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第1章 女神の騎士と女神殺し
1-4 ルーア姫と客人レム
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そうして扉が開かれる。目にも鮮やかな赤い絨毯に覆われた王座の間。そこにいたのはこの世界を治める女王。そして私は我が目を疑う事態に直面する。ルーア姫の姿が、自分の愛娘にそっくりだったのだ。
もちろんここは異世界・アルトカークスのはずだ。だが……その姫は、私の娘に瓜二つだった。自分の実の娘に。私は己の瞳を疑った。
そしてそのルーア姫も、私の顔を見て驚いている。まるで、死人に会ったような表情だ。彼女の父と私は何か関係があるのだろうか?
ややあってこのアルトカークスを治める女王が口を開いた。
「あなたが……金のルシファー様からのお告げにあった混沌の女神の騎士様……ですね? わたくしはこのアルトカークスを治める女王・アンドリアです。あなたの名前は?」
「レム・レンブラントです。気軽にレムとでも呼んでください」
それにしても、あのルーア姫は本当に我が娘によく似ている。茶色のロングヘアーに純真そうな紫色の瞳。年齢も同じ位だろうか? 見た目はまだあどけない十代と見た。娘のジェニファーも今は高校に通っている。彼女はその娘と全く瓜二つだったのだ。
向こうも何かを感じるものがあるのだろうか? まるで、自分の父に会ったような瞳を私に向けている。
アンドリア女王は私の姿に、亡くなったはずの自分の夫に出会ったような錯覚をした様子だった。
「レムさん。本当にあなたは……異世界から転生してきた”騎士”なのですか? あなたのその姿は亡くなった私の夫によく似ています。その銀髪も、その口髭も、纏っている雰囲気まで……そっくりそのままです」
「私もそこにいるルーア姫に驚いています。私の娘にそっくりだ。元居た世界で私は死んだのに。あの子を置いて逝ったはずなのに……こんな異世界でこの子に会うとは」
「ルーア? ご挨拶は?」
「あっ。は、はじめまして。ルーアです」
「本当にお父様にそっくりです……あなたの姿も、雰囲気も」
「君も私の娘にそっくりだよ?」
「あなたが混沌の女神の騎士としてここに導かれた理由は聞きましたか?」
「一応は。だが、あなたの口からもう一度説明していただきたい。私の使命を」
「このルーアは金のルシファー様から”混沌の女神”となるよう告げられた選ばれた女性です。そして今、この世界はその”混沌”が歯止めが利かない状態になっており、しかも転生も出来ない状態になっています。このままでは、人間は滅びてしまう。だから、彼女を……ルーアをある場所へ導いて欲しいのです。そしてこの子を守って欲しい。それが、混沌の女神の騎士であるあなたの使命です」
「なるほどね。混沌の女神は、愛の女神でもあると聞いたがそれは本当なのかな?」
「はい。でも、この子にはまだどういうものが”愛”なのかわかっていません。それを教えるのも、あなたの使命です」
「難しい使命ですね……」
「でも、あなたなら、この子も心を開いてくれそうです」
「とりあえず、これからよろしく。ルーア姫」
「はい。レムさん」
「今夜は晩餐会を開きましょう。新しい混沌の女神の騎士がせっかく来て頂いたのですから」
ルーア姫はずっと私の顔を見つめていた。まるで、その父親を見るような瞳で……私を。
そして、多分、私は元居た世界で遺した実の娘をまるで見ているような瞳を彼女に向けていた……そう思う。
晩餐会がこの夜、行われた。
城の大広間で行われたきらびやかな宴。ここで私はずっと熱を帯びた眼差しを向けるルーア姫ととりあえずは言葉からコミュニケーションを始める。
彼女は城のベランダに出て夜風に当たっていた。
アルトカークスの夜にもやはり月がある。驚いたのはそれも二つも月があることだ。金色の月と小さい青い月。夜風は心地よい涼風で酒を飲んだ私にはとても気持ちのいいものだった。
「どうしたのですか? ルーア姫?」
「レムさん」
