【総集編】 1分怪談短編集

Grisly

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霊能力者

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俺は霊能力者。

これが問題なのだが、
霊能力者にも色々ある。

俺は、幽霊の声が聞こえるタイプなのだ。
これは確実。
こんな能力を持ってしまったばかりに、
依頼が絶えない。

しかし、大抵は期待に添えないので
基本的に断る事にしているのだが。




今日も依頼がやって来た。

「家に取り憑いた幽霊を
 説得して追い払って頂きたい。」

ああだめだ。
このような依頼は、受けられない。
霊媒師に頼んでくれ。

声が聞こえても俺ではダメなのだ。
散々理由を説明したが、
納得してもらえない。




仕方なく、現地に行き、霊と対話を試みる。

「お前は何故この家に恨みを持っている」

「昔仕えていた主人が、
 私を泥棒に仕立て上げた。

 そのおかげで、生活は立ち行かなくなり、
 職にもつけず、一家心中。
 その恨みなのだ。」



そのことを伝えると、
依頼主は押入れで見つけた
家系図を持ち出し、
誤解を解いてくれとせがむ。

仕方ない。給料をもらっている手前、
やる事はやらなければ。

「いいか。これを見ろ。
 ここの一族は、
 全くその主人とは血縁関係が無い。
 
 お前が恨みをぶつけている
 相手は筋違いだ。
 
 早く成仏しなさい。」


「うらめしや。」


「うらめしやじゃないだろ。
 筋違いなんだ。
 
 そこの家系はこの家では無いのだ。
 この家系図を見れば分かるだろう。
 
 もう遠くの昔に、
 S市に引っ越している。」


「うらめしや。」

ああだめだ。こうなってしまっては、
もう手の施しようが無い。

幽霊とはこのような物だ。
何に恨みを持っているのか。
これは明確に答えられる。

しかし、その他の事となると、
全く要領を得ず、
いかなる交渉も意味を成さないのだ。





 
考えてみれば当たり前だ。
「恨み」とはそもそもそう言う物である。
因果応報などと言うのは理想論に過ぎない。

仕返しが怖くない相手にぶつけて初めて
それは消化されるのだ。

もし鶏が毒を持っていたら、
誰も鶏肉を食べようとは思わない。

もし裁判の裁定と、刑の執行を
原告が全て行うのなら、
裁判なんてしようと思わないだろう。
そもそもそんな物、裁判とは呼ばないのだ。


どんな形であれ、
食う物食われる物。
そう言う事なのだ。

幽霊等、時間が経ち過ぎ、
呪う相手も死んでしまって、
もう何を恨んで良いのかも
あやふやな状態となれば特に…





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