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Folge 27 体験版

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 さて。
 咲乃が登校を再開した週の最終日。
 金曜日だ。
 火、水、木は症状も軽くならなくて大変だった。
 途中保健室で休んだり、突然教室を飛び出してトイレに駆け込み吐いたり。
 毎日ヘトヘトになっていた。
 そして今日もオレにしがみ付いての教室入り。
 クラスメイトも慣れてきたようだ、とオレは思い込んでいる。
 じゃないと、あの目線に耐えられない。

 咲乃は、当然だが双子の姉である美咲と同様に美人。
 雰囲気に多少の違いはあるものの、髪型から制服の着こなしまで同じ。
 若干咲乃はスカートを短めにしているぐらいかな。
 初見の人ならどちらか分からないだろう。

 そんな子が男子と腕を組んで毎朝登校してくるわけだ。
 おまけにその相手がオレ。
 オレは弟妹好きな上に、妹と付き合っていると噂されている。
 その所為で毎日白い目で見られている身。
 噂は本当なので何も言い返せないのだけど。
 そんな奴が美人で有名な女子の妹と毎日くっついている。
 視線が優しいわけがない。
 オレが吐きそうだよ。

「ようようおはようお二人さん。咲乃ちゃんはどうですか?」
「裕二おはよう。今日は……どう? 咲乃」
「うん。今日はね、昨日までよりマシみたいなんだ」
「だそうだよ」
「おお! そりゃ良かったじゃない。なんだかんだで金曜日までがんばったね、偉い!」

 あのな。
 そういうセリフはオレが言いたいんだよ。
 裕二はオレの一番言いたいことを全て持って行っちまう。

「ありがと。でもね、それはサーちゃんに言って欲しい事なんだよ」
「おっと、これは失礼しました」

 裕二は敬礼している。相変わらず軽いなあ。
 しかし驚いた。
 咲乃はオレの気持ちが分かったのかと思った。
 というより、そのままの意味でオレの言葉として聞きたかったのか。
 なんだか嬉しいな。
 つい、頭を撫でてしまう――ってここ、学校じゃないか!
 咲乃は上目遣いでにっこりしている。

「あのさ、すっかりカップルになっていると思うんですけど、お二人さん」

 はっ!
 そうか、そうなってしまうんだ。
 痛い視線を気にしないためにも、咲乃の目を見ていよう。 

「いや、付き合っていないから」
「見つめ合ったままで言われても、説得力ないんだよなあ」
「ボクは早く、付き合っているよって言いたいんだけどね」
「あれま。じゃあ後はサダメ次第だと?」
「そう。サーちゃんって、心の扉が頑丈なの。なかなか突き破れないんだ」
「それじゃあ咲乃ちゃんの熱い想いで火矢を飛ばして、サダメに火をつけようよ」
「う~。ずっとそんな感じで攻めているんだよっ」

 まだオレを上目遣いで見つめたまま話している。

「でも、開かないんだ。妹さんには扉が全開なんだけどね」

 ほらほら。
 そういうこと言うからオレに痛い視線が突き刺さる。

「咲乃、ここで妹の話はご法度だ。そこはよろしく頼む」
「あ、ごめんねサーちゃん。ごめんなさい。気を付けるね」

 上目遣いを続けたまま今度は目をうるうるさせている。
 そんな表情されたらなんでも許してしまうじゃないか。

「わ、わかってくれればいいから」
「あれまあ。咲乃ちゃんはサダメに対して随分と弱腰になったんだねえ」
「離れたくないからね。絶対離したくないから」
「くっついてないんだけどなあ」
「サダメ君。まだそれを言うかね? いいじゃないか、これだけ思ってもらっているんだから」

 う~ん。
 確かに付き合えない理由があるのかと問われると……。
 無いんだよね。
 どんな子か分かっている今となっては。
 実は壁を無くしているんだよ。
 これってもう、付き合えってことなのかな。
 でも、最初に告白してくれた美咲の気持ちは?
 最近美咲はオレに対して告白当初のようなアプローチは一切して来なくなっている。
 やはり、タケルと……。
 あ、それは置いておくんだった。
 ああもう! わからないんだよ!