「何か思いだしていたのかな?」
「お父様のことを思いだしていました」
「君のお父さん? 似ているんだってね? 私に?」
「はい。雰囲気もそっくりです。いつも悩んでいるとお父様もレムさんみたいに寄り添ってくれたから」
「父親というのはそういうものさ。私も娘がいるから、気持ちはわかる」
「お母様から聞いたんです。お父様も昔、混沌の女神の騎士だったって」
「へえ? それじゃあ、君は本当に混沌の女神となるべき女性なんだね?」
「でも、何だか怖い。この世界の根源となる力。それは形のない海のようなものだってお父様は言っていた。そして、それを制御するのは並大抵なことではない。協力者が必要だって」
「私も怖いよ。これから、その制御できない力を、君と共に立ち向かうことに。私に戦いの才能があるとは思えない。元居た世界で戦争に出て戦場で死んだ私に戦いの才能があるとはとても思えない」
「でも、ルーア。私達は少なくとも独りきりじゃない。君と私がいる。どんなことが起きても、君を守る為に、私はここに導かれた。その姿を見ていると安心できる。自分の娘が傍にいるような……そんな気がする」
「私は君の父親にはなれないだろうけど、君の父親代わりにはなれるんじゃないかな? 君が間違った方向に行かせないようにするのが私の役目だ」
「でも……でもっ……」
「私……お父さんに会いたい……!」
「ルーア……」
「私……お父さんしか見えていなかった……お父さんしか愛してなかった! お父さんに抱かれたかった! なのに……」
「ねえ…ルーア? 死んだ人は生き返らないよ。どんなに思っても、君のお父さんは生き返らない」
ルーアの気持ちはわかる。元居た世界で、ジェニファーも多分同じことを言っているはずだ。私は死んだけど、もしかしたらこの世界での実の娘がこの子じゃないかと思って……。
思わず……その子を抱きしめた。自分の胸にその子の茶色の髪を抱きしめてしまった。
「大丈夫。大丈夫だから……君は私が守る……! どんなことをしても君を守る」
「抱いて。お願い」
「もう少し、君のことが判ったらね。今日はここまで。でも、明日はもっと進むかも知れない。待っていなさい。私はどこにも逃げないから」
出逢って初日で、身体を重ねるのはさすがに抵抗があった。
だが、出逢って初日で、もう私は……彼女を……この子を胸に抱いていたのだ。運命の赤い糸。本当にあるのを私はその日程実感したことはなかった。
もちろんここは異世界・アルトカークスのはずだ。だが……その姫は、私の娘に瓜二つだった。自分の実の娘に。私は己の瞳を疑った。
そしてそのルーア姫も、私の顔を見て驚いている。まるで、死人に会ったような表情だ。彼女の父と私は何か関係があるのだろうか?
ややあってこのアルトカークスを治める女王が口を開いた。
「あなたが……金のルシファー様からのお告げにあった混沌の女神の騎士様……ですね? わたくしはこのアルトカークスを治める女王・アンドリアです。あなたの名前は?」
「レム・レンブラントです。気軽にレムとでも呼んでください」
それにしても、あのルーア姫は本当に我が娘によく似ている。茶色のロングヘアーに純真そうな紫色の瞳。年齢も同じ位だろうか? 見た目はまだあどけない十代と見た。娘のジェニファーも今は高校に通っている。彼女はその娘と全く瓜二つだったのだ。
向こうも何かを感じるものがあるのだろうか? まるで、自分の父に会ったような瞳を私に向けている。
アンドリア女王は私の姿に、亡くなったはずの自分の夫に出会ったような錯覚をした様子だった。
「レムさん。本当にあなたは……異世界から転生してきた”騎士”なのですか? あなたのその姿は亡くなった私の夫によく似ています。その銀髪も、その口髭も、纏っている雰囲気まで……そっくりそのままです」
「私もそこにいるルーア姫に驚いています。私の娘にそっくりだ。元居た世界で私は死んだのに。あの子を置いて逝ったはずなのに……こんな異世界でこの子に会うとは」
「ルーア? ご挨拶は?」
「あっ。は、はじめまして。ルーアです」
「本当にお父様にそっくりです……あなたの姿も、雰囲気も」
