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プロローグ
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春の日差しが心臓に突き刺ささる四月。
ボロボロの体育館に、ウキウキな足取りの青春病患者多数が集まって、ピカピカ頭の話を聞いていた。
切磋琢磨くん。一期一会ちゃんが新入生代表の言葉を言い終わると、豆電球頭はフィラメントをチカチカとさせた。
背中に無数の視線を浴びながらカイル・ノクスは教室のドアに手をかけた。
1-C組。
ゴロンゴロンと最先を思いやられる、工事現場のような音を立てて、最後まで開かないドアは想定内。
まず目に入るのは整然と並ぶ机。
そして、蛍光灯と太陽が混ざり合った、特殊な光——青春の光が教室を照らす。
目下30人の生徒が、それぞれ意思を持った駒のように、人間将棋大会を繰り広げる中、ノクスは飛車のように左右上下に動きながら自分の席を目指す。
誰も席に着いていないので、渋滞を起こすことなく快適なドライブを終え、ノクスは自分の席に座った。
窓際最後列——教室における最強ポジションを手にしたノクスはその幸運に感謝しつつ、窓の外に広がる一面の桜景色を眺めた。
スパンコールのようにキラキラと輝くのは、今朝まで雨が降っていたせいだろう。
雫の分だけ重くなった桜の花びらはヒラヒラと滑空して机の上に舞い降りるなんてことはなくて、どちらかというと椿の花弁のようにずっしりと落下する。
ずっしりと落下した水筒がキーンと、ホームランを打った時のような音を出して、教室の時計の針を止めた。それはつまり時を止めたということで、背筋に走った悪寒に誰しもが耐えきれなくなって、再び熱運動を再開すると、時計の針も動き出した。
キーン・コーン・カーン・コーンという青春アラートが教室に鳴り響くのはおよそ15分後だとノクスは確認し、机にお辞儀をする格好をしてみる。こんにちは。木は喋らない当然だ。
コミュニケーションの一環として、机に話しかけることをよしとしない人間は、ノクスのことを冷やかな目で見たり、見て見ぬふりをするのだが、それを馬鹿にしたり、揶揄ったりしたら大変なことになりそうだという共通認識があるようで、触らぬ神のような存在感を放っていた。
桂馬のようにぴょんぴょんと飛び跳ねるカエルが窓に張り付いて、神様にご挨拶を申し上げに来たのをノクスは歓迎し、窓を開けた。
女子生徒が、きゃーと悲鳴を上げているが、これはノクスが取った行動に対するものなのか、カエルという生物にアレルギー反応を示しているのかは判然としない。
ノクスはカエルのお腹をこちょこちょとさすって、その場で出産させたおたまじゃくしを一人一人にプレゼントできないかと考えた。
しかし、神様の手の上で出産なんてさせるわけにはいかないので、後ろの机にカエルをそっと乗せて、ノクスはベトベトの手をカーテンでゴシゴシと拭いた。
堪忍袋の尾が切れたカエルのお腹のようにぷくっと頬を膨らませた一人の女子生徒がノクスに歩み寄りビンタをしようとしたので、ノクスはベトベトな手で頭を撫でた。落ち着けよ、と背中をトントンさすってやると、女子生徒はその場で気絶してしまった。きっと安心したのだろう。
ノクスは一日一善をしっかりと果たし、時計を確認した。まだ時間があるな、っと心の中でガッツポーズをしたつもりだったが、どういうわけか、ノクスの正面にいた男子生徒に思い切りアッパーを食らわせてしまい、男子生徒が倒れてしまうという事態に発展した。
ノクスは地団駄を踏み鳴らし、男子生徒の肋骨をボキボキと折ながら、その破片が心臓に突き刺さって、自分の足にも突き刺さるシーンでようやく理解した。
男子生徒の心臓を取り出して、カエルをその場所に押し込む。ちょうどいい大きさだ。
ドクンドクンと動き出すカエル臓人間は、元気に立ち上がると、窓から飛び降りてもといた場所にカエル、なんてことになったら大変だなーっと、ノクスは机に肘を立てかけて、桜の花びらを見ながら妄想に耽っていた。
ガラガラガラーっと教室のドアがひっきりなしに、開けたり閉めたりする音がすっかり止んで、教室は会話に花を咲かせる女子生徒と、可愛い女子ランキングでも作っているのか——ヒソヒソと耳打ちをする男子生徒に二極化していた。
そんなどちらの派閥にも属さない(というか女子の派閥には属したくても属せない)ノクスは、永世中立国として、大々的に難民を受け入れる方針を打ち出したのだが、ポツンとそびえ立つ城はどうにも頼りないらしい。
スローモーションで動く時計の針を目で追っていると、すごく悲しい気分になるので、ノクスはダンボールに入れられた捨て猫のような上目遣いを自分自身に送って、うんキモイな、と頷いた。
仕方なく、ボロボロの国語辞典を取り出して、適当なページを開いてみることにした。
ボッチ——そんな単語は載っていない。ボチ——墓地ならあるけど、そっちはもっと嫌だ。
国語辞典をバタンと閉じて、ノクスは目を閉じた。
「適当に開いたページの一番最初に目についた単語の行動をしよう。」
そう心に決めて、再びページを開ける。
——コミュニケーション。
やけに長い横文字は、目線を強制連行する。
「あの、カイル・ノクス君だよね?」
突如現れた難民?刺客?背後から女性の声がした。
「はいそうだけど。」
反射的に出た言葉は、とても早口だった。
「ひっ」
と言う声を漏らしながら、声の主は後ろから回り込んできた。
フローラルシャンプーのいい香りがする、すっごく可愛い子だったりして...
