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まあうちは別にいいんだけどね
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「ほら、ここだ」
「え……」
そうこうしているうちにあっという間に雑居ビルの一室、件の店の前にたどり着く。
そう、そうなんだよな、おれだって最初は絶対やべえって思ったからその反応はそりゃそうだよな。
「はは、言いたいことはわかるぜ? さすがにいかにもっつうか……っあ」
そうこう言っているうちガチャリと扉が開く。
「ははっ、どうも」
「ああ、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
うわー、あぶねえ。出てきてくれたのがいつもの兄ちゃんだったのはセーフだな。
「あー、うるさくしちまってすいません」
「いいえ、いつもありがとうございます」
はあ、相変わらず胡散臭えほどの完璧な笑顔が眩しいぜ。
「あの、先輩」
「ああ……、あの、予約はしてねえんですけど、こいつもお願いしたくて」
「なるほど、お連れ様でしたか」
「あっ、もし満員ならおれはいいから」
そういやいつもこの兄ちゃんが受付も施術もやってくれているんだが、いつも予約なしでなにも言われたこともないのですっかりそういう概念を失念していたことに今更気づく。
「ああもう、すみません。それは話が違うでしょう、それにそもそも」
「構いませんよ、どうぞ」
「いいってよ、ほらここまで来たしさ」
「……いや、そうじゃなくて」
まあ、言いたいことはわからんでもないけどな。
騙されたと思って――
「もちろんです。ではお連れ様もご一緒に、こちらに来て下さい」
「は」
「ん、どうした? ……っ、と」
控えめにおれの背後に立っていた後輩が小さく声をあげたかと思えば、おれの肩が上から押さえつらけるみたいにぐいと掴まれる。その反動でおれの身体が倒れそうになるのを耐えて、一歩後ろに足が下がる。
「先輩、なんですかこれ」
「あ、え……?」
あれお前、こんな低い声だったっけ……?
いや、そうじゃなくて。
「ああ……お客様はもしかして」
マッサージの兄ちゃんも、あれ、なんで。
普段以上に異様に目が細められたまま、すげえ口角上がって笑ってるみてえなのになんかやべえのは直感で。
「なあ、待て、なんだって?」
「……あんたの、思ってる通りだろうな」
「ふふ、そうでしたか」
なあ、なんでお前ら会話通じ合ってんの?
どういうことだ? おい!
「これ、どう考えても合意じゃな」
「いやあすみません、リピーターさんがお友達まで連れてきて下さるなんてあまりに嬉しくて。ついうっかり前のめりすぎてしまいましたね」
「……よく言うよ」
おい、本当に……なんの話をしてるんだ?
別に元々知り合いってわけでも……絶対ねえなこりゃ。
「どうした、大丈夫か」
後ろに首を回してあいつの表情を確認しようとするが、まだ力強く掴まれたままの肩は動かねえ。
「……あんた、ほんとにわかってないんすね」
「あ?」
「帰りましょう。なんなら回数券分のお金は払います」
「へ? いや金は別にいいけど、ってそうじゃなくて、っ、おい」
掴まれていた肩ごとぐいと引っ張られれば、引きずられるように後ろに下げられて、そのまま身体が反転してようやくこいつと目が合った。
「はあ……あとで謝りますから」
「は、なにが」
「とにかく、ここを出ましょう……先輩、来て下さい」
「っ、え」
……あ? なんだこれ?
