き金のようなものが取り付けられている。それは重力制御装置・イクシードである。これはアルトカークス独自のテクノロジーだ。
 引き金は三方向に引くことが出来る。彼の銀色の剣のは一般的なイクシードで、その引き金を大きく動かす程、重力も自在に操ることが出来る。第一段階で水平方向に重力が作用して、まるで飛ぶように間合いを詰めることが出来る。
 第二段階でイクシードは今度は上下に重力を操ることが出来る。例えば、重量のある敵をそのイクシードで簡単に打ち上げることが出来るし、下に重力を作動させればその剣がまるで切れ味が上昇したように剣圧を簡単に上げることが出来るのだ。
 最後の第三段階で特殊技である”エリアルブレード”が使用できる。更に自身の身体を重力の力で浮き上がらせることも出来る。そのまま滞空して、魔法を叩き込む芸当まで出来るすぐれものである。
 実はレムはこの世界へ導かれた時、既に魔法が使用できる状態になっていた。
 混沌の女神の騎士にしか使用できない、混沌の魔法。あらゆる存在を形成する元の力である”混沌属性”の魔法だ。主に攻撃魔法が多い。アルトカークスでは、その混沌属性の魔法は禁忌の属性でもあった。
 制御が大変難しい魔法で、暴走すると世界を混沌に沈めてしまうという。だが、元から混沌の女神の騎士である彼自身は実はその魔法を暴走させるような危険はない。
 元居た世界でも並外れた知識の力。それがアルトカークスでは大事な要素だった。それは魔力の源であり、彼自身の与えられた力でもあった。
 レムは感触を確かめるように銀色の剣を握り、試しにイクシードを作動させてみる。
 一気に第三段階までイクシードを作動させた彼は、重力の力で常人離れをした跳躍で、一気に空中に跳ねると華麗に身体を一回転させて、一気にその銀色の剣を最上段から振り下ろす!

「ははっ。これは凄いな。地球では真似できないテクノロジーだ」
「ほう? なかなかやるな。ただの人間ではないようだな」
「まだ、これからさ!」

 彼が滞空しつつ、盾を持った方の右手から黒い炎を弾を叩き込む!

「黒炎弾(ダークフレア)!」

 混沌の女神の騎士しか使いこなせない混沌の魔法を何発も叩き込む! そのまま今度は下方向にイクシードを作動させて、振り下ろす剣圧を上昇させ斬る。
 その間、ルーアは弓矢で銀翼の天使の竜に、矢を放つ。

「こざかしい!」

 銀色の竜は両翼から刃のような鱗を飛ばす。それがまるで雨のように降り注ぐ! ルーアにそれが襲い掛かる。彼女の身体に血が滲む。

「ルーア!」
「くうっ……!!」
「貴様の相手は、この私だ!」

 彼は左手から漆黒の炎を何発も叩き込む。自分に戦いを挑むようにその銀色の竜の天使に注目を集める。
 ミカエルはその黒い炎を浴びて、少々うろたえる。そして、ちょこまかと動き回る、混沌の女神の騎士に全てを焼き払う業火を吐いた!
 彼は咄嗟に身に付けていた盾でそれを防ぐ。その金属製の盾は実は普通の金属製ではなく、あらゆる攻撃にも耐えることが出来る魔法金属で作られた特別製だった。
 
「くうっ!!」
「レム!」

 彼が一回、地上に降り立つ。少し息を荒くしている様子だった。額には少し汗が滲んでいる。だが、試練はこれからだった。
 あの『幻の紫水晶』がレムを認めるまで、この銀翼の天使との闘いは続く。
 彼は心配をしているルーアに微笑して、自分がまだ戦えることを伝える。

「大丈夫。これくらいで、私は退きさがらないよ」
「さすがは混沌の女神の騎士に選ばれただけはあるな。どこにそんな余裕を持っていられる?」
「これでも、私は一度死んだ身でね。もう既に地獄は見てきた。それに比べれば余裕だよ」
「なるほど……地獄は見てきたか。ならばこれはどうだ?」

 銀翼の天使は翼を羽ばたくと漆黒の稲妻を幾重にも落とさせた。それが彼の後ろにいるルーアにも容赦なく落ちる!彼にもその漆黒の稲妻が落ちた。

「くうっ!!」
「あうっ!!」

 ルーアの傷を負った身体に漆黒の稲妻が落ちると彼女が余りの痛みで苦しみだした。その漆黒の稲妻は混沌そのもの。混沌の女神であるルーアは、それに敏感に反応して身体が悲鳴を上げているのだ。
 ルーアはたまらずその場にしゃがみ込む。銀翼の天使はその彼女を標的にして、全てを焼き払う業火を吐いた。
 レムは己の身体にそれが当たるのを承知で、彼女の身代わりになって盾になった。

