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本編
4.少年ジャン
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※攻め視点
「ねえ、なにしてるの? こっちにおいでよ!」
「…………! うんっ…………!」
僕には、大好きな幼なじみがいた。
自分の家に居場所がないと寂しそうに蹲る少年のことが気になって、初めて声を掛けたときの嬉しそうで控えめな笑顔がずっと心に居座っている。
自信なさげな彼の手を握り、「大丈夫だから」と伝えるだけで不思議と僕の心まで満たされた。
縋るような彼の瞳と視線が合うと、何故だか全身がゾクリとするのに嫌な感じはしなかった。
この気持ちが恋だった、なんてことに気が付いたのはしばらく経ってからのことだけど。
僕は彼のことが大好きで、毎日彼に会いたくてたまらなかった。
だけど何故だか両親は、彼に会うことに対してあまりいい顔をしなかった。
大人の事情は僕にはわからないけれど、子どもというのは、ダメだと言われるほどどうにかしてやろうと思ってしまうものだから……
森の中に秘密基地を作ったり、裏からこっそりと自室に連れ込んでみたりしながら彼と会っていた。
「怒られちゃうから、もういいよ」
「大丈夫だから、ね、こっちに来て」
「うん……」
「ほら、うまくいったよ」
始めは彼も遠慮していたから……ほとんど僕が連れ回したようなものだけど、嫌な顔せずついてきてくれて、嬉しそうに笑ってくれた。
そんな顔を見て、思わずそっと撫でるように髪に触れると胸が高鳴った。
キラキラと輝くハニーブロンドの髪と瞳が眩しくて、たまに陰を見せる表情が儚げで、彼から目を離すことができなくて。
大人の目を盗んで肩を寄せ合い過ごした時間は、彼と秘密を共有しているようで嬉しかった。
彼と一緒にいるだけで毎日楽しくて、何だってできるような気がした。
このままずっと彼と一緒にいたいと、幼心に決意していた、はずなのに。
彼は、ある日突然姿を消した。
いつもの約束の場所にいなかった。
何かあったのかと、何度も彼の家に行っても門前払いをされるだけ。
近所の人や、仕方なく自分の家族に尋ねてみても、まるで彼の存在自体を知らないかのような口振りだった。
もしかすると、長い夢でも見ていたのだろうか。
いや、彼は確かに存在したはずだ。
諦めきれずに探し回ってみたものの、まだ子どもだった自分にはどうすることもできなかった。
周りが言うように、夢でも見ていたのかもしれないと無理矢理自分に言い聞かせたが、それでも彼の存在は心の中にずっと引っかかっていた。
***
表向きには彼のことを諦めてからしばらく経って、僕はDomだと診断された。
両親もDomだったこともあり、「そうか」としか思わず何の疑問もなく受け入れた。
だけどその数年後、僕の妹がSubだと診断されて初めて現実を垣間見た。
彼女がSubだと判明したとき、両親は慌てふためいた。
Sub専門保護施設――――
Subは施設に保護されている限り、一生の幸せが保証されているというのはこの国の常識だ。
だから彼女も、そこに行けばきっと素晴らしい未来が待っている。
それなのに彼女は、満足に言葉を交わす間もなく逃げるようにして施設ではないどこかへ旅立つた。
まだ子供だった僕には詳しいことは教えてもらえなかったけれど、彼女とはもう会うことはないことと、それが異常なことだということだけは理解した。
両親は……家族は彼女を愛していたのに、どうしてなのか?
施設に行けば、幸せになれるはずなのに?
保護されたSubは、安定した将来を約束されるという話は嘘なのか?
もう会えないところに逃がす選択をしてまでも、そちらのほうがいいというのか……?
