双子の王と夜伽の情愛

翔田美琴

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17話 緊急会議

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 唐突な知らせに将軍グリンウッドは思わず椅子から立ち上がって驚いていた。それは重鎮を集めての緊急会議であるからだ。

「緊急会議だって?!」

 グリンウッド将軍が自分のデスクの椅子から思わず立ち上がった。 
 パトリス帝国では実はあまり緊急会議は開かない国柄だった。基本的に平和な首都パトリスで緊急会議を開くなんて。宰相エリオットは何か結論を焦っているのか?とグリンウッド将軍は思った。
 同時刻、オグス大臣にもその旨を伝えられた。彼はそんなに驚いた様子では無かった。やはり…な、という感じだ。
 そうして緊急会議に参加するメンツが会議室に集合する。
 エリック皇帝。エリオット宰相。宮廷魔導師アネット。オグス大臣。グリンウッド将軍。帝国を支える面々が勢揃いした。
 エリック皇帝は一番奥の皇帝専用の椅子に座り、エリック皇帝の右側にエリオット宰相と宮廷魔導師アネットが。左側にはオグス大臣とグリンウッド将軍が座った。

「全員、集まったようだな。で、一体、どうした? エリオット?」

 エリック皇帝がまずこの緊急会議の事を訊いた。突然の事とはいえ、帝国に仕える大臣や将軍、宮廷魔導師まで呼んだのである。ただの緊急会議とは違う筈だ。

「陛下も大臣も将軍も周知だろうとは思うが、アトランティカ帝国の黒の部隊の話を聞いて、正直な感想を皆から聞きたい」
「というと?」
「あの黒の部隊はこの首都パトリスを攻略する為に作られた部隊だと聞く。そして、リーダーは無事にアトランティカ帝国に帰投を果たした。という事はいつまた彼らが結成されてもおかしくない。このままでは危険なのではと私は思った。皆は?」
「……確かに、エリオット宰相が感じる事は大いに賛成できるな。大臣の立場から意見を述べさせて貰うと、彼らは偵察部隊だった。だから首都直接攻略は彼らだけでは無理があるのではないかな?」
「しかし、あのパーティの夜。彼らは我々パトリス帝国の包囲網を掻い潜り、いきなり宮殿内まで侵攻してきました。あの時はエミール少年が目的だったとはいえ、皇帝の暗殺部隊だったら危険では済まされません」
「そうですな。実際、真夜中の追撃戦では随分と手こずりました。ジョニーとユーマの二人の話では、黒の部隊は闇夜に特化した部隊で暗闇でも馴れた調子で戦いをしていた、とか。明らかに訓練された部隊だったらしいです」
「これらの話から総合的に判断してこの帝国の宰相としてはアトランティカ帝国に先制攻撃を仕掛けるべきと私は思います。危険な芽は生える前に潰すべきか、と」
「先制攻撃か。エリオット宰相にしては焦っているな。まだそこまで追い込まれている訳でもないだろう?」

 オグス大臣が珍しく反論した。

「確かに焦るのもわかる。包囲網を掻い潜り宮殿内まで侵攻してきた部隊は脅威を感じる。だが。そうそうそこまでの人材を用意できるものでもあるまい。それもこの短時間で。それに先制攻撃したら、それを理由に彼らアトランティカ帝国と本格的な戦争に突入するだろう。まだ人材は充分ではない。戦争するなら確実に勝ちたいと私は思うよ」
「そんなに悠長な事を言ってられるのかな? 奴らはオリハルコンの製造に成功したという噂がある。それらの部隊が投入されればパトリス帝国が誇る騎士団でも勝ち目は薄いです。なら先制攻撃して確実に潰した方が得策かと」
「そのオリハルコンというのはどのような金属なのかしら?」
「あくまでも噂話ですが、オリハルコンはあらゆる魔法を無効とし、硬度はダイヤモンドすら上回る伝説の魔法金属です。それを人工的に生産する技術がアトランティカ帝国では研究されているのです」
「あらゆる魔法を無効化するのは危険な話ね。我々魔導師では手に負えないわ。そんな騎士団が作られた日には」
「──つまり、ここにいる中でエリオットとグリンウッド将軍が先制攻撃をするべきで、オグス大臣はまだ様子を伺うべきという話だな?」

 エリック皇帝は黄金色の瞳を皆に向けながら注意深く確認を取った。
 そしてアネットに視線を移す。

「宮廷魔導師アネット。君はどう思う? 魔導師として君の意見を聞きたい」
「私は先制攻撃論に賛成です。しかし、何分、オリハルコンが噂話という段階で流れているのが気になりますね。待つべきか待たざるべきか。微妙なラインに立たされている。そんな風に感じます」
「エリック陛下はどう感じますか?」
「あのパーティの夜で一旦は嵐は去った。しかし、いきなり宮殿内まで侵攻してエミール誘拐まであと一歩まで迫ったというのは確かに脅威だ。しかし……そこまで焦る必要もないだろう。とりあえずの危険は去った。この先の危険は…未知数という感じかな。ただ…今は動くのはまずいだろう」
「動くのはまずい? どういう意味ですか? 陛下?」

 宰相エリオットは訊いた。エリックがまずいという意味は必ずあるからだ。皇帝ならではの第六感というものをエリックは持っている。それを無視する訳にはいかない。

「アトランティカ帝国の女皇帝、キリー・アトランティスは何かと執念深い女だ。まだ我が帝国に対して表向きには『何もしていない』のだ。喧嘩を売れば或いはオリハルコンの完成を急がせるのではと思うが?」
「そうか、先に因縁を付けたら、絶好の口実が出来るな。確かに」
「迂闊に先制攻撃はできませんな」
「かと言って何もしないで手をこまねいているのも腹ただしい。何か良い作戦があるならこの場で聞いても良い」
「良い作戦…か」

 そこで会議室は沈黙になった。しばらくの間、彼らの頭の中では作戦が立てられる。腕を組み考え込む宰相エリオット。
 顎に手を触れ、悩むグリンウッド将軍。
 黒い瞳を閉じて、瞑目するオグス大臣。
 彼らの沈黙を破いたのは宮廷魔導師アネットだった。

「あの──これは、かなり残酷な作戦ですが……」

 宮廷魔導師アネットは少しためらうように言葉を選んだが、この際どのような作戦だろうと聞いてみたいエリック皇帝は、促した。 

「話してくれ。アネット。君の作戦を」
「敢えて、敵に乗せられるのはいかがでしょうか?」
「??」
「エミール少年を諜報部員として使うのです」

 その場に居た者達は思わず目を丸くした。
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