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先輩、どうしてくれるんですか◆
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俺と山口先輩はただの職場の上司と部下だ。確かに付き合いも長く世話にはなっているし、つい自然に軽口が出てしまうほどには器の大きい不思議な安心感はあるし人として尊敬してもいる。
だがそれはそれとして、俺たちの関係については決してそれ以上でも以下でもない。
だから、言ってしまえばそんな他人のダイナミクスに口を出すなんて、社会人の常識としては普通あり得ない。
できることならこのままなにも知らないほうが、お互い平和で幸せだったはずなのに。それを結果的にあんな形で知ってしまった以上、放っておけずに身体が動いてしまった自分が恨めしいのが半分、ある意味自分がDomでよかった気持ちが半分。正直、ものすごく複雑だ。
男性Subとのプレイやセックスの経験がないわけではないし、むしろそれなりに機会はあった方だと思う。まあ、だからこそ幸か不幸かあの場で状況を理解してしまい、我ながら無茶苦茶な応急処置に踏み切ることを選んでしまったわけでもあるが。
あの店での応酬が一方的なプレイの真似事であったとしても、コマンドを掛けられたままのSubを無理やりその場から遠ざけておきながら、そのままなんのケアもしないで放り出すなんてことはDomとしての自分が許せなかったから。
誤解されがちであるが、ダイナミクスの欲求不満解消を目的としたDomとSubとのコマンドの応酬、つまりプレイと呼ばれる行為と、セックスは似ているようで全くの別物だ。
ただしいずれもパートナーありきの行為であるということと、ダイナミクスによる欲求をより深くまで満たそうとすればするほどお互いを曝け出してすべてを明け渡せるだけの信頼感が必要不可欠であるという共通点がある。
加えて、それと比例して必然的に身体的接触が濃密になっていくことから、結果としてプレイがセックスに発展する、あるいははじめから同一のものとして扱われる場合が大多数であることが現実だと言える。
逆に言えば、プレイをするからといって必ず性的接触をしなければいけないというわけでは決してない。
だから厳密にいえばあの応急処置としては、あそこまでの……その、生々しい性的接触まではせずに済むなら済ませたかったに決まってる。
彼が平均的なSubだったならただただ優しく宥めて褒めて落ち着ける程度で話は終わっていたはず……いや、まずそもそも平均的なSubだったなら最初からあんな店には引っかかりなんてしなかったのだろう。
いつからそうなのかなんて知らないが、先輩は恐らくSubとしての自覚は一切ないし、あの一方的なマッサージを除けば直接的なコマンドを受けたのは恐らく初めてだったのだと思う。だからこそあんなにも敏感に、直接的なコマンドによる刺激が性的興奮に直結するのはある意味誰もが通る道だ。
だから残念ながらあの場面ではどのみち性的接触を避けて通ることはできなかったはずだ、なんてどうにか己を納得させる理由を探す。
一般的に、Domにとっての最大の報酬は、Subに支配を受け入れられることだと言える。
最初からそのつもりで触れ合う相手であるならまだしも、そんなつもりの一切なかったはずの先輩があまりにも従順に俺の支配に反応していることは明らかで。
これまで出会ったSubにとっては攻撃でしかなかったはずの、俺の支配がなんの疑いもなく受け止められている。ただそれだけのことでDomにとっての報酬系が深く刺激され、あんなにも脳内物質が溢れ出てくる音が聞こえそうなほどの快感に襲われるなんて知らなくて。まるでトランス状態になっていたのだと今ならわかる。
そんな俺の腕の中で見せつけられる無防備すぎるSubとしての彼の姿とその気の抜けきった表情と、生暖かくてじわりと湿度を帯びた性器が俺の手の中で形を変えていく感触が――俺の脳裏とこの手のひらに生々しくこびりついて剥がれる気配がまるでない。
