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本編
3.接近
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※主人公視点
◆
突然、金髪の彼に謎のお誘いを受けた俺。
え?なんの用?俺何かやらかした?
ついに体育館裏に連れて行かれて囲まれるのか……??
予想外の出来事にどうしたものかと逡巡していると、
「ああ、ハロルドくん、いいよ。たまには早く上がりな」
俺の代わりに彼に返事をしたのは、近くで会話を聞いていた職員さんだった。
いや、俺は行くとも言ってないのだが、と言う隙もなく促され、仕方なく自分の荷物を取りに向かった。
結論から言うと、体育館裏で囲まれることはなかった。
「僕はルイ。いつも相談に乗ってくれてありがとう。君とは同じ学年だし、呼び捨てで構わないし敬語も必要ない」
「……俺はハロルド。仕事上いきなり敬語をなくすのは違和感があるが……努力する」
ルイという名前は図書館の貸出カードで見たことがあったが、個人情報なので本来は初めて知るものだ。
俺の名前もさっき職員さんが言ったのを聞いていたであろうが、改めてお互いの名前を名乗った。
「それで……話って?」
「いや……具体的な話っていうよりは……ただ……君と話がしたかったというか……」
「はぁ……えぇ…………?」
なんで俺?っていうのが最大の疑問だが、美形がちょっと照れながら言葉を選んでいる。
いや、可愛いんだが、なんだこの破壊力。
これって壺とか買わされるパターン??いやさすがに俺に壺を売り付けるメリットはないか。
「ああ、仕事の邪魔をした上にこんなこと言って困らせてごめ
「いえお構いなく」
自信なさげに俺の方を見る美形という絵面が、ちょっと気の毒になってきたので食い気味で返事をした。
ああ、もう騙されててもいいや。
それから俺たちは、場所を変えようと近くの食堂に向かった。
いきなり仕事以外で何を話せば良いのかわからず、ぎこちない会話をしながら歩く。
しかし図書館という共通の話題と美味しい食事は偉大なもので、気が付けば最近のベストセラー小説について熱く語り合う俺たちがいた。
その後ひと盛り上がりしたあと、ルイはふと真面目な顔をして「実は、」と切り出して話をしてくれた。
最上位クラスのαである自分が、感情を抑えなくても穏やかに接するのが嬉しかったこと。
そんな俺と話すことが楽しくて、必要以上に相談に来ていたこと。
同じ最上位クラスのαであるウィリアム殿下が俺と楽しそうに話しているのを見て、居ても立ってもいられなかったこと。
待って、恐れ多い、いや恥ずかしい!!
こんな美形にそんなこと言われたら、絶対口説かれてるって勘違いしちゃうやつ……!!
俺の思考が追いつかず、瞬きも忘れてポカンと彼を見る。
「それで……、」
そ、それで…………??
「君とはもっと話がしたい。また図書館以外でも会ってくれるかな?」
「はい喜んで……!!」
だってこんなに可愛いんだ。
つい甘やかしたくなって、食い気味に叫んだ。
***
それ以来、ルイは図書館にやってくると、閉館時間まで俺を待つ日が多くなった。
最初は何故か毎日のように待っていたのだが、閉館後はただ帰るだけなのに、用もないのに待ってもらうのは申し訳ないし落ち着かないとやんわり伝えたところ、何か言いたそうな顔をしつつも週に2~3日に落ち着いた。
それでも彼が待たずに先に帰るという日は、わざわざ俺に目配せしてから手を振って帰っていく。
いや、『先に帰る日』って言い方には若干引っかかるが、もうそっとしておいてほしい。
今日もルイは図書館前のベンチに座って待っていたので、合流して一緒に帰路につく。
帰路といっても、俺は歩いてすぐの寮に帰るだけの日も多い。
そればかりでは味気ないし、わざわざ待ってくれてるのになんか悪い気がして、2回に1回くらいは遠回りをして本屋に立寄ってみたり、人気の食堂で夕飯を食べたりして過ごした。
俺が穏やかに接するのが嬉しかったとルイは言っていた。
はじめはその意味がよくわかっていなかったが、彼と一緒に行動しているとなんとなく理解できた。
彼は良くも悪くも目立つのだ。
出掛けた先では必要以上に畏まられることも多いし、文句なしの美形なので遠くからの視線もめちゃくちゃ刺さるのを感じる。
