黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

翔田美琴

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最終夜 悪夢の終わりに 〜さらば黒猫館〜

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 『黒猫館』の主人が使っていた豪勢な拵えのベッドに亜美さんと俺は静かに横たわる。
 お互いに洋服を纏い抱き合っている。
 そして、そこから思い切り抱き締めあった。
 確信はたぶんある──。
 今夜で、『黒猫館』とは別れられる。
 恐らく警察も来るはずだ。
 だから──今夜は特別な宵なんだ──。
 そのまま流れで唇を重ね始める。言葉はもういらない──この情熱さえあれば──。
 亜美さんが俺の洋服を脱がしにかかる。
 灰色のチョッキを外して、白い長袖シャツを脱がしていく。下半身がズボンのみになると、俺も亜美のメイド服を脱がしにかかる。
 細かな装飾がされたメイド服はボタンを外すと簡単に下着姿になる事が出来る。黒と白のメイド服の上を脱がすと、下のスカートが穿かれていた。スカートもホックを外すと亜美は白いブラジャーとパンティー姿になる。
 一枚、一枚、丁寧に脱がすたびに口づけを交わす──それは激しくなるばかり。
 俺が最後、下着のみになれば、あぐらをかく俺の上に亜美が乗ってきて、対面座位になる。
 亜美の潤んだ瞳は嬉しさで煌めいていた。
 そしてまた接吻キスを交わす。
 唾液を混ぜ合わせ、舌を絡ませ、身体の芯まで熱くさせる。
 何気なく当てる息子に亜美は花びらで跨がろうと藻掻く。
 徐々に侵入する彼女の聖域へ──。
 亜美はそれを言葉に漏らした。

「すごい──熱いっ──。松下さん」
「君の膣内なかも温かいよ──。もっと深く来ていいかい?」
「来て──来てっ。松下さんの子供なら産みたいの」
「俺もそうだよ。少し動こう」
 
 そうして深く結び合うと二人で身体を揺らし始めた──。息が合って、お互いの吐息も、絶妙に絡み合う。  
 息子は喜ぶように聖域で彼女をじっくりと堪能しているようだ。
 悦びが階段を上がるように段階的に増していく……!
 そしてベッドに組み敷いた。
 俺が覆いかぶさるのを、亜美の腕が背中に絡みつく──。汗の匂いに感じて、亜美は甘美に応えてくれた。

「松下さん! 松下さん──!」
「はあっ……はあっ……亜美」
「はあっ……松下さん……」

 口づけが激しくなり、結合している所から亜美の愛が溢れる。
 淫らな音の筈なのに──とても良く聞こえるのは何故だ? 
 粘着質な音──肉体同士のぶつかる音が、主人の部屋に響く。蓄音機のシンフォニーと共に奏でる俺達の協奏曲。
 亜美の花びらは心地よいからすぐに吐精まで導かれる──。
 
「あああっ──っ」
「亜美──っ!」

 亜美の上で一旦休んだ。
 しかし、俺と亜美はお互いの顔を見つめると癖のように接吻キスに溺れる──。
 言葉はいらない──絡める吐息で判る。

 夜が深くなってきて、お互いに全裸になると、そこがベッドじゃなくても構わない。
 主人の窓硝子に亜美の裸体を押し込んで、後ろから責め始める。
 亜美は快楽の悦びに目覚めて、誰に観られようとも恥ずかしさの前に背徳的な快楽が勝るから、相互作用で花びらが締まる。
 
「はぅ……はあっ、松下さん……松下さん──」
「君はやっぱり、淫らな女性ひとだったんだね──。こんな光景を観たら皆、釘付けだよ」

 亜美は硝子窓に乳首を擦り付け独特の冷たさに硬くして感度を上げて貪っている。
 腰から絶え間なく俺が出たり入ったりしている傍らで、花びらからは真っ白な愛の雫が溢れる。
 