 ◇

 朝、散々裕二を交えて話してからあっという間に全ての授業が終わった。
 今日の咲乃は、明るい表情にはなれないようだったけど、酷い症状は出ずに過ごせた。
 初めて一日無事に過ごせたんだ。前進できて良かったなあ。
 下校途中にそんなことを思いながら歩いていると、無意識に咲乃の頭を撫でていた。
 咲乃の腕への抱き着きが強くなるまでそれに気づかずにいたよ。

「あ、ごめん」
「何が?」
「撫でていたからさ」
「今更何言っているの? 今日だけでもボクの頭を何度も撫でてくれているよ」
「そう、だな。よく頑張ったなって思ったらつい、ね」
「今日乗り切れたのはそれもあったと思う。サーちゃん、ありがと」
「一緒に登校しているだけだし、何もしていないぞ」
「一緒に登校してくれていることが凄いんだよ」
「はあ」

 まいっか。咲乃がニコニコして調子が良ければ。
 あれ?
 それって、妹たちに思うことと一緒じゃないか?
 う~む。
 ということは、もしかして裕二が言っていたことって――。
 付き合っているようにしか見えないというより、もう、そうなのかな。
 その方が自然なのかな。
 そういえば、何か忘れているような……美咲って、どこ?
 冷静になってみると、後ろから付いてきている足音が聞こえる。
 当然振り返ってみる。

「美咲、何か喋ってよ」
「あら、とても私が入り込む余地はありませんでしたけど」
「そんな。オレは咲乃に付き添っているだけで、姉の美咲が存在消しちゃだめだろ」
「そう言われましても。私がサーちゃんにくっついて歩いているようで、なんだか不思議なんですよ」
「ああ。双子だから楽しめる部分? ってやつなのかな。でもね、話には参加するようにね」
「わかりました。それじゃ、咲乃とサーちゃんを挟んじゃいますか」

 はは。
 妹以外で双子から挟まれるなんてこと、考えもしなかったよ。
 なんて言っているうちに藍原家が間近に迫ってきた頃、

「兄ちゃん!」

 よく通る元気な妹の声がした。
 二人共走ってくる。
 その二人の後ろにもう二人の姿が見える。
 いつの間にかオレから離れていた美咲とタケルが道角で話していた。
 やっぱりそういうことなのかな。

「兄ちゃんってばっ! あたしへの反応が薄すぎだよ!」

 あたた。
 ツィスカに思いっきり体当たりされた。

「おかえり。ツィスカ、そのぶつかるまで突進してくるのをなんとかしてくれよ」
「じゃあちゃんとした反応しなさいよ! 彼女が呼んでいるんだから」
「いつもならまだ構わないんだけどさ、今は咲乃も一緒なんだから危ないだろ?」

 今気づいたかのような顔をして咲乃を睨みつけ始めた。

「いいわよね、咲乃さんは。同じ学校で一日兄ちゃんと一緒にいられてさ」
「ごめんなさい。ボクは今一日学校にいることだけが目標なだけで」
「ツィスカ、そんなに咲乃を責めるなよ。オレがいるだけでその目標を達成できているんだぜ?」

 ツィスカはお得意の腰に両手の甲をあて、仁王立ちなポーズをとる。
 もうツィスカポーズと言っていいのかも。

「わかっているわよ。これはちょっとした嫉妬。それぐらい言わせなさいよ」
「わたし達ね、今日話し合ったのよ。この一週間の様子について」

 カルラもツイスカの横に並んで何やら話し出した。
 二人で畳みかけてくるお話は毎度圧倒されるよ。

「咲乃さんの事情はよくわかったし、何がきっかけで症状が良くなるかなんてわからないわよね。でも、そのきっかけがサダメなら、いっそ傍にいさせてあげてはどうかってことになったの」

 へ!?
 それどういうこと?

「ま、要するにあれよ、その、体験版お付き合いをしてみたらどう? って彼女からの提案よ」

 それ凄い提案だな。
 彼女から体験で彼女になれという提案。
 聞いたことねえ。

「ほんとに!? ボク、サーちゃんの彼女になっていいの?」
「あの~、オレの気持ちは?」
「兄ちゃんは決められないんでしょ?」

 あ、見透かされていた。
 ってか分かるよな、この妹達なら。

「困っている人や弱っている人を無視できないんだから」

 妹二人は同時にため息。なんだか、すみません。

「だから、咲乃さんのためではあるんだけど、兄ちゃんのためでもあるの」
「わたしたちがいない時間はサダメのこと、咲乃さんよろしくお願いしますね」

 咲乃がここ最近で一番の笑顔になっていた。
 そして、その笑顔をオレに向けて見せてくる。
 こうなると、この子は可愛いや。
 はぁ、オレの負けです。

「でもね咲乃さん、体験だから。お試しなの。それを忘れないでね!」

 ツィスカが釘を刺している。
 妙に嬉しかったりして。
 オレってつくづく妹が好きなんだな。
 我ながら困ったもんだ。

 にしても、咲乃と付き合うのか。
 付き合うってどうするんだろ。
 今までと何が違うんだろ。
 実は、わかんねえ。
 だってさ、妹とは仲良くしているだけだし。
 他の人と仲良くせずに彼女とだけ仲良くするってこと、と違うのかな。
 わっかんねえ。
 言われて付き合うってのも良くないと思うけど、体験だもんね。
 オレとしても体験版か。
 気楽にやってみますか。
 それで、いいんだよね?
 ああ! わっかんねぇ!
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