恋愛ショートショート

かまの悠作

文字の大きさ
上 下
152 / 195

ねぇ、私が魔法で誰かを傷つけたらどうする?

しおりを挟む
ある日、薄曇りの空の下、エミリは不思議な森の中を歩いていた。この森は、古くから魔法が宿る場所として知られていた。枯れた木々の間から差し込む柔らかな光が、彼女の心を少しだけ明るくしていた。エミリは、木の葉の音や小鳥の囀りに耳を傾けながら、心の中で何かを探しているようだった。

「こんなところで何を探しているの?」突然、声をかけられた。振り向くと、そこにはルカが立っていた。彼は、エミリの幼なじみで、いつも明るい笑顔を見せる男だった。ルカの髪は太陽の光を浴びて金色に輝き、彼の目は深い青の海のようだった。

「ルカ!どうしてここに?」エミリは驚きつつも、心の奥で嬉しさが広がっていくのを感じた。

「君を探してたんだ。最近、少し元気がないみたいだから。」

「私、別に大丈夫だよ。ただ、ちょっと考え事してただけ。」エミリは笑顔を作ったが、その笑顔はどこかぎこちなく見えた。

ルカはその様子を見て、少し心配そうな表情を浮かべた。「エミリ、無理しなくてもいいんだよ。俺がいるから、何でも話して。」

エミリは少し戸惑った。彼に心の内を打ち明ける勇気がなかった。あの日の出来事が、彼女の心に重くのしかかっていた。彼女は、魔法の力を持つ者として特別な存在であり、それゆえに周囲との関係が複雑になってしまったのだ。

「ねえ、ルカ。もし私が魔法を使って、誰かを傷つけたらどうする?」

「そんなこと、絶対にないよ。エミリは優しいから、そんなことできない。俺は信じてる。」

彼の言葉は、エミリの心に暖かい光を灯した。しかし、その光はすぐに暗雲に包まれてしまった。一瞬の静寂の後、エミリは口を開いた。「でも、もし…その力が私を制御できないとしたら?」

「それでも、俺がいる。どんな時でも、君を支えるから。」ルカは真剣な眼差しでエミリを見つめた。

その瞬間、エミリの心に浮かんだのは、彼との思い出だった。二人で遊んだ子供の頃彼、がいつも自分を守ってくれたこと。そして、彼の笑顔が自分にとってどれほど大切なものだったか。エミリは、彼の言葉に少しずつ心を開き始めた。

「もし私が…私が誰かを傷つけたら、ルカはどうする?私を恨む?」エミリは瞳を潤ませながら問いかけた。

「そんなことしないよ。俺は、君を知ってるから。君がどれほど心優しいか、知ってるから。」ルカの言葉は、エミリの心に深く響いた。

「でも、私には魔法がある。人の

心を操ることもできる。だから…」

「だから、君がその力をどう使うかが大事なんだ。力は使い方次第だよ。君は絶対に悪いことには使わないと信じてる。」

エミリはその言葉に少し救われた気がした。彼の目には、彼女を信じる強い意志が宿っていた。エミリは、小さく息を吐き出した。「ありがとう、ルカ。あなたがいるから、少し楽になった。」

「そうだ、君は一人じゃない。俺がいつもそばにいるから。」ルカは笑顔を見せた。

その時、森の奥から不気味な音が響いてきた。ざわめく葉音、そして誰かの叫び声。エミリは思わず体を震わせた。「何か、起きてる…!」

「行こう、見に行こう!」ルカがエミリの手を引く。彼の強い手に引かれ、エミリは不安を抱えながらも一歩踏み出した。

二人は音のした方へと進んでいった。薄暗い森の中、道の脇には不気味な影がちらついていた。エミリは恐怖に駆られ、ルカにしがみついた。「私、怖い…」

「大丈夫だよ、俺がいるから。」ルカの声は優しく、彼の存在がエミリを少しだけ安心させた。

やがて、二人は音の元にたどり着いた。そこには、魔女が一人、呪文を唱えている姿があった。その魔女は恐ろしい形相で、周囲の木々を枯らし、風を巻き起こしていた。

「やめろ!」ルカが叫んだ。魔女は振り向き、冷たい笑みを浮かべた。「誰だ、お前らは?」

「私たちは、あなたを止めに来た!」エミリは思い切って声を上げた。

「止める?お前には無理だ。私の魔法は、誰にも止められない。」魔女はそう言うと、再び呪文を唱え始めた。

エミリは恐ろしさに震えたが、ルカの存在を思い出した。彼が信じてくれているから、彼を守るために自分も立ち向かわなければならない。エミリは深呼吸をし、魔女に向き直った。

「私も魔法を使える!あなたのように、悪いことには使わないけど…!」

「ほう?お前がどれだけの力を持っているか、見せてもらおう。」魔女は笑い、呪文を強めた。

その瞬間、エミリは自分の内に秘めた魔法の力を感じた。彼女は心の中でルカのことを思い浮かべた。彼の笑顔、優しさ、そして彼女を信じる気持ち。

「ルカを守るために、私は戦う!」エミリの心の中に強い意志が湧き上がった。

彼女は魔法を使って、魔女の呪文を打ち消す光を放った。光が森を包み込み、魔女の力を弱めていく。魔女は驚き、エミリの力を見つめた。「何だ、お前のその力は…!」

「私は私の力を使う!誰かを傷つけるためじゃない、守るために!」エミリの叫びが森に響き渡る。

その瞬間、エミリの魔法が魔女にぶつかり、彼女の呪文は消えていった。魔女は力を失い、消え去った。森の中が静寂に包まれ、エミリはほっと息をついた。

「やった…私、できた…!」エミリは喜びに満ち溢れ、ルカを見た。彼は目を輝かせていた。「すごい、エミリ!君は本当に強い!」

「でも、私、まだ不安がある。これからどうすればいいのか…」エミリは不安そうな表情を浮かべた。

「それでも、俺がそばにいる。君は一人じゃないから、何があっても一緒に乗り越えていこう。」ルカは優しく微笑んだ。

その言葉に、エミリの心は少しだけ軽くなった。彼女はルカの手を握り返し、自分の未来に希望を見出した。

「ありがとう、ルカ。これからも、一緒にいよう。」

「もちろん、ずっと一緒だよ。」ルカの笑顔が、エミリの心を温かく包み込んだ。

二人は、少しだけ曇った空を見上げた。そこには、魔法の森と彼らの未来が広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...