恋愛ショートショート

海と私たち

海沿いの街、夕暮れ時。空はオレンジ色に染まり、波の音が心地よく響く。海岸通りを歩くと、砂浜に打ち寄せる波が白く泡立ち、その先には小さなカフェが見える。カフェの外には、テラス席があり、若者たちが楽しそうに笑っている。

「ねぇ、あの子、すごく可愛いよね！」友達の美咲が指をさす。視線の先には、薄い水色のワンピースを着た女の子、あかりがいる。彼女の髪は柔らかい陽の光を受けて金色に輝き、笑顔が周りの景色を明るく照らしている。

「美咲、あれ、俺の幼馴染みだよ」と言ったのは翔。彼はあかりのことをず気にっとかけていた二。人は同じ学校に通い、仲が良かったが、いつの間にか彼の心の中に特別な感情が芽生えていた。

「本気で？翔、チャンスじゃん！」美咲が興奮した声で言う。翔は一瞬ドキリとした。あかりに自分の気持ちを伝えるなんて、恐れ多い。でも、美咲の背中を押してくれるその言葉が心に響く。

「行ってみるか？」翔は決意を固める。美咲はニヤリと笑い、彼を後押しする。「行け、行け！」

翔はカフェへ向かい、あかりのテーブルに近づいた。彼女は友達と楽しそうに話している。翔の心臓がドキドキし、手のひらに汗が滲む。自分の思いを伝える勇気が出るか、自信がなかった。

「あ、翔くん！」あかりがこちらを見て手を振る。彼女の笑顔は、まるで太陽の光が差し込むような温かさだ。翔は思わず頬が緩んだ。

「おー、あかり！元気？」翔は少しぎこちない笑顔を見せる。彼女の友達が彼を見つめ、何やら話し合っているのが気になった。

「うん、元気だよ！今日はここでお茶してるの？」あかりの声は柔らかく、翔はその声に引き込まれるようだった。

「うん、たまたま通りかかったんだ。あの…ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな？」

あかりの目が少し驚いたように大きくなった。「え、何だろう？」

翔は心の中で深呼吸をする。「実は、あかりのことが…好きなんだ。」

その瞬間、周りの音が消え、翔は自分の言葉が空気の中で響くのを感じた。あかりの表情は一瞬、驚きと戸惑いが交錯した。彼女の友達が目を丸くし、二人の間に緊張の空気が流れる。

「え、本当に？」あかりは言葉を選ぶように口を開いた。

翔は少しずつ彼女の目を見つめる。「うん。ずっと前から、あかりのことが特別だと思ってた。友達以上の気持ちがあるんだ。」

「あ、そっか…」あかりは一瞬視線をそらした。翔の心臓は再び高鳴る。期待と不安が入り混じり、声が震えそうになる。「私も翔くんのこと、すごく大切な友達だと思ってる。でも、恋愛って…ちょっと考えさせて欲しい。」

翔は少し肩を落とした。あかりの言葉には、彼女なりの思いやりが感じられたが、同時に期待が裏切られた気持ちもあった。「もちろん、急がないよ。待ってるから。」

あかりは微笑んだ。「ありがとう、翔くん。これからも友達として、色んなことを話そうね。」

その後、あかりは友達と笑い合いながら、翔を見つめることがなかった。翔はその場を離れ、夕陽が沈みゆく海を見つめた。心の中に広がる思いは、沈む太陽のようにゆっくりと色を変えていった。

友達に戻ることはできるのか。翔は自分の心の中に渦巻く感情を整理することができず、ただ海を見つめることしかできなかった。波の音が心を癒してくれるようだったが、心の奥に残る切なさは消えなかった。

「翔…」美咲が近づいてきた。「どうだった？」

翔は深い息を吐き出し、「あかりのこと、考えさせて欲しいって言われた。」

「そうか。でも、翔は頑張ったよ！」美咲は彼を励ますように肩を叩いた。「いつか、きっと良いことがあるさ。」

翔はその言葉に少しだけ救われた気がした。あかりの気持ちを待つ間、彼は自分自身を見つめ直す時間ができるのかもしれない。もしかしたら、友達以上の関係になれる日も来るかもしれない。

「ありがとう、美咲。もう少し、あかりを見守ってみるよ。」

その言葉が、翔の心を少し軽くした。夕陽が海に沈む中、翔は自分の気持ちを大切にしながら、未来へ向かって歩き出す決意を固めた。

恋愛は時に複雑で、心が揺れるもの。でも、その中にある友情や思いやりが、未来を照らす光になることを翔は信じていた。彼の心の中には、あかりと過ごす日々の思い出が美しく輝いていた。