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ただの感想だ
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「なあ……こういうのってさ、その……こういうもん、なのか」
雰囲気に流されるままうっかり預けちまった身体は熱くなる一方で、もう引っ込みがつかねえ予感は察してる。
だが会話が途切れた途端にさっきまで存在すら気づいていなかった時計の秒針の音が妙に煩くて、あまりにもいたたまれなくて言葉を絞り出す。
「はぁ……」
「あ、悪りい……」
確かにおれが知らなすぎるのが悪い、それは間違いねえんだけど。案の定返ってきたのはため息で。
「ああ、いえ、違うんですけど」
「え?」
「はぁ……」
いや結局ため息じゃねえか、と言ってやろうと口を開くより先に側頭部が覆われるような感触が降ってくる。
「いえ、こちらのことです」
「え……、ん、んん……?」
……あ、やべ。変な声出たな。
するりと滑るような感触、まさかと思ったがやっぱりだよな。ああいや、それはいい、なんつーかこう……あたま撫でられてんの、男の手って感じででけえ手のひらがすげえ気持ちいい。
「そうですね……必ずしも、というわけではないですけど」
「ん? あ、ああ」
「っ、はあ……もう」
ため息が吐かれるたびに背中にかかるのが妙に熱っぽくて、また変な気持ちになりかけてはっとする。
ああ、危ねえ危ねえ。おれから訊いたそばから、思考飛ばしてりゃ世話ねえな。
「……悪りぃ。んで、けど?」
「プレイの相性がいいほど、そういう気分にはなりやすいですね」
「あー……」
おれとこいつの相性なんてわかんねえ。ただ、触れ合ってんのがこんなにも安心するなんて信じらんねえけどこれは事実だ。だから自然とその先を想像しちまうような、その先っつったらもうそれしか……って、いやそういうことを言いたいんじゃねえんだけど、なんつうか、おれはなにを考えてんだ。
「これだけでそんなにいい顔されちゃあ、俺だって興奮しますよ」
「お、おお……」
ただ確実に言えんのは、どう考えてもこれはとんでもねえことを頼んじまったっつう……なんて全然回っちゃいねえ頭で必死に理屈を捏ねたところでなんも落ち着きやしねえのに、って――
「……っ、ひ」
「ふ……今更考え事ですか」
気づけばさっきまでおれの後頭部に触れていたはずの熱い手のひらが、首筋をなぞるようにするり、するりと降りていく。
「まあ、先輩はちょっと敏感すぎですけど」
「っあ、ちょっ、い」
言葉にならないそのひゅっとするような感触を咀嚼しきれないまま、それは鎖骨から胸もとに伝って塗り潰されていくような。なにかを描くような意味深な手つきで撫でまわしてはまた何度も行ったり来たりを繰り返す。
「ん、っひ」
手のひらの動きは無造作風だが、焦らすみてえに指先が乳首に掠ってくるのは絶対わざとだろ。
「はあ……本当に、よく今まで気づかれなかったものですね」
「しら、ねえ」
もっとマシな言葉で言い返してやりてえのに、それだけ絞り出すので精一杯で。
「それ、あんたのその目、もう溶けそう。どう見てもSubだし、いちいち俺の声に反応すんのも煽ってるだけだから」
「あ……?」
なんだそれ、そんなの知らねえ。
だが確かにこいつの声はなんつうか、耳元で揺らされた空気が熱っぽいまま全身に駆け巡って、血が浮くみてえにいちいち茹で上がってんのが嫌でもわかる。
「ね、先輩」
「っ、あ」
「もう、いいでしょう」
「なに、が」
なにが、なんて形だけの抵抗で、うまく言葉にならねえだけで薄々わかってんのに。
「ほら、仰向けになって」
物理で抵抗するって発想自体が既に抜け落ちてんのに気づいたときには、遅かった。
