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不本意ではあるが、最高だ
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【主人公視点】
普段の休日の朝なんて、動く気のない己の身体を甘やかしながらここぞとばかりに布団の中で二度寝三度寝を繰り返すのが至福のときだ。
そんな週末が当たり前だったはずなのに、冴島の部屋での寝覚めは最高に爽やかな朝だった。
全く覚えていないのが申し訳なさすぎるのだが、聞いた話によればあいつに付き添われながら(?)素直に指示に従い自分でシャワーも浴びて、差し出されたスウェットを着て爆睡したらしい。
お互いほぼ無言で駅まで歩いて多くは語らず、「気をつけて帰って下さいね」つって言われた次の瞬間からの記憶はなくて、いつも通りに無意識にパンまで買って、気がついたら自宅に着いていた。
気づけばもうすぐ土日が終わるっつうのにこんなにも心身晴れやかなのは、やっぱり出すモノ出してすっきりしたから……だとしか考えらんねえよなあ。
あのマッサージ屋も大したものだと思っていたが、それでも施術を受けた翌日にはほぼ元に戻っているぐらいにはおれの万年ガチガチ体質は筋金入りだ。なのにまさかあいつにちんこ扱かれてイかされて、意味わかんねえのに「憑き物落ちた」ってこういうことかっつうほど嘘みたいに身体が軽い。その余韻がまだ残ってるみてえにふわふわしてる。
つうか、おれは、そのなんつうか、気持ちよく?させてもらっ……た?けど、あいつにとってはこれって罰ゲームみたいなもんじゃねえのか? うわ、これ上司として完全アウトじゃね? いや、確かあいつに見せろって言われ……いやそれでもどうなんだ。
そういや「不本意」だとか言ってたもんな、それで、応急処置だとか、病院行けとかなんとかって。
えっと、確か金曜夜は残業後にまたあのマッサージ屋に行こうとしてたんだよな。
そしたら途中で冴島に遭遇して、相変わらずダルそうな顔してたからほぼ強引に一緒にマッサージ屋まで連れてった。
最初は渋っていたあいつも最後には素直についてきたから完全に合意だし、店の兄ちゃんも予約なしでもいいって言ったから、じゃあっつって入ったんだ。そこまでは間違いない、はっきり覚えてる。
で、いざ施術だっつうときに、突然あいつが肩を掴んできて、聞いたこともねえような低っくい声でなんか言ってたんだよな。店の兄ちゃんとは何故かかみ合ってるっぽい会話は断片的で、そこからよくわかんねえけど言われるがままに連れ出されたときには酔っぱらったみてえにふわふわしてて。
それでも何度思い返してみても、あの日は絶対に飲んではいない。おれもあいつも素面だったよなって確認した記憶だってある。
あいつ、普段はなに考えてんのかよくわかんねえけど、基本的には真面目だし理由もなくおかしなことをするようなタイプやつでもないのはおれがよく知っている。地道にちょっかい……じゃねえ、先輩としてあれこれとお節介をしてやるうちに、特におれに対してだけ口が悪くなるとか相当懐いてくれてるってことだよな、なんてニヤついちまうほどにはかわいいやつだ。
そんなあいつが、だ。
こんなおっさんを抱え込むその手つきは柔らかく、至近距離から降ってくる声色もまた聞いたことないほど優しくて。あいつの眼鏡に反射する光が眩しかったのは幸か不幸か、その主がおれがよく知る後輩で部下の冴島だってうっかり忘れちまいそうで。
これがあいつとおれなんかじゃなかったら、んなもん間違いなくときめいちまうに決まってるほど絵に描いたような王子様だと勘違いしそうになっちまう。まあ、王子がおっさんにちんこ出せなんて言うのかっつうとまた別の話だが。
結局ふわふわと気持ちよさに流され意識は朦朧としていたが(それで抵抗もせずにちんこ出しちまったわけだし)あいつは自分をDomだと言ったし、おれのことはSubだと言った。
おれだって、ダイナミクスについて全く知らないわけじゃない。だが、あんなの都市伝説みたいなものだと思っていたし、あろうことか自分が当事者だなんて想像なんてしたこともないから詳しいことはわかんねえ。だが、あいつに言われた通りに身体は動いたし、そのまま身を任せるのは確かに気分がよかったような気がすることは、どう考えても認めざるを得ない事実なんだよな。
