上 下
43 / 63
第三章

第四話 日常には裏がある

しおりを挟む
 ハイタッチ。
 恒例になってから十年になる。
 今でも続けていられるのは、二人の相性が良いということなのか。
 いや、そんな安いものではないのであろう。
 出会うべくして出会ったのか、果てしない程の偶然が出合わせたのか。

「じゃあね」

「うん。また話そ」

 手を振って別れる早貴と千代。
 この流れを十年。
 この先も続けていくのだろう。

「そっか。タクに連絡していないんだった」

 千代と別れて家に向かい始めると、必ず目に入るモノ。
 瀬田家の敷地を囲む背の高い並木。
 外から見ると、藪ではなく森の一部にしか見えない程だ。
 近所の人たちは日常に溶け込んだ景色なので気にしていない。
 しかし早貴は多駆郎の家をよく知っているために、意識する。
 連絡することを思い出しながら家路に向かう早貴。
 すれ違うようにして、瀬田家から出てきた女性がいる。
 助手として毎日出入りしている浜砂だ。
 どちらもお互いに気づくことはなかった。
 その様子をしっかりと記録していく男が一人。

「浜砂さんは時間っすね。毎日入り込める役なんてよくゲットするなあ」

 千代の家を確認して早貴を追いつつ浜砂を確認。

「まあ本部が手を回したんだろうけど。ご苦労さんです」

 早貴が家に到着するのを確認してから来た道を戻る。
 そして千代の家を睨みつつ駅へと向かう。
 静かな日向町では知らず知らずのうちにとある企みに巻き込まれているようだ。

「ただいま」

「おかえり。早貴さあ、瀬田さんと連絡は取り合っているの? 最近全然話を聞かないから」

「全然」

「ちょっと……危険かも知れない事が起きているって話なのに。どう動いていいかも分からないからちゃんと聞きなさい」

「今日ちょうど連絡するつもりだったから。ちゃんと聞くよ」

「言われる前にしなさいよ。連絡ずっとしていなかった時点でアウトよ」

「……ごめんなさい」

 綿志賀家では珍しく、時子が早貴を叱っていた。
 早貴にしてみれば丁度今日連絡をしようとしていたところ。
 しかし、母時子にしてみれば何もしていなかった娘。
 まるで小学生が勉強をやろうとしたタイミングで親に勉強しなさいと言われる状況だ。
 しかし早貴は高校三年生。
 小学生の頃に感じた気持ちは抱くが、そこで粘りはしない。
 良し悪しは分かる。
 連絡を取らなさ過ぎていたことは重々承知している。
 自身の反省へとシフトし、多駆郎への連絡を最優先とした。
 夕飯後の自分の部屋から多駆郎に電話を掛けてみる。

「タクからも何も無いのよね。アタシからというよりはタクから連絡が無い方が心配ね」

 コール音を聞きながらそんなことを考える。
 考えているとコールは四~五回鳴っていた。

「出ないなあ。忙しいのかな」

 『忙しい』の一言で片づけるのは簡単だ。
 しかし余りにも連絡が無さ過ぎる。

「何か起きているとか? だから連絡が無いとしたら……家に行ってみようかな」

 コールが留守番電話に代わった。

「でも家には行っちゃだめだし。どうしたらいいのよ、タク」

 結局その夜は何度か連絡をしてみるも全て不発に終わる。
 早貴の不安だけが募るばかりであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

井の頭公園で体育会系女子を拾ったこと

藤田大腸
ライト文芸
日課にしているランニング。いつものように井の頭公園を走っていたらボートを無茶苦茶に漕いでいる女に出くわして…… この作品は四年前に私の周りで多摩地区を舞台にした百合小説を書こう、という企画がありましてそのために書いていたものです。しかし企画は自然消滅してしまい、書きかけでずっと塩漬けになってそのまま忘れていました。しかし先日いきなり思い出したのでちゃんと完成させて出すことにした次第です。

女の子なんてなりたくない?

我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ――― 突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。 魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……? ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼ https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

魔法少女さん、私を助けて!

羽黒 楓
ライト文芸
生命保険会社の法人営業部、セールスパーソンの私は、魔法少女ミスティシャーベットに恋をしていた。 逢いたくて逢いたくて。 わざと危険に飛び込めば、必ず彼女が助けにやってくる。 だから、私はいつも自分から危険な場所に赴くのだった。 そんなあるとき、男たちに襲われたのに、魔法少女はいつものようには現れてくれなかった……。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...