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第三章
第十三話 直球勝負、果たして結果は……
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「ここまでしてくれるなんて思わなかった。なんだか申し訳ないよ」
丁寧に磨かれた車が去ってゆく。
祭りの灯りを映しながら。
「さっきも言ったろ? 安全を第一に考えたら、これがベストなんだって」
「もうちょっとちゃんとした服とか、せめて浴衣でも着るとか、したかったな」
「十分決まっていると思うぜ。中身が良いなら何を着ていたって様になる」
祭りの方向を指差し、向かうように合図をする。
「湿っぽくなるからそういう話は無し。有難いと思ってくれるなら、とにかく楽しんでくれよ。その方がこっちは用意した甲斐がある」
「そうだね、ごめん。ちょっとびっくりしたみたい」
「少しはサプライズの気もあったから成功ってことだな。よし! 行こうぜ」
二人は祭りの屋台が並ぶ参道沿いに足を進めた。
「小さい祭りって聞いていたけど、普通のお祭りじゃない」
「そうか? ずっと見てきた祭りだから小さく見えるのかも知れないな」
兄に綿菓子を舐められて泣いている妹。
灯籠横に座り、焼きトウモロコシを食べながら談笑する三人の小学生。
浴衣にりんご飴という絵に描いたような彼女を連れて照れている彼氏。
楽しそうに話をしながら歩いている中年夫婦。
様々な人たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
そんな時の流れにお邪魔した二人。
屋台から聞こえる様々な音が歓迎してくれる。
そのおかげで既にそれなりの時間を過ごしているような気分にさせられる。
「早速何か食べる? たこ焼きとか定番からいっとく?」
木ノ崎が手を左右に大きく振って見せる。
まるで祭りの運営者なのかと錯覚してしまうように。
「ふふ。うん、たこ焼きいいね。食べながら歩いてみる?」
「よしきた!」
その後も夕飯替わりだからと少しずつ色んなものを口にする。
歩いていると屋台の途切れる場所がある。
社への道があるためだ。
その角で腰を下ろす。
「お腹いっぱいになっちゃった。でもお祭りは楽しいね。賑やかなのに、灯りが優しいから安心する」
「楽しんでもらえて良かった。その……気分が良いうちに伝えたいことがある」
「何?」
改めて早貴をじっと見る木ノ崎。
何を言われるのか待っている早貴。
祭りの賑やかさから少しだけ別の空間を作っていた。
「あのさ、綿志賀の事が気になっちまって。起きている事への心配で気になっているのも勿論あるけど、そうじゃなくて、さ」
早貴はその言葉に反応せず、話の続きを聞こうとしている。
言うのを待たれている以上、木ノ崎は何かを決心したようだ。
「俺とさ、付き合って欲しい。その気持ちを伝えたかったんだ」
驚いた様子の無い早貴。
実は慣れている瞬間だからだ。
軽く付き合う程度の彼氏なら数人いた。
いや、軽い付き合いしかしたことがない。
どの相手も長続きしないし、全員に振られている。
身近な人には良く知られている話だ。
本人は気づいていないが、学校一の美人が告白経験があるのは当然と言える。
早貴は女子として、純粋に恋人という存在がどういうものなのか知りたいだけなのだが。
毎回思い描いているような付き合いが出来ずにいる。
それでも夢は消えないようで、チャンスがあれば恋をしたいと思っていた。
「そう……だったのね」
一言呟くと足元へ目線を移す。
木ノ崎が気になって軽く顔を見るが、表情は曇っていない。
それを確認して答えが出てくるのを待つ。
「なんだか久しぶりな感じがする。そういうことは考えないでおこうと思っていたから」
両足を交互に動かしている。
次に言う言葉を考えているのか、以前の事を思い出しているのか。
二人の間に声音が無くなったことで、祭りの空間に戻される。
祭りに来ていることを改めて感じる頃、早貴は再び話し始めた。
「あのね、アタシも気を使ってくれる木ノ崎君の事、いい人だなって思っていたの」