勝手に身体が浮いたみてえに軽く、こいつの示す方向に足が向く。
「あっ、おい、ああ、すみませんまた来ま――」
「ああ、残念ですが。よかったらまた」
「よく言う」
おい、さっきからどういうことだよ? おれ以外で会話が成り立ってるのがまたわけわかんねえ。
なのにおれの身体は、おれの身体なのに後輩のほうについていきたがっているのがなぜだかよくわかっちまう。
「……先輩、いい子ですから」
「は……?」
「とにかく、ここはだめです。このまま来て下さい」
「へえ、まあうちは別にいいんだけどね。ま、よろしくやっといてよ」
「え……」
そうこうしているうちにあっという間に雑居ビルの一室、件の店の前にたどり着く。
そう、そうなんだよな、おれだって最初は絶対やべえって思ったからその反応はそりゃそうだよな。
「はは、言いたいことはわかるぜ? さすがにいかにもっつうか……っあ」
そうこう言っているうちガチャリと扉が開く。
「ははっ、どうも」
「ああ、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
うわー、あぶねえ。出てきてくれたのがいつもの兄ちゃんだったのはセーフだな。
「あー、うるさくしちまってすいません」
「いいえ、いつもありがとうございます」
はあ、相変わらず胡散臭えほどの完璧な笑顔が眩しいぜ。
「あの、先輩」
「ああ……、あの、予約はしてねえんですけど、こいつもお願いしたくて」
「なるほど、お連れ様でしたか」
「あっ、もし満員ならおれはいいから」
そういやいつもこの兄ちゃんが受付も施術もやってくれているんだが、いつも予約なしでなにも言われたこともないのですっかりそういう概念を失念していたことに今更気づく。
「ああもう、すみません。それは話が違うでしょう、それにそもそも」
「構いませんよ、どうぞ」
「いいってよ、ほらここまで来たしさ」
「……いや、そうじゃなくて」
まあ、言いたいことはわからんでもないけどな。
騙されたと思って――
「もちろんです。ではお連れ様もご一緒に、こちらに来て下さい」
「は」
「ん、どうした? ……っ、と」
控えめにおれの背後に立っていた後輩が小さく声をあげたかと思えば、おれの肩が上から押さえつらけるみたいにぐいと掴まれる。その反動でおれの身体が倒れそうになるのを耐えて、一歩後ろに足が下がる。
「先輩、なんですかこれ」
「あ、え……?」
あれお前、こんな低い声だったっけ……?
いや、そうじゃなくて。
「ああ……お客様はもしかして」
マッサージの兄ちゃんも、あれ、なんで。
普段以上に異様に目が細められたまま、すげえ口角上がって笑ってるみてえなのになんかやべえのは直感で。
「なあ、待て、なんだって?」
「……あんたの、思ってる通りだろうな」
「ふふ、そうでしたか」
なあ、なんでお前ら会話通じ合ってんの?
どういうことだ? おい!
「これ、どう考えても合意じゃな」
「いやあすみません、リピーターさんがお友達まで連れてきて下さるなんてあまりに嬉しくて。ついうっかり前のめりすぎてしまいましたね」
「……よく言うよ」
おい、本当に……なんの話をしてるんだ?
別に元々知り合いってわけでも……絶対ねえなこりゃ。
「どうした、大丈夫か」
後ろに首を回してあいつの表情を確認しようとするが、まだ力強く掴まれたままの肩は動かねえ。
「……あんた、ほんとにわかってないんすね」
「あ?」
「帰りましょう。なんなら回数券分のお金は払います」
「へ? いや金は別にいいけど、ってそうじゃなくて、っ、おい」
掴まれていた肩ごとぐいと引っ張られれば、引きずられるように後ろに下げられて、そのまま身体が反転してようやくこいつと目が合った。
「はあ……あとで謝りますから」
「は、なにが」
「とにかく、ここを出ましょう……先輩、来て下さい」
「っ、え」
……あ? なんだこれ?
勝手に身体が浮いたみてえに軽く、こいつの示す方向に足が向く。
「あっ、おい、ああ、すみませんまた来ま――」
「ああ、残念ですが。よかったらまた」
「よく言う」
おい、さっきからどういうことだよ? おれ以外で会話が成り立ってるのがまたわけわかんねえ。
なのにおれの身体は、おれの身体なのに後輩のほうについていきたがっているのがなぜだかよくわかっちまう。
「……先輩、いい子ですから」
「は……?」
「とにかく、ここはだめです。このまま来て下さい」
「へえ、まあうちは別にいいんだけどね。ま、よろしくやっといてよ」
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