2 / 49
第1章 女神の騎士と女神殺し
1-2 騎士が来た理由
しおりを挟む
私は元居た世界で、一度、死んだ。妻を遺して、娘を遺して、先に逝くはずだった。死んだ理由は、私が居た世界では戦争が勃発していた。互いの理念が、互いの理想が、互いの感情が理解できない故に起きた戦争。
私が所属する軍はその戦争で既に敗北濃厚な状況だった。私はその国で、その世界での運命を作った技術士官の一人。運命のはじまりの人間だった。
だが、戦場に出て私はその生命を散らした。ここで死ぬんだ。愛する人を遺して逝くのだ……そう思った。
だが、私は気が付いたらとある世界に導かれた。金色に光るなまめかしい程、美しい男性が私に告げた。
「君はこれから、混沌の女神の騎士になるんだよ」
と。それがどういう意味を告げるのか私にはわからなかった。そもそもここはどこだろうか? 地球とは違う。あの世界にこんな神殿があるはずない。少なくとも機械文明の世界にはこんな所はない。
そうしたら、金色に輝く男性はこう、私の問いに答えた。
「この世界は『アルトカークス』。君が元居た地球と並行して存在する異世界。いうなればパラレルワールドという所だよ」
私はとある神殿の中にいた。天井が高く、太陽の光が差し込む、不思議な神殿。天からは白い羽根が舞い落ちている。まるで天使の羽のように舞い落ちている。
私はまだその世界の軍服姿だった。全身が暗い緑色で、裾が長い腰まである黒い表地に裏地は朱色のマントを翻してそこに立っている。
すると、私の纏う軍服がみるみるうちに、変化した。漆黒の騎士の姿に。
白い手袋が、黒い手袋になってみるみるうちに鎧に変化する。肩にも黒い鎧が。私の左腰には黒い絹の布の、まるで水着のパラオみたいになって、神殿に吹く風に揺られて舞っている。
脚も漆黒のパーツが装着され、鉄製の黒い長靴になる。同じだったのがマントだった。あの国と同じ。黒い表地に裏地は血のような朱色の長いマント。
身に付けてきた、護身用の拳銃が、剣に変わっていく。不思議な剣だった。まるで拳銃と剣が融合したかのような剣。だがそれは不思議と手に馴染み、まるで過去から使ってきたような感覚がする。
私はそのあまりにもかけ離れた姿に驚く。そして金色に輝く男性は、私に告げる。
「君の使命は、混沌の女神・ルーア姫を守ることだよ」
「ルーア姫?」
「君は”混沌”とは何か判るかな?」
「いいや? だが、得体の知れない力とは思う」
「ルーア姫はその得体の知れない力を制御する女神。だが、彼女はこの世で独りきり、孤独な存在だ。君はその彼女を守る騎士。彼女の孤独を癒す騎士。混沌の女神は愛の女神でもある。だけど孤独では愛の女神にはなれない。その為に君の力と心を彼女に捧げて欲しい」
「どうやって?」
「簡単なことさ。愛の交換をするんだ。彼女の蕾を花にして、君の愛を彼女にあげるだけ。それで彼女は徐々に混沌の女神としての使命に目覚める。”混沌”はとても独りきりでは立ち向かえない。傍で支えてくれる人が必要だ。何よりも君が傍にいてあげるだけでいい。彼女を愛してあげてくれ」
「それが簡単なことですか? 私は曲がりなりにも一人の妻を持つ夫です。そう簡単に”愛”を育むのは出来ないと思います」
「なら、君のやり方でその”愛”を育んでみればいい。最初は手をつなぐだけ。それから少しずつ距離を縮めていけばいい。そして彼女が君の肌を欲するようになったら、君は肌を重ねればいい」
「このアルトカークスは、今はその”混沌”が溢れて、世界に暗い影を落としている。混沌の女神はこの世界の転生を司る女神。人々の魂を循環させ、また命として生む女神。だが、愛のない女神ではそれをすることはできない。だから、そのための君が必要なんだ」
転生を司る女神。だから、転生した私がここにいる。そういうことかなと思った。私だってとりあえずは一人娘の親だから気持ちはわからないでもない。
混沌の女神は愛の女神でもある。だから、愛を知らないといけないという。どういうものが”愛”なのか、そのルーア姫に教えなければならない。
その為に私を呼んだのだ、とあの金色に輝く男性は教えてくれた。
”愛”か。簡単なようで難しい話だ。私にはわからなかった。私の愛の形は。それが私の場合、身体を重ねる行為でもあったし、互いに思いやる優しさもそうなのかも知れないし、だからってそう簡単に身体を重ねるようなことはできない。
すぐに答えが出るような問題ではない。
金色に輝く男性は、最後にこう告げて、金色の輝きを放って去った。
「大丈夫さ。君は彼女と結ばれる。運命の赤い糸でつながっているんだ」
「運命の赤い糸──ね。どうだか……」
私は一人そう呟いて神殿を後にした──。
私が所属する軍はその戦争で既に敗北濃厚な状況だった。私はその国で、その世界での運命を作った技術士官の一人。運命のはじまりの人間だった。