ノクスは期待に鼻を膨らませた。
「ノクス君。さっきのスピーチすごく噛んでたね。私笑っちゃって、ふっふふうーふうふー、ああお腹痛い。お腹ちぎれる。」
期待を上まわった要素と、予想外が混ざり合って、一瞬ん?っとなったが、直後ノクスは笑みを浮かべた。
めっちゃかわいい。というか美しい。学年一は暫定ではなく確定したな...てか何その笑い方。下ネタで盛り上がる小学生かよ。でもそれすらもかわいい??
ノクスは今度こそ心の中でガッツポーズをし、つい20分前の出来事を思い出した。
ノクスと彼女は初対面ではない。
20分前対面は初対面なのかもしれないが、新入生代表として、スピーチを読まされた仲だ。
今年は、入学試験の点数が同率満点が二人いて、それがカイル・ノクスと今目の前にいる彼女。確か白雪なんちゃらだった。
「校長先生の時計が15分も早まきで、それがツボ過ぎて、スピーチどころじゃなかったんだよ。15分前行動って、ふはははあ。」
カタルシスが洪水のように溢れ出る。それを余すことなくぶっ放し、絶世の美女と時間を共にするノクスは一種の猟奇的な笑いを浮かべていた。
「15分は盛りすぎでしょ...でもあの校長ならやりかねないね。それはそうと、あなた切磋琢磨を何回噛んだ?切磋拓海、切磋拓人、切磋拓也、切磋たくみんってふふふふうーふうううー。ああ、もう死んじゃう。おかしいおかしいよー。私隣で聞いてて笑いを堪えるのに必死だったんだけど...」
「そう言う君も、一期ショートケーキとか、一期だいふくとか言ってたじゃないか。」
「それは、あなたが面白すぎるからよ。そもそも、あのスピーチは私が読むはずだったのに、なぜか今年はトップが同率で二人いたから、半分ずつ読めって言われて、それで私を責める謂れわないわよ。」
「それは僕も同意見だ。僕だって今さっきその事実を通達されたんだよ。せっかく10万文字に及ぶ原稿を用意したのに、それがパアになった...」
「10万文字って、冗談でしょう??ええ、でもあなたならやりかねないわ。入学式が卒業式になるところだった。その点に関しては学校側の判断を支持するわ。」
「それで僕に何か用があって来たの?」
「用がないと来ちゃいけないの?」
彼女はぷくっと口を膨らませた。
「いや、とんでもない。嬉しいよ。すごく風通しが良くて、肌寒かったし...」
ノクスは自嘲気味に言った。
「窓を閉めればいいんじゃないかしら?」
「いいや、そうすると、桜の花びらが僕を訪ねて来たときに入れなくなってしまう。」
「まるでクリスマスイブね。くすっ」
彼女は、サンタクロースが入れるように窓を開けておくということを比喩に持ち出した、そんな頭が良くてユーモアがある彼女の下の名前が思い出せない。
なんとか会話を先延ばしにして、時間を稼ぐことにした矢先、
「ねえ、私の名前覚えてるよね?」
(ぎくり...)