言うが早いか、そのまま重心をこちらに預けられれば有無を言わさず勝手に背中が後ろに落ちれば、蛍光灯の明かりの逆光で、暗い影から落とされる眼鏡越しの視線だけが妙に際立ち圧倒される。
「……つか、もう仰向けだし」
ああ、こいつ正面から見たらこんな顔してたっけ。
知ってるはずなのに見たことねえような男の顔で、まっすぐ見下ろされたら目が逸らせねえ。
「ええ、とっても上手です」
「よく言う」
「こういうプレイ、ですからね」
「は……」
そりゃあそうかもしれねえけどさ。
まあでもおれの頼みにここまで付き合ってくれてんだから文句は言えねえしむしろありがてえ、で合ってんだよなあ? なんて。
どうにかしておれ自身がこの状況を納得する言葉を探してんのに、焦らすように肌をさする手のひらは止まんねえままついに下着んとこまで降りてきて。
「っ、ひぁ、ちょ」
とっくにテントは張りかかってんのに、その芯の先を指先でついっと引っ搔かれりゃ勝手に変な声が出る。
その刺激のせいで、どうぞと言わんばかりに高さを増したところをきゅっと握り込まれて弄ばれるその感触は、布越しなのがなんつーか余計にいやらしい。
「いいですね。そろそろ、こっちも脱いでおきましょうか」
「あ? ……っおい、」
「そうそう、いいですよ」
っつってまた結局人の下着を勝手に引っぺがしてんじゃねえかよ。
ああもう、そういうプレイだっつったか? なんもしてねえのに褒められてんのもくすぐってえ。
「お前な……、っ」
さすがにひと言言ってやるつもりだったのに、いつのまにかこいつの下穿きまで寛げられんのを目の当たりにして思わず躊躇っちまうぐらいには、その……なんつーか……
「凶器じゃねえかよ」
「それ褒め言葉でいいですか……先に誘ったのも、先輩ですからね」
「まあ……うん」
褒め言葉もなにも、ただの感想だ。
そんで、確かに先に頼んだのはおれかもしんねえが、それでもお前、律義に勃つんだなっつうこれも感想だ。
雰囲気に流されるままうっかり預けちまった身体は熱くなる一方で、もう引っ込みがつかねえ予感は察してる。
だが会話が途切れた途端にさっきまで存在すら気づいていなかった時計の秒針の音が妙に煩くて、あまりにもいたたまれなくて言葉を絞り出す。
「はぁ……」
「あ、悪りい……」
確かにおれが知らなすぎるのが悪い、それは間違いねえんだけど。案の定返ってきたのはため息で。
「ああ、いえ、違うんですけど」
「え?」
「はぁ……」
いや結局ため息じゃねえか、と言ってやろうと口を開くより先に側頭部が覆われるような感触が降ってくる。
「いえ、こちらのことです」
「え……、ん、んん……?」
……あ、やべ。変な声出たな。
するりと滑るような感触、まさかと思ったがやっぱりだよな。ああいや、それはいい、なんつーかこう……あたま撫でられてんの、男の手って感じででけえ手のひらがすげえ気持ちいい。
「そうですね……必ずしも、というわけではないですけど」
「ん? あ、ああ」
「っ、はあ……もう」
ため息が吐かれるたびに背中にかかるのが妙に熱っぽくて、また変な気持ちになりかけてはっとする。
ああ、危ねえ危ねえ。おれから訊いたそばから、思考飛ばしてりゃ世話ねえな。
「……悪りぃ。んで、けど?」
「プレイの相性がいいほど、そういう気分にはなりやすいですね」
「あー……」
おれとこいつの相性なんてわかんねえ。ただ、触れ合ってんのがこんなにも安心するなんて信じらんねえけどこれは事実だ。だから自然とその先を想像しちまうような、その先っつったらもうそれしか……って、いやそういうことを言いたいんじゃねえんだけど、なんつうか、おれはなにを考えてんだ。
「これだけでそんなにいい顔されちゃあ、俺だって興奮しますよ」
