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第三章

第十二話 鉄壁の防御態勢

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「ちょっと行ってくる」

「え? 危ないでしょ」

「タクに聞いたら最近は問題が起きていないって。だから大丈夫よ」

 夜に差しかかかる頃。
 玄関から一人の少女が出ていく音がしていた。
 この家の長女、早貴だ。
 母である時子はタクと近況について話していたことを知らなかった。
 それもあって、娘を止めようとするが……。

「あれは、男ね」

 その様子を見ながらボソッと呟く次女。
 長女のことは母に負けず劣らずよく分かっている。

「もう。なんであの子は危なっかしいことばかりするのかしら」

「お姉ちゃんだからね。らし過ぎて何も疑問が湧かないけどなあ」

「親としては、分かっているからこそ心配するのよ。止めるのが親の役目だからね」

「よく肝に銘じておきます」

「香菜もそんな言葉を吐くようになったのね」

「これでも学年順位は上位ですから」

「……勉強とはあんまり関係ないけど。姉の影響が大きいんでしょうね」

 二人で玄関の方へ目線を向けて、苦笑いをした。
 その目線を向けられた早貴はというと。
 スクールバス亭から少し離れた場所に黒い大きなセダンを見つける。
 近所では見られないタイプの車である。
 それが約束の相手の物であることは容易に判断できた。
 早貴は車の窓を覗き込むようにする。
 明るい道路ではないので、動きでアピールをしてみた。
 するとドアが開けられ、約束の相手が顔を出した。

「もしかして、お金持ち?」

「はは。そうかもしれない」

「どう見てもそうだよ、これ」

「とりあえず乗りなよ」

 車の中に招かれる。
 小ぶりのカバンを前にしながら乗り込んだ。

「タクシーとは違うから、ドアは閉めてくれ」

「自動とまでは思わないよ」

 早貴がドアを閉める。
 ボディデザインに合わせるようにゆっくりと走り出した。

「ちょっとやそっとのお金持ちじゃないよね?」

「そうでもないんじゃない? 普通でしょ」

「普通はね、運転手って付かないんだよ」

「まあまあ。安全なら問題ないだろ? 安全第一を選んだ結果なんだが」

 今回の外出は夜ということもあり、特に安全を前提にした話だった。
 それを早貴の思っている遥か上のレベルで形にされたのだ。
 心配を打ち消してくれたことは感謝できる。
 ただ、それを表現する前に驚きが前に出た。
 言葉として発しなくても分かる様子である。

「やはりやり過ぎたのではないですか?」

 この日の依頼が来た時にそんなことを話していたのだろう。
 木ノ崎は運転手から問われた。

「いや、これでいいのさ。ここまでしていても、安全かどうか分からない」

「はあ」

「俺も綿志賀さんに何が起きているのかよく知らないから尚更だよ」

「そうだね。周りから危ないって言われたからこんな風にしているだけだからなあ。アタシもよく分からないのよ」

「でも、漠然としていても危ないって事には変わりないんだろ? ならやれるだけのことはやっておいた方がいいさ」

「……ありがと」

 軽く息を吐き出してようやく力を抜く。
 シートの背もたれに体を預けて緊張をほぐす。

「こんな話をしているうちに、もう着くよ。車で正解だろ」

「バスだと結構時間かかるのに、全然違うね」

 木ノ崎家の車は夏祭りの灯りが見える場所で停車した。
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