こんなの、さっさと忘れてしまえば済むことなのに。
俺が罪悪感を感じる必要もなければ、後ろめたいことなんてあるはずないのに。
先輩、どうしてくれるんですか。
だがそれはそれとして、俺たちの関係については決してそれ以上でも以下でもない。
だから、言ってしまえばそんな他人のダイナミクスに口を出すなんて、社会人の常識としては普通あり得ない。
できることならこのままなにも知らないほうが、お互い平和で幸せだったはずなのに。それを結果的にあんな形で知ってしまった以上、放っておけずに身体が動いてしまった自分が恨めしいのが半分、ある意味自分がDomでよかった気持ちが半分。正直、ものすごく複雑だ。
男性Subとのプレイやセックスの経験がないわけではないし、むしろそれなりに機会はあった方だと思う。まあ、だからこそ幸か不幸かあの場で状況を理解してしまい、我ながら無茶苦茶な応急処置に踏み切ることを選んでしまったわけでもあるが。
あの店での応酬が一方的なプレイの真似事であったとしても、コマンドを掛けられたままのSubを無理やりその場から遠ざけておきながら、そのままなんのケアもしないで放り出すなんてことはDomとしての自分が許せなかったから。
誤解されがちであるが、ダイナミクスの欲求不満解消を目的としたDomとSubとのコマンドの応酬、つまりプレイと呼ばれる行為と、セックスは似ているようで全くの別物だ。
ただしいずれもパートナーありきの行為であるということと、ダイナミクスによる欲求をより深くまで満たそうとすればするほどお互いを曝け出してすべてを明け渡せるだけの信頼感が必要不可欠であるという共通点がある。
加えて、それと比例して必然的に身体的接触が濃密になっていくことから、結果としてプレイがセックスに発展する、あるいははじめから同一のものとして扱われる場合が大多数であることが現実だと言える。
逆に言えば、プレイをするからといって必ず性的接触をしなければいけないというわけでは決してない。
だから厳密にいえばあの応急処置としては、あそこまでの……その、生々しい性的接触まではせずに済むなら済ませたかったに決まってる。
彼が平均的なSubだったならただただ優しく宥めて褒めて落ち着ける程度で話は終わっていたはず……いや、まずそもそも平均的なSubだったなら最初からあんな店には引っかかりなんてしなかったのだろう。
いつからそうなのかなんて知らないが、先輩は恐らくSubとしての自覚は一切ないし、あの一方的なマッサージを除けば直接的なコマンドを受けたのは恐らく初めてだったのだと思う。だからこそあんなにも敏感に、直接的なコマンドによる刺激が性的興奮に直結するのはある意味誰もが通る道だ。
だから残念ながらあの場面ではどのみち性的接触を避けて通ることはできなかったはずだ、なんてどうにか己を納得させる理由を探す。
一般的に、Domにとっての最大の報酬は、Subに支配を受け入れられることだと言える。
最初からそのつもりで触れ合う相手であるならまだしも、そんなつもりの一切なかったはずの先輩があまりにも従順に俺の支配に反応していることは明らかで。
これまで出会ったSubにとっては攻撃でしかなかったはずの、俺の支配がなんの疑いもなく受け止められている。ただそれだけのことでDomにとっての報酬系が深く刺激され、あんなにも脳内物質が溢れ出てくる音が聞こえそうなほどの快感に襲われるなんて知らなくて。まるでトランス状態になっていたのだと今ならわかる。
そんな俺の腕の中で見せつけられる無防備すぎるSubとしての彼の姿とその気の抜けきった表情と、生暖かくてじわりと湿度を帯びた性器が俺の手の中で形を変えていく感触が――俺の脳裏とこの手のひらに生々しくこびりついて剥がれる気配がまるでない。
こんなの、さっさと忘れてしまえば済むことなのに。
俺が罪悪感を感じる必要もなければ、後ろめたいことなんてあるはずないのに。
先輩、どうしてくれるんですか。
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