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おかげさまで絶好調ですよ
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「しかし怒涛の一週間だったな、あんときゃまさかこんなことに――」
っつって、自分で言ってはみたがとんでもねえな。すげえ今更すぎる話だが、思えば随分なことまでやっちまってんだよな。
「ええ、本当ですね」
うっかり自分の顔が真っ赤になりそうなのを誤魔化しながら、淡々と答える冴島の表情をちらりと盗み見しようとしたがいつもの無表情っつうか、眼鏡の反射で隠れた視線は進行方向しか見てないだろうことしかわかんねえ。
そうだ、そういえばこいつは元々こういうやつだった。あのときは余裕ねえ表情も見ちまったけど、相当なレアもんだったよな……って違う、おれはなにを思い出そうとしてるんだ。余計に顔が見れなくなっちまう。
「で、お前、何か食いてえもん――」
「あれ、おにーさんたちだ」
「あ?……あっ」
「……ああ」
ああもうこんな時間にもキャッチがいんのかよ。明らかにチャラそうな柄シャツ姿の男に、気の抜けた声で会話を被せられてイラついた……のは普段と恰好が違ってわからなかった一瞬だけで。妙になれなれしいやつだと思えば、この状況のそもそもの元凶でもある男――
「もしかしてあの店の……あんたかよ」
「やっほー、調子どう?」
「どうって……つーかチャラいな」
「ああ、今は仕事中なじゃいし?」
そうだ、そもそもマッサージ屋を謳って呼び込みをやってる時点で最初から怪しかったんだ。いらねえっっつてんのに結局連れてかれてさ、おれ相当疲れてたわな。
「それで、どうなの。っていうかそれ、朝帰り中だったりして?」
「ああ?」
「あ、ごめんね。もしかして野暮なこと聞いちゃったかな」
「野暮、っ、ちが」
「そうですね、おかげさまで絶好調ですよ」
間違ってねえのがまた腹が立つが、いや冴島、お前も真顔でなに言ってんだ。
「ふーん、そっかそっか。ね、それってオレのおかげじゃない?」
「はあ? なにいってんだ。大体あんたの店、違法じゃ」
「ほら、ちゃんと料金分以上のマッサージはしてたからね。いい顔してたし、お得だったでしょ」
「ほら、って……あ、っと」
開き直ったドヤ顔に呆れて返す言葉を探そうとして、ぐいと肩を引かれて思わず後ろに一歩下がる。
「とにかく、もう行きませんから。ほら、昼飯、奢ってくれるんでしょう」
「お、おう」
おお冴島ナイス、心強いぜ!
「そっか、寂しいなあ。またいつでも来てね」
「もう行きませんよ。ね、先輩」
「あー、うん」
そーいや回数券残ってたな、なんて今言ったら絶対怒られそうだから飲み込んだのは、ちょっとバレたような気がしなくもないが。
「だめですよあんなところ。先輩、変なところ効率厨でしょう……俺が言わなきゃ行きかねませんね」
「う、否定できねえな。でもそんじゃあ……いや、うん、わかった」
「……先輩?」
「いや、なんでもねえ」
確かにこの店がダメなのはわかったが、それでもおれの駆け込み寺になっていたことは確かなんだよな。だから代わりを探さねえとな、なんて思いはしたんだが。
それを言っちまうとなんつーか遠回りにこいつに気ぃ使わせそうっつーか、そんなの察してちゃんのパワハラじゃねえかよ。危ねえ危ねえ。
「ああ……一応、合法に出会える店なんかもあると思いますけど」
「ああっ? ああ、そうなんだよな、っておれ声に出してたか」
「やっぱり、顔に書いてあります」
「まじか……、じゃあ――」
いや危ねえどころじゃねえ。バレバレじゃねえかよ。
「とりあえずは、俺でいいでしょう」
「え、いいのかよ」
おいおい、さすがだな。マジで脳内読まれたかと思ったわ。
つうかいよいよおればっかり世話になってんな。
「ええ、効率いいですし。俺にとっても」
「あ、ああ……助かる」
はあ、こういう気い遣えるとこもさすがだぜ……
「そんなにイチャイチャしてさ、やっぱりオレのおかげじゃない?」
なんて後輩に感心してるところに遠慮なく割り込んでくるチャラい声。
ああ、そういやまだ、こいついたのか。
「じゃあね、おにーさん。足りなくなったらいつでも来てねえ」
「た、っ」
「だから行きませんよ」
そうだ、おれはもう行かねえぞ。回数券は確かに惜しいが、だったらそれより。
「そう、こいつがいるし、間に合ってる」
………いやまあ言い方がちょっとあれだが、語弊があるかもしれんが、まあそういうことだ。
「へえぇ、はいはい」
ひらりと手を振って、そのまま兄ちゃんは歩いて行った。
まったく、考えてみりゃあ元はといえば全部あの兄ちゃんのせいじゃねえかよ。あいつのせいで、あれ、そのおかげで? おれはSubで、それで……ああもうやめやめ。
「そんじゃ、メシ、行くか」
「…………」
「冴島?」
「え、なんでしたっけ」
なんだ、さっきまで普通に会話してたのに急にぼんやりしちまって。
まあ、そりゃあ、疲れたよな。おれはまあ気持ちよくしてもらっ……いやだからそうじゃねえって。
「マジで、おつかれさん。メシ行こうぜ」
「ああ、そうですね。あと……やっぱりきょうは割り勘で」
「なんでだよ、奢るって」
「別に、なんとなく。また今度、先輩のおすすめで奢って下さい」
急にどうした、よくわかんねえやつ。こんなに気い遣うやつだったっけか。