「ぐうっ!!」
「レム!」
「君は私が守る……! 誓っただろう? 君には傷を負わせないさ」
「でも、傷が……!!」

 彼の漆黒の鎧の下には腹部を中心に血が滲んでいる。これでは、このままでは殺される。だが、誓った約束を破るつもりなど彼にはない。
 だが、これではジリ貧だ。自分だけではなく彼女も殺されかねない。どうするか……?
 彼はようやく、銀色の剣を支えに立っている状態だった。そこで彼は右手に握るこの剣の機能を復習する。
 これは重力を自在に操る剣だ。なら、その重力を反作用させて、一気に間合いを詰めることが出来れば……!
 それに彼は戦っている間に気付いた。どこにも弱点はなさそうに見えるが、彼が狙ったのはミカエルの目だった。どんな生物でも目は弱いはずだ。そこを叩けば勝機は見えるかも知れない。
 彼はしゃがみ込むルーアに声をかけた。勇気づけるように、優しく囁く。

「ルーア。大丈夫だからね。きっと勝ってみせる。協力してくれないか?」

 彼はルーアを優しく見つめると、簡単な打ち合わせをした。そして確かめるように訊いた。

「出来るね?」
「うん。あなたを信じる」
「よし……!!」
「これで終わりにさせてもらう!」

 彼はイクシードを作動させて一気に間合いを詰める。水平方向に作動させて飛ぶように一気に間合いを詰めた!
 ミカエルは嘲笑うように口から業火を吐いた。

「バカめ!」
「そうかな?」

 自分の右腕の盾で業火を防ぎつつ、距離を詰める。そして不意にイクシードを今度は第三段階まで引いてその炎を上向きにそらした。
 その彼の後ろでは、ルーアが弓を限界まで引き絞り、そして的確にミカエルの瞳を標的に射抜いた!
 
「ぐおっ!!」
「とどめだ!!」

 そのまま、レムは特殊技である”エリアルブレード”を繰り出した。銀色の剣を最上段から振り下ろす! ミカエルの額を切り裂いた!

 そこで彼らが戦っていた神殿に驚くべき変化が起きる。
 白い光が差し込む祭壇に祀られた『幻の紫水晶』がまばゆい輝きを放ったのだ。
 そして眩しい程の白い光が神殿を満たしていく。
 彼は余りの眩しさで瞳を閉じる。光が落ち着くと、彼の胸元には、その『幻の紫水晶』が輝いていた。綺麗な紫色の光を放っている。
 それは『幻の紫水晶』が彼を認めた証だった。

「こ、これは?」
「これが──私の秘石(クリスタル)?」
「どうやら、認めたようだな。レム、お前がこの世界での必要な力であることに」
「ならば、我も認めよう。私の背中に乗る資格をお前は持っている。これからは、私もお前の剣となろう」

 銀翼の天使は力強く答えるとその翼を羽ばたき、彼らが試練で負った傷を癒した。みるみるうちに傷が塞がる。
 やがて、銀翼の最強の竜は彼らを背中に乗せる。そしてあのどこまでも広がる大空に翼を羽ばたいて、飛んだ。
 そしてここに、銀翼の最強の竜を従えた最強の竜の騎士が誕生したのである。
 レムは自分の前にルーアを乗せ、後ろから、眼下に広がるアルトカークスを見つめた。
 空中を風に乗って感じる。
 彼は初めて乗るドラゴンに率直な感想を言った。

「ミカエル。君の肌は意外とすべすべしているものだな」
「何を気持ち悪い感想を言っているのだ?」
「まさか、本物のドラゴンなんて、乗るとは思ってなかったからだよ」
「風が気持ちいいね? レム」
「ああ。そうだね」
「随分と仲がいいな? お前ら」
「妬いているのか? ミカエル?」
「何を馬鹿なことを言っているのだ?」
「これからは、この世界のことを色々、教えてくれよ? ミカエル『先生』」
「”先生”か。ふん。まあ、いいだろう」
「次はどこへ?」
「ルーアの秘石(クリスタル)の場所へ案内してやる」
「さすが、ミカエル先生! これから厄介になるよ? 色々とね」

 レムはそう茶化すように言うと、ルーアを後ろから抱いて、その白いうなじを見た。そして囁くようにねぎらう。

「頑張ったね。ありがとう。ルーア」
「レム……」
「次は君の秘石(クリスタル)を捜そう」
「うん!」

 そして、彼は空の上で、ねぎらうように、彼女の唇をそっと奪った。自分の唇に彼女の唇をそっと重ねる。
 
(やれやれ。とんだ熱いカップルを主にしたようだな)

 自分の背中に乗って、熱い口づけを交わす二人に、銀翼の最強の竜は呆れつつ、次の目的地へと飛んでいった。
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