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本編
7.意思ある人形
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※主人公視点
(しまった……!!)
ずっと感じていた罪悪感からか、あるいはもっと別の感情か。
今まで感情のない人形として、完璧に演じてきたはずなのに、ほんの小さな綻びから一気に崩れていく音が遠くに聞こえるような気がした。
じっと見つめられて、頬に手を触れられて。
何故だかその目に圧倒されて、心がぎゅっと掴まれて……こんなの、何も反応せずに直視するなんてことは本能が許さなかった。
自分の意思なんて関係なくて、我に返ったのは思わず目を逸らしてしまったあとだった。
いや、今ならまだ大丈夫だ。
ここで動揺すればさらに不自然だから、落ち着け…………
「もしかして、意識がある?」
ここで落ち着いていれば、もしかするとやり過ごすことができたかもしれないのに。
彼の視線が落ち着かなくて動揺して、またしても身体をピクリと動かしてしまったことは逃れられない決定打だった。
「落ち着いて、ここには僕しかいないから」
まっすぐに自分を見る研究員の男は、諭すように手を握りながらゆっくりとそう告げる。
どう立ち回るべきか必死で思考を巡らせているはずなのに……彼の優しい視線にすべての意識が持っていかれそうになるのを止められなくて、身体が熱くなっていくのを自覚する。
彼がこれまで、どれだけ自分のために尽くしてくれていたのかはよく知っている。
ならば余計に、一体彼にはどんな利があってこんな自分なんかにここまでできるのか、目的が全くわからない。
嘘をついているようにも見えないし、そんなことを思いたくもないけれど……そもそもこの施設の人間を本当に信用していいのか、答えは出ない。
(あぁ…………)
正直に言ってしまえば、どんな目的だって構わないから今すぐにでも彼に縋りたい。
嘘でもいいから、この優しさに心もすべて預けてしまいたい。
なのにどうしていいかわからなくて、じっと視線を返しながら言葉を探す。
彼も譲らず静かに見つめ合う格好のまま、どれくらい経っただろうか。
「ごめん、本当ならこんなことしたくないけど……この機会は逃せない」
彼は一瞬だけ俯いて小さなため息をひとつ吐き、決意したように顔を上げると真剣な表情でそう告げた。
壊れものを扱うような優しい手付きで肩に手が添えられて、ゆっくりと顔が近づき吐息がかかる。
「Say」
「…………!」
「お願い、君のこと……話してほしい」
――――そう耳元で囁かれたら、勝てやしない。
(しまった……!!)
ずっと感じていた罪悪感からか、あるいはもっと別の感情か。
今まで感情のない人形として、完璧に演じてきたはずなのに、ほんの小さな綻びから一気に崩れていく音が遠くに聞こえるような気がした。
じっと見つめられて、頬に手を触れられて。
何故だかその目に圧倒されて、心がぎゅっと掴まれて……こんなの、何も反応せずに直視するなんてことは本能が許さなかった。
自分の意思なんて関係なくて、我に返ったのは思わず目を逸らしてしまったあとだった。
いや、今ならまだ大丈夫だ。
ここで動揺すればさらに不自然だから、落ち着け…………
「もしかして、意識がある?」
ここで落ち着いていれば、もしかするとやり過ごすことができたかもしれないのに。
彼の視線が落ち着かなくて動揺して、またしても身体をピクリと動かしてしまったことは逃れられない決定打だった。
「落ち着いて、ここには僕しかいないから」
まっすぐに自分を見る研究員の男は、諭すように手を握りながらゆっくりとそう告げる。
どう立ち回るべきか必死で思考を巡らせているはずなのに……彼の優しい視線にすべての意識が持っていかれそうになるのを止められなくて、身体が熱くなっていくのを自覚する。
彼がこれまで、どれだけ自分のために尽くしてくれていたのかはよく知っている。
ならば余計に、一体彼にはどんな利があってこんな自分なんかにここまでできるのか、目的が全くわからない。
嘘をついているようにも見えないし、そんなことを思いたくもないけれど……そもそもこの施設の人間を本当に信用していいのか、答えは出ない。
(あぁ…………)
正直に言ってしまえば、どんな目的だって構わないから今すぐにでも彼に縋りたい。
嘘でもいいから、この優しさに心もすべて預けてしまいたい。
なのにどうしていいかわからなくて、じっと視線を返しながら言葉を探す。
彼も譲らず静かに見つめ合う格好のまま、どれくらい経っただろうか。
「ごめん、本当ならこんなことしたくないけど……この機会は逃せない」
彼は一瞬だけ俯いて小さなため息をひとつ吐き、決意したように顔を上げると真剣な表情でそう告げた。
壊れものを扱うような優しい手付きで肩に手が添えられて、ゆっくりと顔が近づき吐息がかかる。
「Say」
「…………!」
「お願い、君のこと……話してほしい」
――――そう耳元で囁かれたら、勝てやしない。
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