そんな彼が言うように、確かに俺といるときは子どものように楽しそうな顔をしている。
それを目の当たりにしてしまったら、俺でよければいくらでも楽にしてくれよ、と思ってしまうぐらいには彼に情が移っていた。
そんな状況になれば当然の結果であるが、ルイと俺が個人的に仲良くしていることは、あっという間に噂になっていた。
うっかり初心を忘れていたが、最上位クラスのαであるルイとぽっと出の俺……そりゃあ悪目立ちもするはずである。
天下の最上位α様に庶民の男が言い寄っているだの、身の程知らずだの、よっぽど具合が良いのでは?だのなんだの……。
いや別に狙ってないし付き合ってないし、大体ルイにも失礼だし、友人付き合いぐらい放っといてやれよ。
俺が直接嫌がらせを受けることはなかったが、図書館で対応するときに何か言いたそうにするやつが多かったのはさすがに鬱陶しかった。
そんな日がしばらく続いたある日、どっと疲れて図書館を出ると今日もルイが待っていた。
いつものように合流しようと目が合った瞬間、突然建物の陰に引き寄せられた。
「ちょっ、急にどうした……?」
俺はルイの腕の中にいた。
頭ひとつ分身長差のある俺の顔は、ちょうどルイの胸に押し付けられる。
「マーキングさせて」
俺の首筋に顔を寄せながらルイは言った。
「僕が君に会いたいだけなのに、君のことが悪く言われるのは許せない」
ルイの心臓の鼓動が直接響いてくるのにつられて、俺の脈も速くなっていくのがわかる。
「僕と会ってるせいで君があることないこと言われているのは耐えられないけど、君と会えなくなるのはもっと耐えられない」
「………………」
「ハロルド。僕に君を守らせて」
「………………ルイ」
少し考えて、彼の名前を呼ぶ。
「俺もお前と会うのは楽しいよ。寧ろお前に迷惑な噂ばかりで申し訳ないし、俺は大丈…………
言い終わるより先に、唇が塞がれた。
◆
突然、金髪の彼に謎のお誘いを受けた俺。
え?なんの用?俺何かやらかした?
ついに体育館裏に連れて行かれて囲まれるのか……??
予想外の出来事にどうしたものかと逡巡していると、
「ああ、ハロルドくん、いいよ。たまには早く上がりな」
俺の代わりに彼に返事をしたのは、近くで会話を聞いていた職員さんだった。
いや、俺は行くとも言ってないのだが、と言う隙もなく促され、仕方なく自分の荷物を取りに向かった。
結論から言うと、体育館裏で囲まれることはなかった。
「僕はルイ。いつも相談に乗ってくれてありがとう。君とは同じ学年だし、呼び捨てで構わないし敬語も必要ない」
「……俺はハロルド。仕事上いきなり敬語をなくすのは違和感があるが……努力する」
ルイという名前は図書館の貸出カードで見たことがあったが、個人情報なので本来は初めて知るものだ。
俺の名前もさっき職員さんが言ったのを聞いていたであろうが、改めてお互いの名前を名乗った。
「それで……話って?」
「いや……具体的な話っていうよりは……ただ……君と話がしたかったというか……」
「はぁ……えぇ…………?」
なんで俺?っていうのが最大の疑問だが、美形がちょっと照れながら言葉を選んでいる。
いや、可愛いんだが、なんだこの破壊力。
これって壺とか買わされるパターン??いやさすがに俺に壺を売り付けるメリットはないか。
「ああ、仕事の邪魔をした上にこんなこと言って困らせてごめ
「いえお構いなく」
自信なさげに俺の方を見る美形という絵面が、ちょっと気の毒になってきたので食い気味で返事をした。
ああ、もう騙されててもいいや。
それから俺たちは、場所を変えようと近くの食堂に向かった。
いきなり仕事以外で何を話せば良いのかわからず、ぎこちない会話をしながら歩く。
しかし図書館という共通の話題と美味しい食事は偉大なもので、気が付けば最近のベストセラー小説について熱く語り合う俺たちがいた。
その後ひと盛り上がりしたあと、ルイはふと真面目な顔をして「実は、」と切り出して話をしてくれた。
最上位クラスのαである自分が、感情を抑えなくても穏やかに接するのが嬉しかったこと。
そんな俺と話すことが楽しくて、必要以上に相談に来ていたこと。
同じ最上位クラスのαであるウィリアム殿下が俺と楽しそうに話しているのを見て、居ても立ってもいられなかったこと。
待って、恐れ多い、いや恥ずかしい!!