「ああ、うん。阿吽の呼吸...ええと、確か白雪...」
「白夜よ。隣の席の女の子の名前くらい覚えてなきゃダメよ...///」
「ええ、隣の席だったの?」
「一期一会ってやつかしら!?」
そういうと彼女はノクスの右隣の席に座った。
改めて白夜を見るととんでもない美女だと言うことがわかる。
スキージャンプのようなうねりをするロングヘアーはスローションで写り、その一本一本が最上級の絹のような質感で、漆黒の輝きを放つ。
黒曜石のような鋭い目つきと、ブルーターコイズの瞳。
肌は真っ白な粉雪のようで、淑やかな雰囲気は北欧神話に出てきそうだ。
誰もが羨む完璧超人が自分の隣に座り、ヒラヒラと揺れるスカートの上にちょこんと手を乗せてこちらを覗く。ノクスの早鐘は最高潮に達し、心臓が飛び出ないように喉元を抑える始末。
「じゃあ、改めてよろしく白夜さん。」
「よろしくカイル・ノクスぷふっくん」
口を開くと雲行きがあやしくなる。
「何がおかしい!?」
「あなた、本当に面白い人。カイル・ノクスって風には見えないけど、それは本名なの?
もしかして、ご両親がすっごく厨二病だったりするの?」
「そういうことをデカい声で言うなよ。デリカシーってもんがあるだろ?」
「でも逆につっこんであげないと、みんなどう触れればいいのかわからないんじゃないの?」
「それは一理ある。カイル家は——代々続く由緒正しい家系でうんたらかんたらって言えばいいのか?」
「そうなの?」
「いいや違う。カイル家のご先祖様はカエルでな。カエルが何匹もノックして訪ねて来たから
カエル・ノックスそこから発音が変わってカイル・ノクスだ。どうだかっこいいだろ?」
もちろんデタラメだ。
「......」
「へえ、」
白夜の笑いのツボがどこにあるのか全くわからない。
「ねえ、あなたって結婚願望とかってある?」
「ある。今すぐにでも結婚したい。」
「苗字がカエルになるお嫁さんが不憫でならないわ」
「そ、それは僕は婿に入れば解決するのでは???」
「じゃあ、あなたは白雪・ノクスになるのね。」
「なんで、白夜さんと結婚する流れになるの?」
「しないわよ。結婚。私は。断固拒否。」
キーン・コーン・カーン・コーン
プロポーズもしてないのに振られた。
ボロボロの体育館に、ウキウキな足取りの青春病患者多数が集まって、ピカピカ頭の話を聞いていた。
切磋琢磨くん。一期一会ちゃんが新入生代表の言葉を言い終わると、豆電球頭はフィラメントをチカチカとさせた。
背中に無数の視線を浴びながらカイル・ノクスは教室のドアに手をかけた。
1-C組。
ゴロンゴロンと最先を思いやられる、工事現場のような音を立てて、最後まで開かないドアは想定内。
まず目に入るのは整然と並ぶ机。
そして、蛍光灯と太陽が混ざり合った、特殊な光——青春の光が教室を照らす。
目下30人の生徒が、それぞれ意思を持った駒のように、人間将棋大会を繰り広げる中、ノクスは飛車のように左右上下に動きながら自分の席を目指す。
誰も席に着いていないので、渋滞を起こすことなく快適なドライブを終え、ノクスは自分の席に座った。
窓際最後列——教室における最強ポジションを手にしたノクスはその幸運に感謝しつつ、窓の外に広がる一面の桜景色を眺めた。
スパンコールのようにキラキラと輝くのは、今朝まで雨が降っていたせいだろう。
雫の分だけ重くなった桜の花びらはヒラヒラと滑空して机の上に舞い降りるなんてことはなくて、どちらかというと椿の花弁のようにずっしりと落下する。
ずっしりと落下した水筒がキーンと、ホームランを打った時のような音を出して、教室の時計の針を止めた。それはつまり時を止めたということで、背筋に走った悪寒に誰しもが耐えきれなくなって、再び熱運動を再開すると、時計の針も動き出した。
キーン・コーン・カーン・コーンという青春アラートが教室に鳴り響くのはおよそ15分後だとノクスは確認し、机にお辞儀をする格好をしてみる。こんにちは。木は喋らない当然だ。