再度二人の空間が作られる。
「でもね、まだそんなに話もしていないし、正直どんな人なのか全然知らない。だから付き合うのは流石に考えられないよ。ただ、そう思ってくれるのは嬉しいこと。だから、これまでよりお話したりするぐらいなら構わないわ。それじゃ、駄目かな?」
回りくどい言い回しは一切なし。
お互いに素直な気持ちを伝えた。
「……そうだよな。いきなり過ぎた、ごめん」
「全然悪くないよぉ。アタシ的には普通に接してもらって良いよってことだけど」
「だけど?」
「その……アタシには強いガードさんがいるので、普通に接するというのが難しいから」
「ああ、なるほど」
にっこりとしている早貴を見てホッとする木ノ崎。
しかし、難関があるということに困惑する。
「とうことは、普通には会ったり話したりできないのかな」
「うん、たぶん。アタシもガードされていることは嫌じゃないからね。今までのアタシを知っているからこそのガードだし、実は満たされてもいるのよね。」
「満たされている、とは?」
「気持ち? 心? そういう内面が、ね。なんか恥ずかしい言い方になるけど。強い味方がいる幸せを感じちゃっているのよ」
「……はあ」
分かったようで分からないような。
そんな気持ちが込められたものが発せられた。
「とりあえず電話とかさ、今日みたいに誘うのは大丈夫ってこと、でいいのかな?」
「うん。頻繁だとガードさんが怒っちゃって、アタシも困るけど、たまになら喜んで」
「それじゃあもっと興味を持ってもらえるように頑張らせてもらうよ」
「そんな風にはっきり言われると構えちゃいそう。気持ちは分かったから、びっくりしないようにさえしてくれれば嫌いになったりしないから。あ、付き合えるって前提じゃないからね?」
早貴は告白を受け入れはしなかった。
というよりは、その段階ではないとした。
確かに早過ぎたと木ノ崎も認める。
しかし、告白をしたことは二人の間に何かしらの一歩を踏み出させたのは確かだろう。
相手の気持ちが分かればお互いに意識の持ち方が決まる。
それが好意的であるなら敷居が下がる。
木ノ崎にとって大きな一歩を踏み出せた夜となった。
丁寧に磨かれた車が去ってゆく。
祭りの灯りを映しながら。
「さっきも言ったろ? 安全を第一に考えたら、これがベストなんだって」
「もうちょっとちゃんとした服とか、せめて浴衣でも着るとか、したかったな」
「十分決まっていると思うぜ。中身が良いなら何を着ていたって様になる」
祭りの方向を指差し、向かうように合図をする。
「湿っぽくなるからそういう話は無し。有難いと思ってくれるなら、とにかく楽しんでくれよ。その方がこっちは用意した甲斐がある」
「そうだね、ごめん。ちょっとびっくりしたみたい」
「少しはサプライズの気もあったから成功ってことだな。よし! 行こうぜ」
二人は祭りの屋台が並ぶ参道沿いに足を進めた。
「小さい祭りって聞いていたけど、普通のお祭りじゃない」
「そうか? ずっと見てきた祭りだから小さく見えるのかも知れないな」
兄に綿菓子を舐められて泣いている妹。
灯籠横に座り、焼きトウモロコシを食べながら談笑する三人の小学生。
浴衣にりんご飴という絵に描いたような彼女を連れて照れている彼氏。
楽しそうに話をしながら歩いている中年夫婦。
様々な人たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
そんな時の流れにお邪魔した二人。
屋台から聞こえる様々な音が歓迎してくれる。
そのおかげで既にそれなりの時間を過ごしているような気分にさせられる。
「早速何か食べる? たこ焼きとか定番からいっとく?」
木ノ崎が手を左右に大きく振って見せる。
まるで祭りの運営者なのかと錯覚してしまうように。
「ふふ。うん、たこ焼きいいね。食べながら歩いてみる?」
「よしきた!」
その後も夕飯替わりだからと少しずつ色んなものを口にする。
歩いていると屋台の途切れる場所がある。
社への道があるためだ。
その角で腰を下ろす。
「お腹いっぱいになっちゃった。でもお祭りは楽しいね。賑やかなのに、灯りが優しいから安心する」
