おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ

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何が、いいんです?

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 押しかけるように冴島の部屋まで来たのはおれのほうだった、それは認めざるを得ない。
 だがさっきからこいつのなんてことねえはずの言動に、どうにも情緒が落ち着かねえのはどうしちまったんだ。

「ああ、すみません立たせたままで。座って下さいね・・・・・・・
「え……っ、あ」

 その視線を追うかのように身体は勝手に動いて、その先に示されたソファに腰掛ける。

「はあ、本当に……、こんなに簡単に。これで今まで自覚なかったなんて……いや逆に」

 なんてぶつぶつと呟きながら冴島もこちらにやってくる。ソファの隣にゆっくりと腰掛けながらちらりと視線を向けて、両手に持ったコップの片方を押しつけるようにこちらに寄越してくるので反射的に手を伸ばす。

「あ、ああ、ありがとな」
「とりあえず……水ですけど」

 気づけばからっからに乾いていた二人分の喉が鳴る。その音は思った以上に全身に響いてくるからその生々しさを妙に意識しちまって、心臓の音まで混ざったみたいに落ち着かねえ。
 無言でコップを回収されたときに指先同士が触れたのも、別に後輩相手にこんなの意識するもんでもねえのにそう思えば思うほど余計に緊張感だけが追い打ちをかけてくる。

 キャパオーバーで思考を放棄した人間なんて、碌なことを考えやしないもんだと相場は決まってる。

 これはもしかして、もしかしなくても。
 おれはこいつにとんでもねえことを頼んじまったんじゃねえかと今更になってじわじわと冷や汗が止まんねえ。

「あのさ、一応聞くんだが……お前、パートナーとかって」
「は?」

 返ってきたのはいつもの軽口とは違う、明らかな冷めた声。あー、これは完全に間違った。
 
「ふぁ、っあ」

 おれの頬は指先に摘ままれて、強制的に合わされた視線が痛い。
 まじかおれよりこいつのほうが背は高けえはずなのに、目線の高さはほぼ一緒じゃねえか……なんて現実逃避もどうやら許されそうにない。

「今頃言います? ……居たとして、こんなの引き受けるわけないでしょう」
「はは、だよな」
 
 今、一瞬、全身の熱が顔まで上ってきたみてえに暑いのは、きっと薄着のおれのために入れてくれた暖房が効いてきたからに違いねえ。

「本当に軽く確認でもよかったんですけど……先輩には、直接理解してもらうほうがいいみたいですね」
「っ、ま」
「ほら、質問の答えがまだですよ。先輩、気分はどうですか?」
「……それは」
 
 この質問の答えとしての『正解』は、さすがのおれだってわかってる、と思ってる。
 だがおれのこの感情は、果たしてどう言語化すればいいのかわかんねえし、その『正解』を強請られているような視線を受け止めるには間が持たねえ。つっても口を開いたところで言葉は出なくて、潤ったばかりの喉はまた急激に干からびていく。

教えて・・・、下さい」

「……あ、いい」
 
 もうおれの頭はまともに回ってる気がしねえまま、言葉にならない言葉が口から勝手に零れていく。

「何が、いいんです?」

「……きもち、い」

 眠気の限界みてえに船を漕ぐほど頭はふらふらで、どうにかそれだけ絞り出したらもう身体の力が抜けてって。
 ガクンと落ちると思った瞬間、ふわっと重力に反するような感覚の直後に引き寄せられて額が触れたのは――身に覚えのある人肌だってわかんねえほど馬鹿じゃねえ。


「――っ」

「ん、ん?」

「は……いい子ですね、よく言えました」

「……へへっ」

 全体重を預ける心地良さがもっと欲しくて両手を伸ばせば、いい具合に冴島の背中に届いてそのまま抱え込むのにちょうどいい。

「はぁ……勘弁して下さいよ」

 溜息混じりのせいか妙に掠れた声が耳元にかかれば、おれの身体は一瞬震えるようにひゅっとする。

 
 
 本当はそれより前に、お互い熱を持ち始めているのは気づいて気づかない振りをしていたはずなのに。

 こいつの言葉を借りるなら、頭ではこんなのおれだって不本意に決まってる。
 だが残念ながら、既にお互いの心臓の音が混ざってうるせえほどの距離で触れ合ってんだ。生理的欲求とはよく言ったもんだが、こんなのどうしたって治まんねえし誤魔化しようなんてあるわけもねえ――

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