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あーあー、やれやれ。
さっきの書類はあいつがほぼ完璧に仕上げていたからおれはほぼ見るだけで済んでるものの、この万年繁忙期、マジで無理やり見栄でも張ってなけりゃあやってらんねえな。
せっかくマッサージを受けて半減したはずの疲れなんて一瞬で元に戻っちまうし、なまじ自分のいい状態を知ってしまっただけに反動が怠すぎる。なんなら余計に酷くなってるような気さえしてしまう。
大体、部下が帰りにくくなるほど残業するような上司にゃなりたくねえなとあれほど思っていた時期がおれにもあったはずなのに、蓋を開ければこの有様だ。
そもそもただでさえ人が足りてねえんだ、んな状態でおれらが潰れたらどうしてくれんだっつてもどうもしてくれねえんだろうなあ。後輩たちにも悪いなとは思いつつも、せめて少しでも気持ちよく帰って有意義な時間を過ごさせてやりてえし、それでできれば長く続けてもらいたいっつう下心的な本音もまあものすごくあるっちゃある。
なんておれがひとりで考えたって答えの出ない考え事をぐるぐると脳内で回すうち、今日もまた無意識にあのマッサージ店の方向に足が勝手に向かっていった。やがて騒々しい雑居ビル群が並ぶエリアに差し掛かれば、ふと見覚えのある男の姿が視界に入る。
「あれ、おつかれさん」
「あー……、どうも」
「ははっ、会うのはさっき振りだが……懐かしいな」
そうそう、この適度に大体のモンが揃うこの街は共通の乗換駅でもあるから、前はよくこうして時間が被れば一緒に飲みに行くこともあったんだがな。いい年になってきたここ最近は体力的な意味でも、残業続きの平日なんて一刻も早く帰るに限るよな。
「どこか行ってたのか? ……なんて聞いちゃあセクハラか、なんてな」
「まあ、ちょっと野暮用で。もう帰りますけど」
「そっか」
ヒュゥ、相変わらずの塩対応と見せかけちゃんと答えてくれるそういうところ、大好きだぜ?
そんな可愛い後輩には……ああそうだ。
「お前、もう帰るんならさ。例のマッサージ屋がちょうどそこなんだけど」
「はあ」
「言ったろ? 紹介するって。おれの回数券一枚やるからさ、行こうぜ」
「は? だから僕はいいですって」
「まあまあせっかくだしさ、金は要らねえからよ……って、悪りい、このあと約束でもあるんなら」
っ、て、危ねえこれもパワハラセクハラか。
「ああもう、いいですいいです。お金要らないんですよね? 別に予定なんてないですし、行かせていただきますよ」
「あー、なんかすまん」
「いえ、だって先輩の保証付きなんでしょう?」
「おう、それは間違いなく保証するぜ」
はー、お前ほんと普段は冷たいくせにここぞのところでいいやつだよな。ああーときめいちまうわ、こいつのプライベートのことは聞かねえけど、顔も悪くねえしまあモテんだろうよ。
ここのところ残業漬けにさせて申し訳ねえし、今日もおっさんのおれと連れ立ってマッサージなんてすまねえな、なんつって。
「じゃ、先輩、エスコートお願いしますね」
「へへっ、喜んで」
ちょっと後輩におだてられるだけで上機嫌で歩き出す。
これで素面だぜ? おれもやっすいやつだが悪くねえ。
さっきの書類はあいつがほぼ完璧に仕上げていたからおれはほぼ見るだけで済んでるものの、この万年繁忙期、マジで無理やり見栄でも張ってなけりゃあやってらんねえな。
せっかくマッサージを受けて半減したはずの疲れなんて一瞬で元に戻っちまうし、なまじ自分のいい状態を知ってしまっただけに反動が怠すぎる。なんなら余計に酷くなってるような気さえしてしまう。
大体、部下が帰りにくくなるほど残業するような上司にゃなりたくねえなとあれほど思っていた時期がおれにもあったはずなのに、蓋を開ければこの有様だ。
そもそもただでさえ人が足りてねえんだ、んな状態でおれらが潰れたらどうしてくれんだっつてもどうもしてくれねえんだろうなあ。後輩たちにも悪いなとは思いつつも、せめて少しでも気持ちよく帰って有意義な時間を過ごさせてやりてえし、それでできれば長く続けてもらいたいっつう下心的な本音もまあものすごくあるっちゃある。
なんておれがひとりで考えたって答えの出ない考え事をぐるぐると脳内で回すうち、今日もまた無意識にあのマッサージ店の方向に足が勝手に向かっていった。やがて騒々しい雑居ビル群が並ぶエリアに差し掛かれば、ふと見覚えのある男の姿が視界に入る。
「あれ、おつかれさん」
「あー……、どうも」
「ははっ、会うのはさっき振りだが……懐かしいな」
そうそう、この適度に大体のモンが揃うこの街は共通の乗換駅でもあるから、前はよくこうして時間が被れば一緒に飲みに行くこともあったんだがな。いい年になってきたここ最近は体力的な意味でも、残業続きの平日なんて一刻も早く帰るに限るよな。
「どこか行ってたのか? ……なんて聞いちゃあセクハラか、なんてな」
「まあ、ちょっと野暮用で。もう帰りますけど」
「そっか」
ヒュゥ、相変わらずの塩対応と見せかけちゃんと答えてくれるそういうところ、大好きだぜ?
そんな可愛い後輩には……ああそうだ。
「お前、もう帰るんならさ。例のマッサージ屋がちょうどそこなんだけど」
「はあ」
「言ったろ? 紹介するって。おれの回数券一枚やるからさ、行こうぜ」
「は? だから僕はいいですって」
「まあまあせっかくだしさ、金は要らねえからよ……って、悪りい、このあと約束でもあるんなら」
っ、て、危ねえこれもパワハラセクハラか。
「ああもう、いいですいいです。お金要らないんですよね? 別に予定なんてないですし、行かせていただきますよ」
「あー、なんかすまん」
「いえ、だって先輩の保証付きなんでしょう?」
「おう、それは間違いなく保証するぜ」
はー、お前ほんと普段は冷たいくせにここぞのところでいいやつだよな。ああーときめいちまうわ、こいつのプライベートのことは聞かねえけど、顔も悪くねえしまあモテんだろうよ。
ここのところ残業漬けにさせて申し訳ねえし、今日もおっさんのおれと連れ立ってマッサージなんてすまねえな、なんつって。
「じゃ、先輩、エスコートお願いしますね」
「へへっ、喜んで」
ちょっと後輩におだてられるだけで上機嫌で歩き出す。
これで素面だぜ? おれもやっすいやつだが悪くねえ。
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