おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ

文字の大きさ
上 下
8 / 25

先輩、どうしてくれるんですか◆

しおりを挟む
 俺と山口先輩はただの職場の上司と部下だ。確かに付き合いも長く世話にはなっているし、つい自然に軽口が出てしまうほどには器の大きい不思議な安心感はあるし人として尊敬してもいる。
 だがそれはそれとして、俺たちの関係については決してそれ以上でも以下でもない。

 だから、言ってしまえばそんな他人のダイナミクスに口を出すなんて、社会人の常識としては普通あり得ない。
 できることならこのままなにも知らないほうが、お互い平和で幸せだったはずなのに。それを結果的にあんな形で知ってしまった以上、放っておけずに身体が動いてしまった自分が恨めしいのが半分、ある意味自分がDomでよかった気持ちが半分。正直、ものすごく複雑だ。

 
 男性Subとのプレイやセックスの経験がないわけではないし、むしろそれなりに機会はあった方だと思う。まあ、だからこそ幸か不幸かあの場で状況を理解してしまい、我ながら無茶苦茶な応急処置・・・・に踏み切ることを選んでしまったわけでもあるが。
 あの店での応酬が一方的なプレイの真似事であったとしても、コマンドを掛けられたままのSubを無理やりその場から遠ざけておきながら、そのままなんのケアもしないで放り出すなんてことはDomとしての自分が許せなかったから。
 

 誤解されがちであるが、ダイナミクスの欲求不満解消を目的としたDomとSubとのコマンドの応酬、つまりプレイと呼ばれる行為と、セックスは似ているようで全くの別物だ。

 ただしいずれもパートナーありきの行為であるということと、ダイナミクスによる欲求をより深くまで満たそうとすればするほどお互いを曝け出してすべてを明け渡せるだけの信頼感が必要不可欠であるという共通点がある。
 加えて、それと比例して必然的に身体的接触が濃密になっていくことから、結果としてプレイがセックスに発展する、あるいははじめから同一のものとして扱われる場合が大多数であることが現実だと言える。

 逆に言えば、プレイをするからといって必ず性的接触をしなければいけないというわけでは決してない。
 だから厳密にいえばあの応急処置・・・・としては、あそこまでの……その、生々しい性的接触まではせずに済むなら済ませたかったに決まってる。


 彼が平均的なSubだったならただただ優しく宥めて褒めて落ち着ける程度で話は終わっていたはず……いや、まずそもそも平均的なSubだったなら最初からあんな店には引っかかりなんてしなかったのだろう。

 いつからそう・・なのかなんて知らないが、先輩は恐らくSubとしての自覚は一切ないし、あの一方的なマッサージを除けば直接的なコマンドを受けたのは恐らく初めてだったのだと思う。だからこそあんなにも敏感に、直接的なコマンドによる刺激が性的興奮に直結するのはある意味誰もが通る道だ。

 だから残念ながらあの場面ではどのみち性的接触を避けて通ることはできなかったはずだ、なんてどうにか己を納得させる理由を探す。

 一般的に、Domにとっての最大の報酬は、Subに支配コマンドを受け入れられることだと言える。

 最初からそのつもり・・・・・で触れ合う相手であるならまだしも、そんなつもりの一切なかったはずの先輩があまりにも従順に俺の支配コマンドに反応していることは明らかで。

 これまで出会ったSubにとっては攻撃でしかなかったはずの、俺の支配コマンドがなんの疑いもなく受け止められている。ただそれだけのことでDomにとっての報酬系が深く刺激され、あんなにも脳内物質が溢れ出てくる音が聞こえそうなほどの快感に襲われるなんて知らなくて。まるでトランス状態になっていたのだと今ならわかる。
 そんな俺の腕の中で見せつけられる無防備すぎるSubとしての彼の姿とその気の抜けきった表情と、生暖かくてじわりと湿度を帯びた性器が俺の手の中で形を変えていく感触が――俺の脳裏とこの手のひらに生々しくこびりついて剥がれる気配がまるでない。


 
 こんなの、さっさと忘れてしまえば済むことなのに。
 俺が罪悪感を感じる必要もなければ、後ろめたいことなんてあるはずないのに。



 先輩、どうしてくれるんですか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

嫁さんのいる俺はハイスペ男とヤレるジムに通うけど恋愛対象は女です

ルシーアンナ
BL
会員制ハッテンバ スポーツジムでハイスペ攻め漁りする既婚受けの話。 DD×リーマン リーマン×リーマン

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...