恋愛ショートショート

かまの悠作

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彼女の詩

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ある薄曇りの日、街の中心にある小さなカフェ「時の止まるところ」で、彼女はいつもの席に座っていた。窓の外を眺めると、雨粒がガラスに糸を引くように流れていく。彼女の名前はミナ、大学生で、文学部に通っている。手元のノートには詩が綴られていたが、心は別の場所に飛んでいた。

「また、彼女か…」

彼女の視線の先に、カフェのドアが音を立てて開く。入ってきたのは、黒いコートを着た青年、ユウだった。彼はいつもこのカフェに来るわけではなく、時折、まるで運命のように現れる。ミナは彼のことが気になっていた。

「今日は雨だね」

ユウがミナに気づき、微笑みながら近づいてきた。彼女は心臓が高鳴るのを感じた。まるで、雨の音が彼の声に溶け込んでいるかのようだった。

「うん、そうだね。詩を考えてたところ」

「詩?何について?」

彼女は彼にちらりと目を向け、ノートを見せる。そこには、雨の中の孤独や、心の奥に潜む思いが描かれていた。ユウはそれを読んで、少し真剣な表情になった。

「君の詩、いつも素敵だね。でも、どうしてそんなに悲しそうなの?」

ミナは一瞬言葉を失った。彼の言葉は、まるで心の奥を見透かされているかのようだった。彼女が抱える孤独感、いつも周囲に溶け込めない自分。それを彼は感じ取ったのだ。

「私、いつも一人なの。周りが楽しそうにしていると、自分だけ取り残されている気がして…」

「でも、君は素敵だよ。自分の感情を素直に表現できるなんて」

その言葉に、彼女の心は少しだけ温かくなった。ユウはさらに続けた。

「君の詩には、雨の中の光がある。それを大切にしてほしい」

その瞬間、ミナの心の中に小さな火が灯った。彼女は思わず微笑んだ。雨の音が静かに響く中、彼との会話はどんどん弾んでいく。

「君はどうしてこのカフェに来るの?」

ユウは少し考えた様子で答えた。「実は、ここにはちょっとした秘密があるんだ。誰も知らないけど、時々、未来が見える場所なんだよ」

「未来が見えるって、どういうこと?」

「このカフェにいると、自分の未来の一部を垣間見ることができる気がする。ただ、見えた未来は必ずしも良いものではない。だから、時々怖くなる」

ミナはその言葉に心を揺さぶられた。彼もまた、自分と同じように孤独を抱えているのだろうか。彼女はしばらく沈黙し、彼の瞳を見つめた。そこには、彼女の知らない世界が広がっているように思えた。

「私も、未来が見えたらいいのに…」

「見えたら、どんな未来がいい?」

「素敵な恋ができる未来。友達と笑い合える未来…」

ユウは彼女の言葉をじっと聞いていた。彼の表情が少し変わり、真剣になった。

「じゃあ、君が描く未来を一緒に作っていこうよ」

その一言が、ミナの心の中で大きく響いた。彼女は何か特別なものを感じた。この瞬間が永遠に続けばいいのにと思った。

「本当に?それなら、私も頑張る!」

彼女は笑顔で答えた。ユウも微笑み返し、彼女の手を優しく握った。その瞬間、二人の心が一つに繋がったように感じた。雨の音が静かに響く中、彼女の心に温かい光が差し込んできた。

しかし、その時、彼の表情が急に暗くなった。「でも、未来には影があるんだ。君には、影の部分を見せたくない」

「影って、どういうこと?」

「僕には秘密がある。君に話すべきか迷っている…」

ミナは不安に思いながらも、彼の目を見つめた。「私、どんな影でも受け入れるよ。だから、教えて」

ユウは深く息を吸い、言葉を選ぶように話し始めた。「実は、僕はこの世界の住人じゃないんだ。異世界から来た…その世界は、君の描く未来と全く違う」

彼女は驚き、言葉を失った。「異世界…?」

「そう。君の未来を見に来たんだ。でも、僕がここにいることは、時の流れを乱すことになる。だから、いつかは戻らなければならない」

ミナの心は一瞬で冷たくなった。彼の言葉が、まるで冷たい雨のように彼女の心に突き刺さる。彼女は彼の手を握りしめた。「でも、どうしてそんなことをするの?」

「君に会いたかったから。でも、運命は残酷だ。君を傷つけたくない」

彼の言葉に、ミナは涙が溢れそうになった。「私は、あなたと一緒にいたい…」

「それができたら、どれだけ幸せだろう。でも、僕には帰らなければならない理由がある」

ミナは彼に寄り添い、彼の手を強く握った。「じゃあ、最後の瞬間まで一緒にいようよ。私たちの未来を信じて」

ユウは彼女の目を見つめ、微笑んだ。「君の優しさが、僕の心を温めてくれる。ありがとう」

それから二人は、静かにカフェの中で時間を過ごした。雨は止み、外は静けさに包まれていた。彼女は彼と共に過ごす瞬間が、未来のどんな影よりも大切だと感じた。

そして、ユウの存在が、彼女の心の中で永遠に生き続けることを心に誓った。彼女は彼を忘れない。彼が帰ってしまうその時まで、彼女の心には彼の温もりが残るのだ。

そして、彼が去った後、ミナは彼との思い出を詩に綴ることに決めた。彼女の詩には、彼との出会い、別れ、そして心の中で永遠に生きる彼の姿が描かれた。

彼女の詩は、雨の中の光を見つめるような温かなものとなった。未来は不確かで、影もあるけれど、それでも彼との思い出が彼女を支えてくれるのだ。

時の止まるカフェで、彼女は新たな詩を生み出すために、ペンを走らせた。彼との約束を胸に、彼女は未来を信じて進んでいく。
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