だが、戦場に出て私はその生命を散らした。ここで死ぬんだ。愛する人を遺して逝くのだ……そう思った。
だが、私は気が付いたらとある世界に導かれた。金色に光るなまめかしい程、美しい男性が私に告げた。
「君はこれから、混沌の女神の騎士になるんだよ」
と。それがどういう意味を告げるのか私にはわからなかった。そもそもここはどこだろうか? 地球とは違う。あの世界にこんな神殿があるはずない。少なくとも機械文明の世界にはこんな所はない。
そうしたら、金色に輝く男性はこう、私の問いに答えた。
「この世界は『アルトカークス』。君が元居た地球と並行して存在する異世界。いうなればパラレルワールドという所だよ」
私はとある神殿の中にいた。天井が高く、太陽の光が差し込む、不思議な神殿。天からは白い羽根が舞い落ちている。まるで天使の羽のように舞い落ちている。
私はまだその世界の軍服姿だった。全身が暗い緑色で、裾が長い腰まである黒い表地に裏地は朱色のマントを翻してそこに立っている。
すると、私の纏う軍服がみるみるうちに、変化した。漆黒の騎士の姿に。
白い手袋が、黒い手袋になってみるみるうちに鎧に変化する。肩にも黒い鎧が。私の左腰には黒い絹の布の、まるで水着のパラオみたいになって、神殿に吹く風に揺られて舞っている。
脚も漆黒のパーツが装着され、鉄製の黒い長靴になる。同じだったのがマントだった。あの国と同じ。黒い表地に裏地は血のような朱色の長いマント。
身に付けてきた、護身用の拳銃が、剣に変わっていく。不思議な剣だった。まるで拳銃と剣が融合したかのような剣。だがそれは不思議と手に馴染み、まるで過去から使ってきたような感覚がする。
私はそのあまりにもかけ離れた姿に驚く。そして金色に輝く男性は、私に告げる。
「君の使命は、混沌の女神・ルーア姫を守ることだよ」
「ルーア姫?」
「君は”混沌”とは何か判るかな?」
「いいや? だが、得体の知れない力とは思う」
「ルーア姫はその得体の知れない力を制御する女神。だが、彼女はこの世で独りきり、孤独な存在だ。君はその彼女を守る騎士。彼女の孤独を癒す騎士。混沌の女神は愛の女神でもある。だけど孤独では愛の女神にはなれない。その為に君の力と心を彼女に捧げて欲しい」
「どうやって?」
「簡単なことさ。愛の交換をするんだ。彼女の蕾を花にして、君の愛を彼女にあげるだけ。それで彼女は徐々に混沌の女神としての使命に目覚める。”混沌”はとても独りきりでは立ち向かえない。傍で支えてくれる人が必要だ。何よりも君が傍にいてあげるだけでいい。彼女を愛してあげてくれ」
「それが簡単なことですか? 私は曲がりなりにも一人の妻を持つ夫です。そう簡単に”愛”を育むのは出来ないと思います」
「なら、君のやり方でその”愛”を育んでみればいい。最初は手をつなぐだけ。それから少しずつ距離を縮めていけばいい。そして彼女が君の肌を欲するようになったら、君は肌を重ねればいい」
「このアルトカークスは、今はその”混沌”が溢れて、世界に暗い影を落としている。混沌の女神はこの世界の転生を司る女神。人々の魂を循環させ、また命として生む女神。だが、愛のない女神ではそれをすることはできない。だから、そのための君が必要なんだ」
転生を司る女神。だから、転生した私がここにいる。そういうことかなと思った。私だってとりあえずは一人娘の親だから気持ちはわからないでもない。
混沌の女神は愛の女神でもある。だから、愛を知らないといけないという。どういうものが”愛”なのか、そのルーア姫に教えなければならない。
その為に私を呼んだのだ、とあの金色に輝く男性は教えてくれた。
”愛”か。簡単なようで難しい話だ。私にはわからなかった。私の愛の形は。それが私の場合、身体を重ねる行為でもあったし、互いに思いやる優しさもそうなのかも知れないし、だからってそう簡単に身体を重ねるようなことはできない。
すぐに答えが出るような問題ではない。
金色に輝く男性は、最後にこう告げて、金色の輝きを放って去った。
「大丈夫さ。君は彼女と結ばれる。運命の赤い糸でつながっているんだ」
「運命の赤い糸──ね。どうだか……」
私は一人そう呟いて神殿を後にした──。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
グラディア(旧作)
壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。
恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…
※本作は連載終了しました。


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる