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Folge 82 温泉と妄想

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「みんなバーベキューだ!」

「あはは」

 食後のお片付け。
 突然ツィスカが叫び出した。
 理由が分かったのか、カルラが笑っている。

「どうしたんだ?」

 一人一人、一嗅ぎして回って答えた。

「今みんな美味しいよ、きっと」

「煙の匂いが付いたからってことみたいよ」

 ああ。
 お寺の常香炉的な?
 ご利益は……腹いっぱいの食べ物?
 どんなことでも思いっきり楽しめるのがツィスカだ。
 満喫できていそうで良かった。

「ツィスカ、はしゃいでいるね」

「だな。バーベキューは好きだったか」

「みんなとワイワイ食べるのが好きだから」

「全員そういう食べ方が好きだもんな」

 明らかにテンションが上がっているツィスカ。
 たぶん、突然スイッチが切れるパターンだろう。
 やれやれ。
 就寝時間はツィスカが決めそうだな。

「それでは、匂いを落としに行きましょうか」

「お風呂!」

「そうです。それも温泉ですよ!」

「温泉!」

 ツィスカが酔っ払っている。
 バーベキュー酔いってあるのか!?
 煙酔いかな。
 温泉は少し離れた所にあるという話だった。
 夕飯をバーベキューにしたのは温泉に入るからかも。
 後で洗い流せると考えればあり得る。
 温泉を楽しむ付加価値にもなるか。
 普通の風呂とは違い、温泉なら雰囲気も味わえる。
 遠出の定番だとは思うけれど、間違いのない選択だ。
 特に藍原家は旅行そのものが珍しい。
 定番であることが助かる。

「とりあえず片づけはこれで良しとして、着替えを用意しましょう」

 美咲の指示に全員従う。

「モノを積んだだけになっているけど、洗いとか返却分を運ぶとかしなくていいの?」

「戻ったら私がやっておきますから。今はみなさんが楽しみにしていることを優先したいので」

「なんだか悪いよ。戻ったら手伝うから、始める時に絶対呼んでくれ」

「サダメちゃんがそう言うのなら。絶対にお声掛けしますね」

 この主従はムズムズする。
 オレは平凡な一般人。
 身分が高いわけではない、。
 だけどさくみさは、どうも決めたら徹底するタイプ。
 主従関係と認識してしまった現状。
 それを変える何かが起きるまではこのままなのだろう。
 ヘタに口を出せなくなってしまう。
 その反面、美女二人を意のままに操れてしまうのでは!
 と考えてみたりして。
 男はいけませんねえ。
 二人共に好かれているだけで満足しろよ、自分。

「サダメちゃんを呼べる口実が。ふふ、ふふふ」

 ん~と。
 美咲は時々モードが切り替わるよな。
 時々覗かせる怪しい感じ。
 あのミルクを飲んだ時の……。
 あちらが本当の美咲だと思うんだよ。
 ミルクは解放させているんだろうからさ。
 普段は気持ちを抑えている結果、丁寧語になりがちなのだと。
 だから丁寧語の美咲には、我慢することないよと言いたいんだ。

「サダメー!準備できたの?」

「ごめん、今からだ」

「置いて行っちゃうぞ? その時はボクも一緒だけどさ」

 咲乃も隙あらばってのを常に狙っているなあ。
 嬉しいな。
 今じゃこちらの方が一緒にいて欲しくなっているのに。
 さて、いよいよ温泉だ。
 意気込むようなものではないのだろうけどさ。
 妙に気持ちが昂るんだよな。

「兄ちゃんと温泉! 兄ちゃんと温泉!」

「いや、一緒に入るのはマズいんじゃないのか?」

 混浴とかあっても、外の風呂では気が引ける。
 家のように入りたいのは山々さ。

「美咲ちゃん、混浴とかないの?」

 カルラよ、それを狙うのか。

「残念だけど無いの。私も温泉でサダメちゃんと一緒に入れたら嬉しいのに」

「いつも美咲は遠慮するのに、温泉だと積極的になるんだな」

「当然一緒に入りたいですよ。でも、なんだか恥ずかしさが勝ってしまって……」

「外だと気持ちが勝ちやすいってことかな」

「なのでしょうね。……一緒に入りたいです」

 なんだよ。
 美咲がとろんとした眼を向けている。
 そんな表情は他の連中よりずっと少ないのに。
 胸がキュっとするだろ。
 その……構いたくなるじゃないか。

「あたし達がいるから入ったとしても二人きりにはならないけどね!」

 長女マウントが来た。
 徹底したガードだ。
 でも最近は半分本気で半分遊びになっているような。
 別荘から出発し、そんな話をしながら歩いた。
 するとあっという間に到着する。
 賑やかだと時間が経つのは早い。

「ここですよ」

 別荘と同じようにログハウス風に作られた建物。
 外観からではとても温泉とは思えない。
 コテージのように見える。
 この辺りの別荘はログハウス系が集まっているようだ。

「さて、入りますか!」

 気合を入れてタケルと肩を組んで男風呂を目指す。
 残った女子は全員残念そうだ。
 ……そんなに!?
 やっぱりさ、妹はまだわかるんだが。
 さくみさはちょいと考えてしまうぞ。
 その辺の壁をあちらは取り除いてしまったようだ。
 あ……主従関係。
 それが大きいのかな。
 男風呂に来い、とか試したくなる。
 いやいや。
 主として失格だ。
 待てよ、主の特権?
 ――――何を考えているんだか。
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