「松下さん──。もう……だめぇ。あああっ──」

 亜美は硝子窓に手を当てて、爪を立てた跡が硝子に残り下へと降りる──。
 気を失いかけているから抱きとめてベッドに連れて行けば──彼女は俺を求め続けた。
 
 一度、絶頂に昇った花びらを俺は口で施す。
 舌を花の芯で舐めると人魚みたいに跳ねて、俺の髪の毛を乱す。
 奥へ舌をねじ込むと彼女の濃い愛の味がして、俺は際限なく力が覚醒するのを感じる。
 蕩けきった亜美──。瞳も、心も、俺だけを見つめる。
 彼女を抱き起こすと後ろから、腰に腕を回して、指で今度は優しく弄る。
 花びらと息子は触れ合いながら、俺の顔と亜美の顔は重なる。
 
「はあっ……はあっ……松下さん……私っ……幸せ……」
「俺もだよ──亜美」

 何度も何度も交わす口づけは何時も甘い。
 この甘い宵は俺の一生の想い出だ──。
 この夜は盛大に乱れる。
 
 また亜美を枕に寝かせると足首を握り、もっと深くまで繋ぎあった。 
 巧みに腰が踊る俺を亜美は大好きな様子だ。
 何回も、何回も、吐精まで持っていかれる。なのに疲れを知らない。
 俺は一体──こんなに逝って死にたいのか?
 亜美の花びらには俺の愛の痕跡が刻まれて、下腹部も膨らみつつあった。
 亜美の首筋を舐めながら、腰が踊るのが止められない──。 
 
「松下さん──愛してる──」
「俺も亜美が好きだ──愛してる」

 激しく口づけをして、また愛を注ぎ込む。
 そして俺達は絡み合ったままで──眠りへついた。


 サイレンが鳴る。
 パトカーが人里離れた『黒猫館』に五台程停まると警察官達が降りて、黒猫館へ侵入を試みる。
 そんな音が聞こえる中で唐島が松下を迎えにやってきた。
 
「松下! 松下!!」

 慌てて洋服を纏い、俺は部屋のドアを開けると、唐島と鳴川と小杉がそこに集まっていた。
 そして警察が来たことを告げる。
 
「やっと警察が動いたぜ! これで鮎川家もおしまいだ!」
「──そうだな。唐島、お前が呼んだのか?」
「まあな、お前も得難いものを得られたようだな。この果報者め」
「──全くだ」

 警察官達は地下のカラクリが開いたままなので、容赦なく侵入する。
 そこには鮎川直美と鮎川雪菜が縄で拘束されて、証拠となる写真が見えるように椅子に置かれている。
 そして手紙には、こいつらが全て起こした悪事をしたためた雑記帳ノートが地下の監獄の隅に隠してある事も記されている。
 それを発見されると、警察官は犯人達を連行せんと縄の代わりに手錠で拘束して、彼女らを連行していく──。
 『黒猫館』はこうして怨霊の呪いから解き放たれた──。
 もう、この黒い館から無情な行為が無くなる──。
 その光景を遠巻きに見つめる、松下、鳴川、唐島、小杉──そして芹沢亜美。
 最期の鮎川家の女性達は──憐れな姿で連行された。
 嘗て、手錠を拷問道具にしていた奴等が、現実に後ろに手が回り──そこから続くのは地獄のような尋問──。
 
「とんでもない洋館だったな──」
「何かとても悪い夢を見ていたような気がします」
「──でも、この太陽は偽りじゃない。俺達の人生はこれから始まるんだ──」

 『黒猫館』──そこは、かつて、醒めない悪夢の洋館だった。
 そして、今は──悪夢から解放されて、黒い煉瓦を太陽の陽射しに当てて、静かに終わりを迎えたのであった──。
 
 一人の書生が起こした、めくるめく背徳の快楽と逆転勝利を収めた物語は、後に作家としてデビューした海堂かいどうの著作として語られる事になる──。
 
THE END
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