混沌の女神の騎士 

翔田美琴

文字の大きさ
上 下
7 / 49
第1章 女神の騎士と女神殺し

1-7 天使の神殿

しおりを挟む
 そうして、彼らは朝食を摂った後、白亜の城から出て、そして長い冒険が始まる。
 まずは目的地として、とある遺跡を目指すよう言われたレムとルーア。その遺跡に彼の秘石があるという。彼がこのアルトカークスで生き延びるためには絶対必要不可欠な力。それは何であるかはわからない。
 だが、その力なくしてルーアは守れないという。一体、自分に、どういう力が手に入るのか彼は楽しみでもあった。その力でもってルーアを守ること。
 その役回りはそんなに悪くはないと彼は思う。確かに自分には戦いの才能があるとは思えないが、だが、その力が手に入るならば、恐ろしく感じないはずだ。それに今更もう元には戻れないし、だが、彼は目の前の運命を呪うより、自分の愛娘によく似た彼女を守る運命に身を委ねてみることにした。
 アルトカークスの平原を歩く一組の男女。レムとルーアの間にはまだお互いに遠慮している仲であった。出逢ってまだ二日目だ。まだお互いのことも教え合ってもいない。
 レムは何の話題を話すか迷う。とりあえずは自分のことでも自己紹介がてらに話すか……そう思った。

「まだ、私のこと、話していないよね?」
「う、うん」
「私は元はと言えば異世界の人間だった。地球という世界で、戦争に参加していたんだ。でも、自分の国はもう敗北濃厚だった。既に勝負の行方は見えていた。だけど、私は別に戦争に勝ちたいわけでもなかった」
「何でですか?」
「私が選んだ仕事は、戦争の勝ち負けで決まるような仕事じゃなかった。私はその世界では、あえて言うなら”運命のはじまり”の人間だった。戦争の兵器を産みだした人間だった。実際に引き金を引いて殺したわけではないけど、私もその世界では人間の生命を奪っている男だった。とても許される所業ではないんだ」
「何かの研究をしていたのですか?」
「ああ。人を殺す研究をしていた。だからね、死んだ時、私は地獄に行くんだって思っていた。それがこうして第二の人生を歩んでいる。不思議だよね。私は転生とか信じてなかったけど、実際自分の身にそれが起きた。科学では説明できないことも起きるんだって思ったよ」
「そして、君に出会った。だけど、私は一度死んだ身だ。どんな運命でも受け入れようと思う。君を守ることが出来るなら」
「レムさんって気さくな方ですね」
「研究者だったけど、研究オタクってわけじゃない。それなりに社交術は磨いてきたさ。君はどう思っているのかな?」
「私……ですか?」
「まだ私が、君のお父さんに見える?」
「それとも……自分の恋人にするには、年齢が離れ過ぎていると思う?」
「ううん。そんなことないよ? それに、レムさんはレムさんって思える」
「私のお父さんは混沌の女神の騎士だったから、自分の過去は話したくないって言っていたの。でも、レムさんは自分の過去を話してくれた」
「私はきっと、元居た世界での罪の清算の為にここにいると思う。沢山の生命を奪ってきた。奪われたら元には戻らないものを沢山奪ってきた。私はこの世界で今度はそれを守るのが、私の使命だ」
「使命。重い言葉ですね」
「君もきっと使命に目覚める時が来る。でも、その時は、私が傍にいる。独りきりじゃないから大丈夫だよ?」

 そう優しく彼は声をかけて、隣のルーアの肩を抱いた。そんなことを話していたら、その遺跡にたどり着いた。
 そこは確かに遺跡だ。古く朽ち果てた神殿にも見える。床も朽ち果てたタイル張りの床で、周囲は滝のように水が流れ落ちている。その滝から太陽の光が差し込む。虹が見えた。思わずその虹を二人は見惚れる。

「綺麗な虹」
「そうだね。なかなか見られない物だね。中に入ってみよう」
「はい」

 その朽ち果てた神殿は、彼がこの異世界に導かれた時のように、白い天使の羽みたいなものが舞い落ちている。それはまるでそこに天使がいるように見える。
 中の神殿は明るい光が差し込む。だが、そこで彼を待っていたのは、彼にとっての最初の試練だった。
 神殿にいる彼のこの世界での強力な力。
 それは目の前に翼を羽ばたいて待っている銀色の鱗を持つ、最強のドラゴン……ミカエルだった。
 銀翼の最強の竜は、そこで彼に試練を与えた。

 こう、彼に告げて……。

「混沌の女神の騎士よ。我を倒したら、貴様に我の力を貸そう……! 貴様が持つべき、あの『幻の紫水晶』と共にな」

 そうして、レムとルーアにとって初めての試練が始まった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

グラディア(旧作)

壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。 恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも… ※本作は連載終了しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...