「お、おお……」
ただ確実に言えんのは、どう考えてもこれはとんでもねえことを頼んじまったっつう……なんて全然回っちゃいねえ頭で必死に理屈を捏ねたところでなんも落ち着きやしねえのに、って――
「……っ、ひ」
「ふ……今更考え事ですか」
気づけばさっきまでおれの後頭部に触れていたはずの熱い手のひらが、首筋をなぞるようにするり、するりと降りていく。
「まあ、先輩はちょっと敏感すぎですけど」
「っあ、ちょっ、い」
言葉にならないそのひゅっとするような感触を咀嚼しきれないまま、それは鎖骨から胸もとに伝って塗り潰されていくような。なにかを描くような意味深な手つきで撫でまわしてはまた何度も行ったり来たりを繰り返す。
「ん、っひ」
手のひらの動きは無造作風だが、焦らすみてえに指先が乳首に掠ってくるのは絶対わざとだろ。
「はあ……本当に、よく今まで気づかれなかったものですね」
「しら、ねえ」
もっとマシな言葉で言い返してやりてえのに、それだけ絞り出すので精一杯で。
「それ、あんたのその目、もう溶けそう。どう見てもSubだし、いちいち俺の声に反応すんのも煽ってるだけだから」
「あ……?」
なんだそれ、そんなの知らねえ。
だが確かにこいつの声はなんつうか、耳元で揺らされた空気が熱っぽいまま全身に駆け巡って、血が浮くみてえにいちいち茹で上がってんのが嫌でもわかる。
「ね、先輩」
「っ、あ」
「もう、いいでしょう」
「なに、が」
なにが、なんて形だけの抵抗で、うまく言葉にならねえだけで薄々わかってんのに。
「ほら、仰向けになって」
物理で抵抗するって発想自体が既に抜け落ちてんのに気づいたときには、遅かった。
言うが早いか、そのまま重心をこちらに預けられれば有無を言わさず勝手に背中が後ろに落ちれば、蛍光灯の明かりの逆光で、暗い影から落とされる眼鏡越しの視線だけが妙に際立ち圧倒される。
「……つか、もう仰向けだし」
ああ、こいつ正面から見たらこんな顔してたっけ。
知ってるはずなのに見たことねえような男の顔で、まっすぐ見下ろされたら目が逸らせねえ。
「ええ、とっても上手です」
「よく言う」
「こういうプレイ、ですからね」
「は……」
そりゃあそうかもしれねえけどさ。
まあでもおれの頼みにここまで付き合ってくれてんだから文句は言えねえしむしろありがてえ、で合ってんだよなあ? なんて。
どうにかしておれ自身がこの状況を納得する言葉を探してんのに、焦らすように肌をさする手のひらは止まんねえままついに下着んとこまで降りてきて。
「っ、ひぁ、ちょ」
とっくにテントは張りかかってんのに、その芯の先を指先でついっと引っ搔かれりゃ勝手に変な声が出る。
その刺激のせいで、どうぞと言わんばかりに高さを増したところをきゅっと握り込まれて弄ばれるその感触は、布越しなのがなんつーか余計にいやらしい。
「いいですね。そろそろ、こっちも脱いでおきましょうか」
「あ? ……っおい、」
「そうそう、いいですよ」
っつってまた結局人の下着を勝手に引っぺがしてんじゃねえかよ。
ああもう、そういうプレイだっつったか? なんもしてねえのに褒められてんのもくすぐってえ。
「お前な……、っ」
さすがにひと言言ってやるつもりだったのに、いつのまにかこいつの下穿きまで寛げられんのを目の当たりにして思わず躊躇っちまうぐらいには、その……なんつーか……
「凶器じゃねえかよ」
「それ褒め言葉でいいですか……先に誘ったのも、先輩ですからね」
「まあ……うん」
褒め言葉もなにも、ただの感想だ。
そんで、確かに先に頼んだのはおれかもしんねえが、それでもお前、律義に勃つんだなっつうこれも感想だ。
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