「楽しんでもらえて良かった。その……気分が良いうちに伝えたいことがある」
「何?」
改めて早貴をじっと見る木ノ崎。
何を言われるのか待っている早貴。
祭りの賑やかさから少しだけ別の空間を作っていた。
「あのさ、綿志賀の事が気になっちまって。起きている事への心配で気になっているのも勿論あるけど、そうじゃなくて、さ」
早貴はその言葉に反応せず、話の続きを聞こうとしている。
言うのを待たれている以上、木ノ崎は何かを決心したようだ。
「俺とさ、付き合って欲しい。その気持ちを伝えたかったんだ」
驚いた様子の無い早貴。
実は慣れている瞬間だからだ。
軽く付き合う程度の彼氏なら数人いた。
いや、軽い付き合いしかしたことがない。
どの相手も長続きしないし、全員に振られている。
身近な人には良く知られている話だ。
本人は気づいていないが、学校一の美人が告白経験があるのは当然と言える。
早貴は女子として、純粋に恋人という存在がどういうものなのか知りたいだけなのだが。
毎回思い描いているような付き合いが出来ずにいる。
それでも夢は消えないようで、チャンスがあれば恋をしたいと思っていた。
「そう……だったのね」
一言呟くと足元へ目線を移す。
木ノ崎が気になって軽く顔を見るが、表情は曇っていない。
それを確認して答えが出てくるのを待つ。
「なんだか久しぶりな感じがする。そういうことは考えないでおこうと思っていたから」
両足を交互に動かしている。
次に言う言葉を考えているのか、以前の事を思い出しているのか。
二人の間に声音が無くなったことで、祭りの空間に戻される。
祭りに来ていることを改めて感じる頃、早貴は再び話し始めた。
「あのね、アタシも気を使ってくれる木ノ崎君の事、いい人だなって思っていたの」
再度二人の空間が作られる。
「でもね、まだそんなに話もしていないし、正直どんな人なのか全然知らない。だから付き合うのは流石に考えられないよ。ただ、そう思ってくれるのは嬉しいこと。だから、これまでよりお話したりするぐらいなら構わないわ。それじゃ、駄目かな?」
回りくどい言い回しは一切なし。
お互いに素直な気持ちを伝えた。
「……そうだよな。いきなり過ぎた、ごめん」
「全然悪くないよぉ。アタシ的には普通に接してもらって良いよってことだけど」
「だけど?」
「その……アタシには強いガードさんがいるので、普通に接するというのが難しいから」
「ああ、なるほど」
にっこりとしている早貴を見てホッとする木ノ崎。
しかし、難関があるということに困惑する。
「とうことは、普通には会ったり話したりできないのかな」
「うん、たぶん。アタシもガードされていることは嫌じゃないからね。今までのアタシを知っているからこそのガードだし、実は満たされてもいるのよね。」
「満たされている、とは?」
「気持ち? 心? そういう内面が、ね。なんか恥ずかしい言い方になるけど。強い味方がいる幸せを感じちゃっているのよ」
「……はあ」
分かったようで分からないような。
そんな気持ちが込められたものが発せられた。
「とりあえず電話とかさ、今日みたいに誘うのは大丈夫ってこと、でいいのかな?」
「うん。頻繁だとガードさんが怒っちゃって、アタシも困るけど、たまになら喜んで」
「それじゃあもっと興味を持ってもらえるように頑張らせてもらうよ」
「そんな風にはっきり言われると構えちゃいそう。気持ちは分かったから、びっくりしないようにさえしてくれれば嫌いになったりしないから。あ、付き合えるって前提じゃないからね?」
早貴は告白を受け入れはしなかった。
というよりは、その段階ではないとした。
確かに早過ぎたと木ノ崎も認める。
しかし、告白をしたことは二人の間に何かしらの一歩を踏み出させたのは確かだろう。
相手の気持ちが分かればお互いに意識の持ち方が決まる。
それが好意的であるなら敷居が下がる。
木ノ崎にとって大きな一歩を踏み出せた夜となった。
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