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番外編
ある少年の執着
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※前話のちょっとした後日談のようなもの。
ソラくん視点です。
◆
ジャン伯父さんの専属執事、あのルーカスが僕を僕だと認識して名前まで呼んでくれた。
本来であれば、ご主人様の命令以外は聞く必要はないはずなのに。
本人は全く理解はしていないけれど、あのときのルーカスの表情は微笑んでいた……少なくとも僕にはそう見えたからそれでいい。
戯れに掛けた「気持ちいい?」なんて言葉に返事があるなんて思ってもみなかった。
だからこのとき、僕は完全に浮かれていた。
せめて僕以外にはそんなこと言わないように、しっかりと言い含めておくべきだった。
僕がルーカスに対して、どんな形であれ感情を呼び起こす影響を与えることができたのはすごく嬉しいのだけれど。
だからって、あのあと「これは『気持ちいい』ですか」なんて言って回ってるなんて……そんなのひどい!!!
「……そういうわけで、ルーカスにはまだ感情の区別がついていない。だけど、何にせよ心が動いている証拠だからね、悪くないよ」
なんてジャン伯父さんは言うけれど、笑いを堪えているのを隠し切れてないからね?
どうしてこんなことになったのか……これが僕のせいだってことも、ルーカスとどんなやりとりがあったのかも、絶対に全部察してる。
「はぁ……そう…………」
「はは、まあそう落ち込むなよ。ルーカスにとっても、君と一緒にいるといい刺激になるみたいだからね」
「褒め言葉として受け取っておくよ……」
「ああ、それでいいよ。それで……ソラ君さ、進学するって言ってたじゃない?」
ジャン伯父さんは明らかに楽しんでいるが、話題が変わったことにホッとして頷いた。
「君はルーカスが欲しいと言うけれど、もしそれが叶うとしたら、結局のところどうしたい?」
「どうって……」
そんなこと、知ってるくせに。
僕だけのルーカス、僕だけのSubになってほしいだけなのに。
「身内の欲目を差し引いても、君はなかなかいい男だと思うよ? 進学すれば、きっとたくさんの出会いがあるはずだ」
ああ、そういうことか。
だけど、そんなことは今更だ。
「僕だって……悩まなかったわけじゃない。だけど、物心ついたときにはもう……疑いもなく、僕のものだって思ってたから…………」
そう、こんなにも意思疎通が難しい相手をわざわざ選ぶ必要もないはずなのに。
僕に好意を見せる女の子やSubの子とだって付き合ってみたこともあるけれど、それでも何故か僕にとっての選択肢は彼以外に存在しないのだ。
「まあね、気持ちはわかるよ。結局僕も初恋を拗らせてたわけだからね…………」
「………………」
「とりあえず君の気持ちはわかった。それで、ちょっと考えてたんだけど……うちに下宿とか、どう? 」
「…………えっ、それって………」
もしかして、それって………………
「君がどうというのは関係なく、ルーカスが一生我が家で過ごすのは良くないと思ってる。だからといって、よく知らない奴に任せるのも嫌なんだよね」
「うん……」
「まあもちろんルーカス自身が望むことが大前提ではあるけれど……ゆっくり口説けばいい」
ええ!?? そんな都合の良い話ある??
逆に怖い、ジャン伯父さんに何をさせられる……??
いや、だけど、これはチャンスだ。
「…………ぜひ!お願いします!!」
ええい!あとのことはあとで考えよう!
とにかく今はジャン伯父さんの気が変わらないうちに約束を取り付けよう。
果たして見返りに何を言われるのかはちょっと怖いけど……恐る恐るジャン伯父さんの表情を探るが、本当に他意はなさそうに笑っている。
「言っただろ?君がいるといい刺激になるって。ああでも、君の母さんにはまだ何も言っていないから、そっちはがんばって説得してくれ」
「わかった。伯父さん、ありがとう」
「ああ……もちろん学業が最優先だから忘れるなよ。あと、変な言葉を教えるのもダメだからな」
「……ああもう、それは悪かったって!!」
確かにあれは悪かったっとは思っている。
だけど、僕が言った言葉を覚えてくれるなんて、喜ばないほうがどうかしてるから不可抗力だ。
それに、それだけ僕の言葉を理解しようとしてくれてるってことだろう?