こんな美形にそんなこと言われたら、絶対口説かれてるって勘違いしちゃうやつ……!!
俺の思考が追いつかず、瞬きも忘れてポカンと彼を見る。
「それで……、」
そ、それで…………??
「君とはもっと話がしたい。また図書館以外でも会ってくれるかな?」
「はい喜んで……!!」
だってこんなに可愛いんだ。
つい甘やかしたくなって、食い気味に叫んだ。
***
それ以来、ルイは図書館にやってくると、閉館時間まで俺を待つ日が多くなった。
最初は何故か毎日のように待っていたのだが、閉館後はただ帰るだけなのに、用もないのに待ってもらうのは申し訳ないし落ち着かないとやんわり伝えたところ、何か言いたそうな顔をしつつも週に2~3日に落ち着いた。
それでも彼が待たずに先に帰るという日は、わざわざ俺に目配せしてから手を振って帰っていく。
いや、『先に帰る日』って言い方には若干引っかかるが、もうそっとしておいてほしい。
今日もルイは図書館前のベンチに座って待っていたので、合流して一緒に帰路につく。
帰路といっても、俺は歩いてすぐの寮に帰るだけの日も多い。
そればかりでは味気ないし、わざわざ待ってくれてるのになんか悪い気がして、2回に1回くらいは遠回りをして本屋に立寄ってみたり、人気の食堂で夕飯を食べたりして過ごした。
俺が穏やかに接するのが嬉しかったとルイは言っていた。
はじめはその意味がよくわかっていなかったが、彼と一緒に行動しているとなんとなく理解できた。
彼は良くも悪くも目立つのだ。
出掛けた先では必要以上に畏まられることも多いし、文句なしの美形なので遠くからの視線もめちゃくちゃ刺さるのを感じる。
そんな彼が言うように、確かに俺といるときは子どものように楽しそうな顔をしている。
それを目の当たりにしてしまったら、俺でよければいくらでも楽にしてくれよ、と思ってしまうぐらいには彼に情が移っていた。
そんな状況になれば当然の結果であるが、ルイと俺が個人的に仲良くしていることは、あっという間に噂になっていた。
うっかり初心を忘れていたが、最上位クラスのαであるルイとぽっと出の俺……そりゃあ悪目立ちもするはずである。
天下の最上位α様に庶民の男が言い寄っているだの、身の程知らずだの、よっぽど具合が良いのでは?だのなんだの……。
いや別に狙ってないし付き合ってないし、大体ルイにも失礼だし、友人付き合いぐらい放っといてやれよ。
俺が直接嫌がらせを受けることはなかったが、図書館で対応するときに何か言いたそうにするやつが多かったのはさすがに鬱陶しかった。
そんな日がしばらく続いたある日、どっと疲れて図書館を出ると今日もルイが待っていた。
いつものように合流しようと目が合った瞬間、突然建物の陰に引き寄せられた。
「ちょっ、急にどうした……?」
俺はルイの腕の中にいた。
頭ひとつ分身長差のある俺の顔は、ちょうどルイの胸に押し付けられる。
「マーキングさせて」
俺の首筋に顔を寄せながらルイは言った。
「僕が君に会いたいだけなのに、君のことが悪く言われるのは許せない」
ルイの心臓の鼓動が直接響いてくるのにつられて、俺の脈も速くなっていくのがわかる。
「僕と会ってるせいで君があることないこと言われているのは耐えられないけど、君と会えなくなるのはもっと耐えられない」
「………………」
「ハロルド。僕に君を守らせて」
「………………ルイ」
少し考えて、彼の名前を呼ぶ。
「俺もお前と会うのは楽しいよ。寧ろお前に迷惑な噂ばかりで申し訳ないし、俺は大丈…………
言い終わるより先に、唇が塞がれた。
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