コミュニケーションの一環として、机に話しかけることをよしとしない人間は、ノクスのことを冷やかな目で見たり、見て見ぬふりをするのだが、それを馬鹿にしたり、揶揄ったりしたら大変なことになりそうだという共通認識があるようで、触らぬ神のような存在感を放っていた。
桂馬のようにぴょんぴょんと飛び跳ねるカエルが窓に張り付いて、神様にご挨拶を申し上げに来たのをノクスは歓迎し、窓を開けた。
女子生徒が、きゃーと悲鳴を上げているが、これはノクスが取った行動に対するものなのか、カエルという生物にアレルギー反応を示しているのかは判然としない。
ノクスはカエルのお腹をこちょこちょとさすって、その場で出産させたおたまじゃくしを一人一人にプレゼントできないかと考えた。
しかし、神様の手の上で出産なんてさせるわけにはいかないので、後ろの机にカエルをそっと乗せて、ノクスはベトベトの手をカーテンでゴシゴシと拭いた。
堪忍袋の尾が切れたカエルのお腹のようにぷくっと頬を膨らませた一人の女子生徒がノクスに歩み寄りビンタをしようとしたので、ノクスはベトベトな手で頭を撫でた。落ち着けよ、と背中をトントンさすってやると、女子生徒はその場で気絶してしまった。きっと安心したのだろう。
ノクスは一日一善をしっかりと果たし、時計を確認した。まだ時間があるな、っと心の中でガッツポーズをしたつもりだったが、どういうわけか、ノクスの正面にいた男子生徒に思い切りアッパーを食らわせてしまい、男子生徒が倒れてしまうという事態に発展した。
ノクスは地団駄を踏み鳴らし、男子生徒の肋骨をボキボキと折ながら、その破片が心臓に突き刺さって、自分の足にも突き刺さるシーンでようやく理解した。
男子生徒の心臓を取り出して、カエルをその場所に押し込む。ちょうどいい大きさだ。
ドクンドクンと動き出すカエル臓人間は、元気に立ち上がると、窓から飛び降りてもといた場所にカエル、なんてことになったら大変だなーっと、ノクスは机に肘を立てかけて、桜の花びらを見ながら妄想に耽っていた。
ガラガラガラーっと教室のドアがひっきりなしに、開けたり閉めたりする音がすっかり止んで、教室は会話に花を咲かせる女子生徒と、可愛い女子ランキングでも作っているのか——ヒソヒソと耳打ちをする男子生徒に二極化していた。
そんなどちらの派閥にも属さない(というか女子の派閥には属したくても属せない)ノクスは、永世中立国として、大々的に難民を受け入れる方針を打ち出したのだが、ポツンとそびえ立つ城はどうにも頼りないらしい。
スローモーションで動く時計の針を目で追っていると、すごく悲しい気分になるので、ノクスはダンボールに入れられた捨て猫のような上目遣いを自分自身に送って、うんキモイな、と頷いた。
仕方なく、ボロボロの国語辞典を取り出して、適当なページを開いてみることにした。
ボッチ——そんな単語は載っていない。ボチ——墓地ならあるけど、そっちはもっと嫌だ。
国語辞典をバタンと閉じて、ノクスは目を閉じた。
「適当に開いたページの一番最初に目についた単語の行動をしよう。」
そう心に決めて、再びページを開ける。
——コミュニケーション。
やけに長い横文字は、目線を強制連行する。
「あの、カイル・ノクス君だよね?」
突如現れた難民?刺客?背後から女性の声がした。
「はいそうだけど。」
反射的に出た言葉は、とても早口だった。
「ひっ」
と言う声を漏らしながら、声の主は後ろから回り込んできた。
フローラルシャンプーのいい香りがする、すっごく可愛い子だったりして...
ノクスは期待に鼻を膨らませた。
「ノクス君。さっきのスピーチすごく噛んでたね。私笑っちゃって、ふっふふうーふうふー、ああお腹痛い。お腹ちぎれる。」
期待を上まわった要素と、予想外が混ざり合って、一瞬ん?っとなったが、直後ノクスは笑みを浮かべた。
めっちゃかわいい。というか美しい。学年一は暫定ではなく確定したな...てか何その笑い方。下ネタで盛り上がる小学生かよ。でもそれすらもかわいい??