どんな方法で彼女にそうさせたのか、両親は語らなかった。
しかし聞こえてくる大人たちの噂話を繋ぎ合わせているうちに、あの幼なじみのことを思い出していた。
噂話を聞けば聞くほど……「もしかして」と思えるほどには彼の失踪と辻褄が合っていた。
やがて「執事」という存在を知ったのもこの頃だった。
正確には――Domである両親が契約している「執事」たちがどこからやって来て何をしているのかということを。
幸か不幸か、自分もDomだ。
いずれ自分にも執事を買う日がやって来る。
そのときはきっと彼を……いや、彼以外にあり得ないと、密かに心を決めていた。
そしてさらに数年が経ち、ついに僕の念願だった、執事を買う日がやってきた。
「ねえ、なにしてるの? こっちにおいでよ!」
「…………! うんっ…………!」
僕には、大好きな幼なじみがいた。
自分の家に居場所がないと寂しそうに蹲る少年のことが気になって、初めて声を掛けたときの嬉しそうで控えめな笑顔がずっと心に居座っている。
自信なさげな彼の手を握り、「大丈夫だから」と伝えるだけで不思議と僕の心まで満たされた。
縋るような彼の瞳と視線が合うと、何故だか全身がゾクリとするのに嫌な感じはしなかった。
この気持ちが恋だった、なんてことに気が付いたのはしばらく経ってからのことだけど。
僕は彼のことが大好きで、毎日彼に会いたくてたまらなかった。
だけど何故だか両親は、彼に会うことに対してあまりいい顔をしなかった。
大人の事情は僕にはわからないけれど、子どもというのは、ダメだと言われるほどどうにかしてやろうと思ってしまうものだから……
森の中に秘密基地を作ったり、裏からこっそりと自室に連れ込んでみたりしながら彼と会っていた。
「怒られちゃうから、もういいよ」
「大丈夫だから、ね、こっちに来て」
「うん……」
「ほら、うまくいったよ」
始めは彼も遠慮していたから……ほとんど僕が連れ回したようなものだけど、嫌な顔せずついてきてくれて、嬉しそうに笑ってくれた。
そんな顔を見て、思わずそっと撫でるように髪に触れると胸が高鳴った。
キラキラと輝くハニーブロンドの髪と瞳が眩しくて、たまに陰を見せる表情が儚げで、彼から目を離すことができなくて。
大人の目を盗んで肩を寄せ合い過ごした時間は、彼と秘密を共有しているようで嬉しかった。
彼と一緒にいるだけで毎日楽しくて、何だってできるような気がした。
このままずっと彼と一緒にいたいと、幼心に決意していた、はずなのに。
彼は、ある日突然姿を消した。
いつもの約束の場所にいなかった。
何かあったのかと、何度も彼の家に行っても門前払いをされるだけ。
近所の人や、仕方なく自分の家族に尋ねてみても、まるで彼の存在自体を知らないかのような口振りだった。
もしかすると、長い夢でも見ていたのだろうか。
いや、彼は確かに存在したはずだ。
諦めきれずに探し回ってみたものの、まだ子どもだった自分にはどうすることもできなかった。
周りが言うように、夢でも見ていたのかもしれないと無理矢理自分に言い聞かせたが、それでも彼の存在は心の中にずっと引っかかっていた。
***
表向きには彼のことを諦めてからしばらく経って、僕はDomだと診断された。
両親もDomだったこともあり、「そうか」としか思わず何の疑問もなく受け入れた。
だけどその数年後、僕の妹がSubだと診断されて初めて現実を垣間見た。
彼女がSubだと判明したとき、両親は慌てふためいた。
Sub専門保護施設――――
Subは施設に保護されている限り、一生の幸せが保証されているというのはこの国の常識だ。
だから彼女も、そこに行けばきっと素晴らしい未来が待っている。
それなのに彼女は、満足に言葉を交わす間もなく逃げるようにして施設ではないどこかへ旅立つた。
まだ子供だった僕には詳しいことは教えてもらえなかったけれど、彼女とはもう会うことはないことと、それが異常なことだということだけは理解した。
両親は……家族は彼女を愛していたのに、どうしてなのか?
施設に行けば、幸せになれるはずなのに?
保護されたSubは、安定した将来を約束されるという話は嘘なのか?
もう会えないところに逃がす選択をしてまでも、そちらのほうがいいというのか……?
どんな方法で彼女にそうさせたのか、両親は語らなかった。
しかし聞こえてくる大人たちの噂話を繋ぎ合わせているうちに、あの幼なじみのことを思い出していた。
噂話を聞けば聞くほど……「もしかして」と思えるほどには彼の失踪と辻褄が合っていた。
やがて「執事」という存在を知ったのもこの頃だった。
正確には――Domである両親が契約している「執事」たちがどこからやって来て何をしているのかということを。
幸か不幸か、自分もDomだ。
いずれ自分にも執事を買う日がやって来る。
そのときはきっと彼を……いや、彼以外にあり得ないと、密かに心を決めていた。
そしてさらに数年が経ち、ついに僕の念願だった、執事を買う日がやってきた。
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