それで「病院に行け」とあいつは言っていた気がするが、そもそもこんなのどこの何科に行けばいいのかすらも見当がつかねえんだよな。
まあどうせ土日は意味ねえし、ネットで検索しようにも、そもそも特殊性癖と混同されてて怪しいサイトしか出てこねえ。これまで調べようと思ったことすらないから、信頼できる情報の見分け方すらわからねえのがなんとも情けない。
とりあえず半信半疑でわかったことは、Subとしての欲求が満たされないと、心身に影響が及ぶこと。
DomとSubとが合意のもとにコマンドの応酬、すなわちプレイをすることでその生理的欲求は解消されるがその効果はお互いのコンディションや相性等にも左右されること。
病院で処方された薬を服用すればある程度は解消できるが、それはあくまで対処療法でしかないこと(プレイも一生し続けるんなら一緒じゃねえのか?)。
いつからなのかはともかくとして、おれが本当にSubだとすれば、どう考えてもおれ自身の慢性的な不調はそれが原因である可能性が高いこと。
冴島自身がDomだというのを信じるのなら、あの行為は本当におれのための応急処置をしてくれたのだということだ。
実際おれは、あいつの支配を受けた結果がまさにこのとおり。
とんでもなく眉唾物だし、あいつの言葉を借りれば不本意ではあるが、最高だ。
Subを支配するDomにとっても、Subが望む支配をすることができれば双方にとって気持ちいいと感じるものらしい。
応急処置のために仕方なくおれにコマンドをかけてくれたあいつは、おれを支配して、気持ちよくなれたのだろうか。
……なんて、なに考えてんだ。我ながら、いくらなんでも飛躍しすぎだ。
だが一度その可能性に気づいてしまった以上、そんな思考が頭の片隅から離れてくれそうにない。
だっておれだって男として。……ん、男として? いやいや、先輩として後輩から貰いっぱなしじゃちょっとっつうだけだ。
ああああ、休日なんていくらでもあっていいのに、こんなクソ長え休日なんてあってたまるかよ!
普段の休日の朝なんて、動く気のない己の身体を甘やかしながらここぞとばかりに布団の中で二度寝三度寝を繰り返すのが至福のときだ。
そんな週末が当たり前だったはずなのに、冴島の部屋での寝覚めは最高に爽やかな朝だった。
全く覚えていないのが申し訳なさすぎるのだが、聞いた話によればあいつに付き添われながら(?)素直に指示に従い自分でシャワーも浴びて、差し出されたスウェットを着て爆睡したらしい。
お互いほぼ無言で駅まで歩いて多くは語らず、「気をつけて帰って下さいね」つって言われた次の瞬間からの記憶はなくて、いつも通りに無意識にパンまで買って、気がついたら自宅に着いていた。
気づけばもうすぐ土日が終わるっつうのにこんなにも心身晴れやかなのは、やっぱり出すモノ出してすっきりしたから……だとしか考えらんねえよなあ。
あのマッサージ屋も大したものだと思っていたが、それでも施術を受けた翌日にはほぼ元に戻っているぐらいにはおれの万年ガチガチ体質は筋金入りだ。なのにまさかあいつにちんこ扱かれてイかされて、意味わかんねえのに「憑き物落ちた」ってこういうことかっつうほど嘘みたいに身体が軽い。その余韻がまだ残ってるみてえにふわふわしてる。
つうか、おれは、そのなんつうか、気持ちよく?させてもらっ……た?けど、あいつにとってはこれって罰ゲームみたいなもんじゃねえのか? うわ、これ上司として完全アウトじゃね? いや、確かあいつに見せろって言われ……いやそれでもどうなんだ。
そういや「不本意」だとか言ってたもんな、それで、応急処置だとか、病院行けとかなんとかって。
えっと、確か金曜夜は残業後にまたあのマッサージ屋に行こうとしてたんだよな。
そしたら途中で冴島に遭遇して、相変わらずダルそうな顔してたからほぼ強引に一緒にマッサージ屋まで連れてった。
最初は渋っていたあいつも最後には素直についてきたから完全に合意だし、店の兄ちゃんも予約なしでもいいって言ったから、じゃあっつって入ったんだ。そこまでは間違いない、はっきり覚えてる。