まあ、こいつとならまたいつでも行きゃあいい。
「そっか。じゃあ今日は、お前が行きてえとこ教えろよ」
っつって、自分で言ってはみたがとんでもねえな。すげえ今更すぎる話だが、思えば随分なことまでやっちまってんだよな。
「ええ、本当ですね」
うっかり自分の顔が真っ赤になりそうなのを誤魔化しながら、淡々と答える冴島の表情をちらりと盗み見しようとしたがいつもの無表情っつうか、眼鏡の反射で隠れた視線は進行方向しか見てないだろうことしかわかんねえ。
そうだ、そういえばこいつは元々こういうやつだった。あのときは余裕ねえ表情も見ちまったけど、相当なレアもんだったよな……って違う、おれはなにを思い出そうとしてるんだ。余計に顔が見れなくなっちまう。
「で、お前、何か食いてえもん――」
「あれ、おにーさんたちだ」
「あ?……あっ」
「……ああ」
ああもうこんな時間にもキャッチがいんのかよ。明らかにチャラそうな柄シャツ姿の男に、気の抜けた声で会話を被せられてイラついた……のは普段と恰好が違ってわからなかった一瞬だけで。妙になれなれしいやつだと思えば、この状況のそもそもの元凶でもある男――
「もしかしてあの店の……あんたかよ」
「やっほー、調子どう?」
「どうって……つーかチャラいな」
「ああ、今は仕事中なじゃいし?」
そうだ、そもそもマッサージ屋を謳って呼び込みをやってる時点で最初から怪しかったんだ。いらねえっっつてんのに結局連れてかれてさ、おれ相当疲れてたわな。
「それで、どうなの。っていうかそれ、朝帰り中だったりして?」
「ああ?」
「あ、ごめんね。もしかして野暮なこと聞いちゃったかな」
「野暮、っ、ちが」
「そうですね、おかげさまで絶好調ですよ」
間違ってねえのがまた腹が立つが、いや冴島、お前も真顔でなに言ってんだ。
「ふーん、そっかそっか。ね、それってオレのおかげじゃない?」
「はあ? なにいってんだ。大体あんたの店、違法じゃ」
「ほら、ちゃんと料金分以上のマッサージはしてたからね。いい顔してたし、お得だったでしょ」
「ほら、って……あ、っと」
開き直ったドヤ顔に呆れて返す言葉を探そうとして、ぐいと肩を引かれて思わず後ろに一歩下がる。
「とにかく、もう行きませんから。ほら、昼飯、奢ってくれるんでしょう」
「お、おう」
おお冴島ナイス、心強いぜ!
「そっか、寂しいなあ。またいつでも来てね」
「もう行きませんよ。ね、先輩」
「あー、うん」
そーいや回数券残ってたな、なんて今言ったら絶対怒られそうだから飲み込んだのは、ちょっとバレたような気がしなくもないが。
「だめですよあんなところ。先輩、変なところ効率厨でしょう……俺が言わなきゃ行きかねませんね」
「う、否定できねえな。でもそんじゃあ……いや、うん、わかった」
「……先輩?」
「いや、なんでもねえ」
確かにこの店がダメなのはわかったが、それでもおれの駆け込み寺になっていたことは確かなんだよな。だから代わりを探さねえとな、なんて思いはしたんだが。
それを言っちまうとなんつーか遠回りにこいつに気ぃ使わせそうっつーか、そんなの察してちゃんのパワハラじゃねえかよ。危ねえ危ねえ。
「ああ……一応、合法に出会える店なんかもあると思いますけど」
「ああっ? ああ、そうなんだよな、っておれ声に出してたか」
「やっぱり、顔に書いてあります」
「まじか……、じゃあ――」
いや危ねえどころじゃねえ。バレバレじゃねえかよ。
「とりあえずは、俺でいいでしょう」
「え、いいのかよ」
おいおい、さすがだな。マジで脳内読まれたかと思ったわ。
つうかいよいよおればっかり世話になってんな。
「ええ、効率いいですし。俺にとっても」
「あ、ああ……助かる」
はあ、こういう気い遣えるとこもさすがだぜ……
「そんなにイチャイチャしてさ、やっぱりオレのおかげじゃない?」
なんて後輩に感心してるところに遠慮なく割り込んでくるチャラい声。
ああ、そういやまだ、こいついたのか。
「じゃあね、おにーさん。足りなくなったらいつでも来てねえ」
「た、っ」
「だから行きませんよ」
そうだ、おれはもう行かねえぞ。回数券は確かに惜しいが、だったらそれより。
「そう、こいつがいるし、間に合ってる」
………いやまあ言い方がちょっとあれだが、語弊があるかもしれんが、まあそういうことだ。
「へえぇ、はいはい」
ひらりと手を振って、そのまま兄ちゃんは歩いて行った。
まったく、考えてみりゃあ元はといえば全部あの兄ちゃんのせいじゃねえかよ。あいつのせいで、あれ、そのおかげで? おれはSubで、それで……ああもうやめやめ。
「そんじゃ、メシ、行くか」
「…………」
「冴島?」
「え、なんでしたっけ」
なんだ、さっきまで普通に会話してたのに急にぼんやりしちまって。
まあ、そりゃあ、疲れたよな。おれはまあ気持ちよくしてもらっ……いやだからそうじゃねえって。
「マジで、おつかれさん。メシ行こうぜ」
「ああ、そうですね。あと……やっぱりきょうは割り勘で」
「なんでだよ、奢るって」
「別に、なんとなく。また今度、先輩のおすすめで奢って下さい」
急にどうした、よくわかんねえやつ。こんなに気い遣うやつだったっけか。
まあ、こいつとならまたいつでも行きゃあいい。
「そっか。じゃあ今日は、お前が行きてえとこ教えろよ」
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