それなら、『気持ちいい』以外の感情も一緒に覚えていけばいい。
もっともっと一緒に過ごして、いろんな感情を共有していけばいい。
だから、待ってて――――
執事として扉の前で控えているルーカスを見やると、ぶつかった視線が少しだけ柔らかくなったように…………僕には見えた。
ソラくん視点です。
◆
ジャン伯父さんの専属執事、あのルーカスが僕を僕だと認識して名前まで呼んでくれた。
本来であれば、ご主人様の命令以外は聞く必要はないはずなのに。
本人は全く理解はしていないけれど、あのときのルーカスの表情は微笑んでいた……少なくとも僕にはそう見えたからそれでいい。
戯れに掛けた「気持ちいい?」なんて言葉に返事があるなんて思ってもみなかった。
だからこのとき、僕は完全に浮かれていた。
せめて僕以外にはそんなこと言わないように、しっかりと言い含めておくべきだった。
僕がルーカスに対して、どんな形であれ感情を呼び起こす影響を与えることができたのはすごく嬉しいのだけれど。
だからって、あのあと「これは『気持ちいい』ですか」なんて言って回ってるなんて……そんなのひどい!!!
「……そういうわけで、ルーカスにはまだ感情の区別がついていない。だけど、何にせよ心が動いている証拠だからね、悪くないよ」
なんてジャン伯父さんは言うけれど、笑いを堪えているのを隠し切れてないからね?
どうしてこんなことになったのか……これが僕のせいだってことも、ルーカスとどんなやりとりがあったのかも、絶対に全部察してる。
「はぁ……そう…………」
「はは、まあそう落ち込むなよ。ルーカスにとっても、君と一緒にいるといい刺激になるみたいだからね」
「褒め言葉として受け取っておくよ……」
「ああ、それでいいよ。それで……ソラ君さ、進学するって言ってたじゃない?」
ジャン伯父さんは明らかに楽しんでいるが、話題が変わったことにホッとして頷いた。
「君はルーカスが欲しいと言うけれど、もしそれが叶うとしたら、結局のところどうしたい?」
「どうって……」
そんなこと、知ってるくせに。
僕だけのルーカス、僕だけのSubになってほしいだけなのに。
「身内の欲目を差し引いても、君はなかなかいい男だと思うよ? 進学すれば、きっとたくさんの出会いがあるはずだ」
ああ、そういうことか。
だけど、そんなことは今更だ。
「僕だって……悩まなかったわけじゃない。だけど、物心ついたときにはもう……疑いもなく、僕のものだって思ってたから…………」
そう、こんなにも意思疎通が難しい相手をわざわざ選ぶ必要もないはずなのに。
僕に好意を見せる女の子やSubの子とだって付き合ってみたこともあるけれど、それでも何故か僕にとっての選択肢は彼以外に存在しないのだ。
「まあね、気持ちはわかるよ。結局僕も初恋を拗らせてたわけだからね…………」
「………………」
「とりあえず君の気持ちはわかった。それで、ちょっと考えてたんだけど……うちに下宿とか、どう? 」
「…………えっ、それって………」
もしかして、それって………………
「君がどうというのは関係なく、ルーカスが一生我が家で過ごすのは良くないと思ってる。だからといって、よく知らない奴に任せるのも嫌なんだよね」
「うん……」
「まあもちろんルーカス自身が望むことが大前提ではあるけれど……ゆっくり口説けばいい」
ええ!?? そんな都合の良い話ある??
逆に怖い、ジャン伯父さんに何をさせられる……??
いや、だけど、これはチャンスだ。
「…………ぜひ!お願いします!!」
ええい!あとのことはあとで考えよう!
とにかく今はジャン伯父さんの気が変わらないうちに約束を取り付けよう。
果たして見返りに何を言われるのかはちょっと怖いけど……恐る恐るジャン伯父さんの表情を探るが、本当に他意はなさそうに笑っている。
「言っただろ?君がいるといい刺激になるって。ああでも、君の母さんにはまだ何も言っていないから、そっちはがんばって説得してくれ」
「わかった。伯父さん、ありがとう」
「ああ……もちろん学業が最優先だから忘れるなよ。あと、変な言葉を教えるのもダメだからな」
「……ああもう、それは悪かったって!!」
確かにあれは悪かったっとは思っている。
だけど、僕が言った言葉を覚えてくれるなんて、喜ばないほうがどうかしてるから不可抗力だ。
それに、それだけ僕の言葉を理解しようとしてくれてるってことだろう?
それなら、『気持ちいい』以外の感情も一緒に覚えていけばいい。
もっともっと一緒に過ごして、いろんな感情を共有していけばいい。
だから、待ってて――――
執事として扉の前で控えているルーカスを見やると、ぶつかった視線が少しだけ柔らかくなったように…………僕には見えた。
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