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Folge 81 BBQ

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「目が、目があああ!」

「食欲をそそる目くらましね」

 家族で食べる初めてのバーベキュー。
 香ばしい煙幕に翻弄されながら食を進めている。

「痛いけど美味しいね」

「なぜこんなに苦労しながら美味しい思いをしているのか」

「ふふふ。サダメちゃん、こちらに来ると少しは楽ですよ」

 美咲に呼ばれて移動。
 お?
 ちゃんと見えるじゃないか。

「これなら美味しいだけになるな」

「それは良かったですね。まだまだ食材はありますから」

「なんで兄ちゃん平気なの? あたし一口も食べられないよ」

 ツツツっとオレの傍に来たのはカルラ。
 自分の分とオレの分を取り分け始めた。

「ああ、そういうことか」

 タケルも鉄板の対面に移動。
 ツィスカ以外は横一列に並んでいる。

「あたし一人だ。なんでよお。一人にしないで」

 美咲を押しのけるようにしてオレの横に来た。
 いつでも妹にサンドウィッチ。

「ああ! ここなら目が見えるじゃない。ずるい」

「風の向きってだけなのよね」

「よ~し、それじゃあ……」

 鉄板の熱さと格闘しながら焼けたモノを回収。
 皿の上は山盛りだ。

「そんなに食べたらお腹が苦しくなるぞ?」

「はい、兄ちゃん。たぁんとお食べ」

「ツィスカばあちゃん!?」

「失礼ね。カルラよりたくさんよそってあげたのよ? 喜んで」

 これ、オレの分か。
 カルラがそれなりに盛ってくれているんだけどなあ。
 腹が苦しくなるのはオレのようだ。

「ありがと……ちょっと多いぞ、これ」

「なので、たぁんとお食べ」

「はい。たくさん食べさせたいんだな。……頑張るか」

 と言っておかないと姫が旋毛つむじを曲げてしまうからね。

「わたしのは無理に食べなくていいわよ。タケルにあげるし」

 耳元にカルラホットラインが届いた。
 姉に譲るらしい。
 それを可愛く思うと踏んでのことかな。
 はい。
 可愛いと思いました。
 カルラに有効ポイントが加算されたようです。


 ◇


「食べた食べた。もう入らないぞ」

「アイスクリームがありま~す」

「お、デザートがあるのか」

 女子か。
 腹一杯なのに締めを食べたくなる衝動。
 食欲って怖いな。

「バニラアイスです。掛けるものもあるので、お好みでどうぞ」

 チョコクリーム、ハチミツ、イチゴジャム、ブルーベリージャム……
 他にもたくさん用意された。
 なんでもあるのな、この別荘。

「普段いないのにこういうのとか食材とか、備蓄されているの?」

「いえいえ。ウチの知り合いの方にお話ししておくと、いつも何か届けてくれるんです」

「へえ。流石に食材の備蓄は無理があるか」

「家から持って来るのも大変ですし。一泊なら持って来るのも考えたのですけど」

「使えるものは使おうってことだよ」

「咲乃、言い方ってものがあるだろうに」

「小さい頃ボクが迷子になってさ、川に落ちかけた時に助けてくれた人なんだ」

「それから私たちのこととなると、何かと気に掛けてくれるようになって……」

「恩人じゃないか。なおさら使えるものってのはどうかと思うが」

 ベロを一瞬出して見せた。
 咲乃、お前も可愛すぎるんだよ。
 そういう仕草が似合うって魅力の成せる技だと思う。
 見事に悩殺されている人がここにいます。

「ちゃんと感謝しているから。今回もお話しいっぱいしたしね」

「連絡をした時に長い事話し込んでいましたよ」

 ああ、良い子だった。
 言葉と裏腹の行動があるんだよね、咲乃は。
 そこかな、魅力と感じてしまうのは。
 心は相当に綺麗な子だ。
 だから守りたくなるんだろう。

「なんだか羨ましい関係だな。良かったね、大切にしてくれる人が居て」

「もちろんそうなんだけどさ、サダメも……その一人で居て欲しいな」

 おっと。
 そのトロンとした眼!
 やめなさいって。
 好き度が跳ね上がるから。

「ただその一人ってだけじゃなくて、一番大事にしてくれる人になってよ」

 はい、もうだめ。
 すでに開けてある心の扉。
 そこに投げ込まれると落ちるんだってば。
 女の子は配球が上手すぎでしょ。
 がっちり掴まれちゃったよ。

「はあ。かなわ――」

「あああああああ!」

 へ?
 何?

「ちょっと喉がすっきりしないから発声よ。失礼したわね」

「ツィスカちゃん。今ボクにとっては重要な言葉を聞けるはずだったんだよ?」

「何のこと? あたし、何かしたっけ」

 妹ガードが発動されました。
 こういうことに敏感なツィスカ。
 風の噂というものがある。
 この妹ガードによってオレへの告白が全て消されている、と。
 弟妹のようにモテているとは思えない。
 なので単なる噂なのだろうな。

「一度ツィスカちゃんとは、ゆっくりと話し合う必要があると思うんだ」

「兄ちゃんとの時間が割かれるからしないわ」

 ツィスカのスキル、鉄壁が発動されたようです。
 この子達って、本当にオレを好きでいいのかな。
 妹はまだしも、さくみさって……。
 ああ、妹は妹だし、妹だから離れないし、妹なので離しません。
 妹から好かれていないと落ち着かない。
 妹も好きでいてくれるらしい。
 だから安心して妹を好きでいられる。
 妹バンザイ。
 たぶん、ゆっくりと話すべきはオレとさくみさなのだろうな。
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