「君も私の娘にそっくりだよ?」
「あなたが混沌の女神の騎士としてここに導かれた理由は聞きましたか?」
「一応は。だが、あなたの口からもう一度説明していただきたい。私の使命を」
「このルーアは金のルシファー様から”混沌の女神”となるよう告げられた選ばれた女性です。そして今、この世界はその”混沌”が歯止めが利かない状態になっており、しかも転生も出来ない状態になっています。このままでは、人間は滅びてしまう。だから、彼女を……ルーアをある場所へ導いて欲しいのです。そしてこの子を守って欲しい。それが、混沌の女神の騎士であるあなたの使命です」
「なるほどね。混沌の女神は、愛の女神でもあると聞いたがそれは本当なのかな?」
「はい。でも、この子にはまだどういうものが”愛”なのかわかっていません。それを教えるのも、あなたの使命です」
「難しい使命ですね……」
「でも、あなたなら、この子も心を開いてくれそうです」
「とりあえず、これからよろしく。ルーア姫」
「はい。レムさん」
「今夜は晩餐会を開きましょう。新しい混沌の女神の騎士がせっかく来て頂いたのですから」
ルーア姫はずっと私の顔を見つめていた。まるで、その父親を見るような瞳で……私を。
そして、多分、私は元居た世界で遺した実の娘をまるで見ているような瞳を彼女に向けていた……そう思う。
晩餐会がこの夜、行われた。
城の大広間で行われたきらびやかな宴。ここで私はずっと熱を帯びた眼差しを向けるルーア姫ととりあえずは言葉からコミュニケーションを始める。
彼女は城のベランダに出て夜風に当たっていた。
アルトカークスの夜にもやはり月がある。驚いたのはそれも二つも月があることだ。金色の月と小さい青い月。夜風は心地よい涼風で酒を飲んだ私にはとても気持ちのいいものだった。
「どうしたのですか? ルーア姫?」
「レムさん」
「何か思いだしていたのかな?」
「お父様のことを思いだしていました」
「君のお父さん? 似ているんだってね? 私に?」
「はい。雰囲気もそっくりです。いつも悩んでいるとお父様もレムさんみたいに寄り添ってくれたから」
「父親というのはそういうものさ。私も娘がいるから、気持ちはわかる」
「お母様から聞いたんです。お父様も昔、混沌の女神の騎士だったって」
「へえ? それじゃあ、君は本当に混沌の女神となるべき女性なんだね?」
「でも、何だか怖い。この世界の根源となる力。それは形のない海のようなものだってお父様は言っていた。そして、それを制御するのは並大抵なことではない。協力者が必要だって」
「私も怖いよ。これから、その制御できない力を、君と共に立ち向かうことに。私に戦いの才能があるとは思えない。元居た世界で戦争に出て戦場で死んだ私に戦いの才能があるとはとても思えない」
「でも、ルーア。私達は少なくとも独りきりじゃない。君と私がいる。どんなことが起きても、君を守る為に、私はここに導かれた。その姿を見ていると安心できる。自分の娘が傍にいるような……そんな気がする」
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「でも……でもっ……」
「私……お父さんに会いたい……!」
「ルーア……」
「私……お父さんしか見えていなかった……お父さんしか愛してなかった! お父さんに抱かれたかった! なのに……」
「ねえ…ルーア? 死んだ人は生き返らないよ。どんなに思っても、君のお父さんは生き返らない」
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思わず……その子を抱きしめた。自分の胸にその子の茶色の髪を抱きしめてしまった。
「大丈夫。大丈夫だから……君は私が守る……! どんなことをしても君を守る」
「抱いて。お願い」
「もう少し、君のことが判ったらね。今日はここまで。でも、明日はもっと進むかも知れない。待っていなさい。私はどこにも逃げないから」
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