黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

翔田美琴

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第十五夜 見世物小屋の男

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 黒猫館の地下室に珍しく歓声が上がっていた。
 どうやら、やっとの事で煉瓦を一つだけだが、退ける事ができたらしい。
 やはり完全な鉄壁の要塞ではないんだと俺は胸を撫でおろした。
 彼らは何処かで手に入れた頑丈そうな木の棒と石とを調教で使われたい縄を拝借して掘削道具を作り出し、脱出を模索している男達だ。
 それから煉瓦が面白いように崩れていく。
 しかし、彼らの歓喜の声はまた途絶えてしまう事になる──。
 煉瓦を退けたら頑丈な茶色の岩みたいな壁が行く手を遮る。
 しかし、掘り進めればいつかは壁を突き破れる筈──彼らは懸命にもがき続ける。


 そしてそんな歓声すらも気に入らないのが鮎川家の女性達だった。
 表向きは従順に従う彼らだが、鮎川家の直美や雪菜は複雑な想いが込み上げてきている。
 彼らの服従が心底からの服従ではなくて、処世術としての【服従】が気に入らない。
 そんな彼らを支配するにはどうしたら良いのか──暖炉を囲みながら話す彼女達。

「気に入らないのよね」

 直美は憎々しく呟いた。

「彼らが従順なのは好きなの。だけど、心底参ったというじゃないのが気に入らないわ」
「お母様もですか? わたくしもそう思ってましたわ。お前らなんか今に逆転して支配してやる──ってが嫌ですの」
「人間扱いしているから思い上がるのかしら? もっと私に這いつくばって欲しいわ」

 そんな話をする彼女らにメイドの亜美は危機感を抱く。そんな事をしたら松下さん達が、酷い目に遭う──。
 そんな目にこれ以上遭わないで欲しい。
 彼女らの不満は、実はそこではない。
 もっと自分達を虐めて感じさせて欲しいのだ。
 なのに萎縮して従順な雄犬に成り下がる。
 それではつまらない。──だから処刑する。そんな悪循環に陥ってしまっていた。
 それを本人達は気付いていない。だから、たちが悪いのだ。
 いつの間にか、この『黒猫館』の魔力に取り憑かれていたのは鮎川家の女性達も、同じだった。 
 亜美が噂話で聞いた事がある。
 丑三つ時になると、当主の怨霊が出て、元妻や娘を呪っているのだ──という話だ。
 その原因を知るメイドの亜美は、事実上の『黒猫館』にて軟禁されているのも同然だ。
 証拠を知る者をおいそれと逃がす訳にはいかないのは、直美も雪菜も判っている。
 暖炉に燃える焚き木がバチバチと火花を散らして燃え盛るのをメイドの亜美は、彼女らの正体不明の怒りに感じた──。

 地下室には賑やかな歓声が聴こえる。
 煉瓦を立て続けに剥がす事ができた。
 どうやら煉瓦は一度、綻びを作ってしまえば次々と剥がせるらしい。
 彼らは直美や雪菜にバレないように、監獄の奥の方でそれをしている。
 彼女らが降りてくる音が聴こえると手を止めて従順に振る舞い、快楽を提供すればいい。
 慣れてしまえば案外どうにかなる。
 人間の適応力はこんな所でもできてしまうのは天晴あっぱれの才能と俺は考えた。
 馬鹿とはさみは使いようという言葉がある。それと同じ論理で、淫乱女と頭も使いようである。
 淫乱な女なら快楽を与えてやれば良い。行為が気持ちよくできれば文句はあるまい。
 頭脳があるなら、色々な策を立てて愉しませてやればいい。
 奴等が言葉にした。
 このことわりが消えた世界では『誠心誠意の愛の交換』などない──と。
 奴等がいきなりそれを持ち出すのは筋違いであると考えられる。
 筋違いではないなら、それなりの態度を示して欲しいのだ。
 本当に、愛を求めているのなら──尚更。
 徐々に歪みが発生してきているこの『黒猫館』。
 黒猫館の悪意が牙を剥く時──彼らに快楽の拷問と肉体的な拷問が、また襲いかかる。
 傲岸不遜な靴の音が二つ、響いてきて、彼らは脱出の仕草を隠して、気だるげな芝居をうつ。
 元気な姿を見せると、調子に乗って、とことん精力を奪い取るのを学習した彼らは、不平そうな空気を纏った。
 そんな緊迫する空気感の中で、雪菜と直美の二人の毒の華が姿を現す。
 彼らの不平不満そうな空気を読んで、怒りを覚える彼女らは珍しく毒を吐いた。

「何かしら? その不平そうな顔は!? ムカつく女と想っているのでしょうね」
「……」

 彼らは沈黙で持って答えた。
 ──そうだ、文句あるか?
 
「鮎川家に養って貰っている癖に生意気な──!」
「──勝手にそうしたのはどっちだか」

 監獄に囚われている男性の一人が反論した。
 そもそも誘ったのはお前らだろう──と。
 直美様と雪菜様のドス黒い笑みが視えた。
 
「決めたわ。今夜はあなたが私達に愛欲を生贄にするのよ? 亜美」

 鉄の手枷を持った亜美が、反論をした男にそれをするとある意味、不敵な顔をして監獄から去った──。
 今夜、彼はそこで屈辱的な事をされる。

「服を剥ぎ取り全裸になりなさい」

 彼は服を脱いで全裸になる。
 周りには何故か特権階級の女達が悠然と周囲を囲っている。
 男は舞台の上にいた。
 そして、そこで、下半身を見せびらかす舞踊ダンスを踊れと命じられた。
 何やら面妖な音楽が響く。
 そして、それぞれが高級感漂うドレス姿で、彼を挑発する。

「踊りなさいよ! チンポ揺らして、私を誘って──!」 
「大きい──! 立派なチンポねぇ!」
「腰、振って揺らして──!」
「ほら、イチにっ、イチにっ!」

 こんな所に連れて笑い物にするなんて──彼は怒りで勃起する。
 すると周囲の女性陣は歓び、更に挑発する。

「キャー! 勃ったわ! 虐めると勃っていくなんていいコね──!」
「こっち来て、ガチガチのモノ、触らせて!」

 とりあえず音楽に合わせて、下半身のモノを見せびらかす彼は、強調した。
 音楽に合わせて下半身を揺らしてみせる。
 ブラブラ揺れるそこは、女性陣の熱い視線を感じて硬さを増していく。
 彼はソレを掴むと自慰オナニーをしてみせた。
 気持ち良さげに、そこを弄り、視線を感じる度に興奮してくる──勝手に。
 すると女性陣がソレを掴むと口に咥えて、激しく口戯フェラチオをする。
 彼はヤケクソになって、真夜中の間、女性陣の見世物として晒し者にされてしまった──。
 
 監獄に帰ってきた彼は、夜に起きた信じられない世界を目の当たりにして、ショックを受けて暫し、呆然としていた。
 己の愛を搾り取られた意味での衝撃というよりかは、さらなる闇の世界を垣間見て──。
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