で、いざ施術だっつうときに、突然あいつが肩を掴んできて、聞いたこともねえような低っくい声でなんか言ってたんだよな。店の兄ちゃんとは何故かかみ合ってるっぽい会話は断片的で、そこからよくわかんねえけど言われるがままに連れ出されたときには酔っぱらったみてえにふわふわしてて。
それでも何度思い返してみても、あの日は絶対に飲んではいない。おれもあいつも素面だったよなって確認した記憶だってある。
あいつ、普段はなに考えてんのかよくわかんねえけど、基本的には真面目だし理由もなくおかしなことをするようなタイプやつでもないのはおれがよく知っている。地道にちょっかい……じゃねえ、先輩としてあれこれとお節介をしてやるうちに、特におれに対してだけ口が悪くなるとか相当懐いてくれてるってことだよな、なんてニヤついちまうほどにはかわいいやつだ。
そんなあいつが、だ。
こんなおっさんを抱え込むその手つきは柔らかく、至近距離から降ってくる声色もまた聞いたことないほど優しくて。あいつの眼鏡に反射する光が眩しかったのは幸か不幸か、その主がおれがよく知る後輩で部下の冴島だってうっかり忘れちまいそうで。
これがあいつとおれなんかじゃなかったら、んなもん間違いなくときめいちまうに決まってるほど絵に描いたような王子様だと勘違いしそうになっちまう。まあ、王子がおっさんにちんこ出せなんて言うのかっつうとまた別の話だが。
結局ふわふわと気持ちよさに流され意識は朦朧としていたが(それで抵抗もせずにちんこ出しちまったわけだし)あいつは自分をDomだと言ったし、おれのことはSubだと言った。
おれだって、ダイナミクスについて全く知らないわけじゃない。だが、あんなの都市伝説みたいなものだと思っていたし、あろうことか自分が当事者だなんて想像なんてしたこともないから詳しいことはわかんねえ。だが、あいつに言われた通りに身体は動いたし、そのまま身を任せるのは確かに気分がよかったような気がすることは、どう考えても認めざるを得ない事実なんだよな。
それで「病院に行け」とあいつは言っていた気がするが、そもそもこんなのどこの何科に行けばいいのかすらも見当がつかねえんだよな。
まあどうせ土日は意味ねえし、ネットで検索しようにも、そもそも特殊性癖と混同されてて怪しいサイトしか出てこねえ。これまで調べようと思ったことすらないから、信頼できる情報の見分け方すらわからねえのがなんとも情けない。
とりあえず半信半疑でわかったことは、Subとしての欲求が満たされないと、心身に影響が及ぶこと。
DomとSubとが合意のもとにコマンドの応酬、すなわちプレイをすることでその生理的欲求は解消されるがその効果はお互いのコンディションや相性等にも左右されること。
病院で処方された薬を服用すればある程度は解消できるが、それはあくまで対処療法でしかないこと(プレイも一生し続けるんなら一緒じゃねえのか?)。
いつからなのかはともかくとして、おれが本当にSubだとすれば、どう考えてもおれ自身の慢性的な不調はそれが原因である可能性が高いこと。
冴島自身がDomだというのを信じるのなら、あの行為は本当におれのための応急処置をしてくれたのだということだ。
実際おれは、あいつの支配を受けた結果がまさにこのとおり。
とんでもなく眉唾物だし、あいつの言葉を借りれば不本意ではあるが、最高だ。
Subを支配するDomにとっても、Subが望む支配をすることができれば双方にとって気持ちいいと感じるものらしい。
応急処置のために仕方なくおれにコマンドをかけてくれたあいつは、おれを支配して、気持ちよくなれたのだろうか。
……なんて、なに考えてんだ。我ながら、いくらなんでも飛躍しすぎだ。
だが一度その可能性に気づいてしまった以上、そんな思考が頭の片隅から離れてくれそうにない。
だっておれだって男として。……ん、男として? いやいや、先輩として後輩から貰いっぱなしじゃちょっとっつうだけだ。
ああああ、休日なんていくらでもあっていいのに、こんなクソ長え休日なんてあってたまるかよ!
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