ノクスは今度こそ心の中でガッツポーズをし、つい20分前の出来事を思い出した。
ノクスと彼女は初対面ではない。
20分前対面は初対面なのかもしれないが、新入生代表として、スピーチを読まされた仲だ。
今年は、入学試験の点数が同率満点が二人いて、それがカイル・ノクスと今目の前にいる彼女。確か白雪なんちゃらだった。
「校長先生の時計が15分も早まきで、それがツボ過ぎて、スピーチどころじゃなかったんだよ。15分前行動って、ふはははあ。」
カタルシスが洪水のように溢れ出る。それを余すことなくぶっ放し、絶世の美女と時間を共にするノクスは一種の猟奇的な笑いを浮かべていた。
「15分は盛りすぎでしょ...でもあの校長ならやりかねないね。それはそうと、あなた切磋琢磨を何回噛んだ?切磋拓海、切磋拓人、切磋拓也、切磋たくみんってふふふふうーふうううー。ああ、もう死んじゃう。おかしいおかしいよー。私隣で聞いてて笑いを堪えるのに必死だったんだけど...」
「そう言う君も、一期ショートケーキとか、一期だいふくとか言ってたじゃないか。」
「それは、あなたが面白すぎるからよ。そもそも、あのスピーチは私が読むはずだったのに、なぜか今年はトップが同率で二人いたから、半分ずつ読めって言われて、それで私を責める謂れわないわよ。」
「それは僕も同意見だ。僕だって今さっきその事実を通達されたんだよ。せっかく10万文字に及ぶ原稿を用意したのに、それがパアになった...」
「10万文字って、冗談でしょう??ええ、でもあなたならやりかねないわ。入学式が卒業式になるところだった。その点に関しては学校側の判断を支持するわ。」
「それで僕に何か用があって来たの?」
「用がないと来ちゃいけないの?」
彼女はぷくっと口を膨らませた。
「いや、とんでもない。嬉しいよ。すごく風通しが良くて、肌寒かったし...」
ノクスは自嘲気味に言った。
「窓を閉めればいいんじゃないかしら?」
「いいや、そうすると、桜の花びらが僕を訪ねて来たときに入れなくなってしまう。」
「まるでクリスマスイブね。くすっ」
彼女は、サンタクロースが入れるように窓を開けておくということを比喩に持ち出した、そんな頭が良くてユーモアがある彼女の下の名前が思い出せない。
なんとか会話を先延ばしにして、時間を稼ぐことにした矢先、
「ねえ、私の名前覚えてるよね?」
(ぎくり...)
「ああ、うん。阿吽の呼吸...ええと、確か白雪...」
「白夜よ。隣の席の女の子の名前くらい覚えてなきゃダメよ...///」
「ええ、隣の席だったの?」
「一期一会ってやつかしら!?」
そういうと彼女はノクスの右隣の席に座った。
改めて白夜を見るととんでもない美女だと言うことがわかる。
スキージャンプのようなうねりをするロングヘアーはスローションで写り、その一本一本が最上級の絹のような質感で、漆黒の輝きを放つ。
黒曜石のような鋭い目つきと、ブルーターコイズの瞳。
肌は真っ白な粉雪のようで、淑やかな雰囲気は北欧神話に出てきそうだ。
誰もが羨む完璧超人が自分の隣に座り、ヒラヒラと揺れるスカートの上にちょこんと手を乗せてこちらを覗く。ノクスの早鐘は最高潮に達し、心臓が飛び出ないように喉元を抑える始末。
「じゃあ、改めてよろしく白夜さん。」
「よろしくカイル・ノクスぷふっくん」
口を開くと雲行きがあやしくなる。
「何がおかしい!?」
「あなた、本当に面白い人。カイル・ノクスって風には見えないけど、それは本名なの?
もしかして、ご両親がすっごく厨二病だったりするの?」
「そういうことをデカい声で言うなよ。デリカシーってもんがあるだろ?」
「でも逆につっこんであげないと、みんなどう触れればいいのかわからないんじゃないの?」
「それは一理ある。カイル家は——代々続く由緒正しい家系でうんたらかんたらって言えばいいのか?」
「そうなの?」
「いいや違う。カイル家のご先祖様はカエルでな。カエルが何匹もノックして訪ねて来たから
カエル・ノックスそこから発音が変わってカイル・ノクスだ。どうだかっこいいだろ?」
もちろんデタラメだ。
「......」
「へえ、」
白夜の笑いのツボがどこにあるのか全くわからない。
「ねえ、あなたって結婚願望とかってある?」
「ある。今すぐにでも結婚したい。」
「苗字がカエルになるお嫁さんが不憫でならないわ」
「そ、それは僕は婿に入れば解決するのでは???」
「じゃあ、あなたは白雪・ノクスになるのね。」
「なんで、白夜さんと結婚する流れになるの?」
「しないわよ。結婚。私は。断固拒否。」
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