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Folge 83 男風呂と芳香

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「なあタケル」

「うん、静かだね」

「まだ何も言っていないぞ」

「僕が思ったから兄ちゃんもかなって」

 タケルと二人きりで男風呂。
 まだ古びる程築年数も経っていないようで。
 ログハウス感をしっかりと演出する丸太で囲まれている。
 湯船も広々。
 当然、脚が伸ばせるが気を抜くとズルズルと頭まで浸かってしまう。

「公衆の風呂ってさ、よく隣から声が聞こえたりするよな」

「だよね。てっきり姉ちゃんたちが遊ぶんだろうと思っていたよ」

 湯船の枠がとても綺麗に保たれている。
 よく手入れされているんだな、なんてぼーっと考えて。

「それは思った。桶の一つや二つ飛んでくるのを覚悟していたよ」

「あはは。聞こえたら絶対怒られるね」

「だな」

 湯船から床、壁、天井へ。
 目線をパンやチルトさせる。
 家の風呂なら掃除が大変そうだ。

「兄ちゃん、疲れていない?」

「ん?」

「だって全員を相手にしているの、兄ちゃんだけだよ」

「……そう言われると疲れを感じ出した」

「あはは、ごめん」

 天井からタケルの顔へ。
 とてもいい笑顔をしている。
 こいつの笑みレベルは高すぎる。
 釣られてこちらもニヤニヤしてしまうんだ。

「こんな静かな時間があるとは思わなかったからさ。兄ちゃんには良かったなあと思って」

「お前は優しいなあ。静かで広い風呂でタケルとゆっくり話す。いい癒しだよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな。兄ちゃんにはいっぱいの良い事に包まれていて欲しいから」

 なんというできた弟。
 今、肩の力がスッと抜けた気がした。
 涙が出そうだぞ。
 ちゃんと兄をやれているのかな。
 時々自信を無くしそうになる。
 それを弟妹はフォローしてくれる。
 助けられてばかりだと思っていた。

「色々コンプレックスもあるけどね、兄ちゃんがいるから気にしないでいられるんだ~」

「助けになれているなら一番嬉しいなあ」

 そろそろホカホカになってきた。
 フラフラになる前に出ないとな。

「出るか」

「そうだね」

 皆まで言わずとも分かる。
 そういう面もシス&ブラコンになっちまった理由だろう。
 ……後悔は全くない。

 服を着てから休憩スペースに向かう。
 眠りかけた時に女子たちが現れた。
 それでも眠気が覚めない。
 ボーっとみんなの様子を眺めながらの休憩。
 美少女四人が乾かしたての髪を束ねずにいる。
 シャンプーの匂いに包まれ出した。
 ここで思わず深呼吸をしてしまうのは男だからでしょうか。
 男ってとことん駄目だね。
 でもね、好きだもん。
 誰にもバレていないし。

「兄ちゃんがとろんとしていて可愛いよ」

「そうね。でも少し休ませてあげましょ」

 さすがカルラ。
 そうなんだ。
 血行が良くなったら一気に眠気が……。

「ねえ、フランツィスカ」

「何よ」

「頬っぺたツルツルね」

「当然よ。そうじゃないと兄ちゃんが喜べないでしょ」

「小さな産毛もいい感じ」

「そうなの?」

「フランツィスカって可愛いわね」

「それはカルラも可愛いってことよ」

「ふふふ。サダメが病みつきになるように可愛くないとね」

 ちょっとお。
 なんだよこの二人。
 滅茶苦茶可愛いんだが。
 また名前をフルで聞くのも久しぶりだなあ。
 それに触れないツィスカ。
 二人きりだとカルラはフルで呼んでいるのか。
 オレに対しての二人しか知らないんだよな。
 だから妙に新鮮だ。
 ああ。
 一緒に寝たいんだが。
 ……これ、禁断症状か!?
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